京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『光』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年6月2日放送分
『光』短評のDJ's カット版です。

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視力がしだいに失われゆく写真家の雅哉。視覚障害者向けのバリアフリー映画上映の音声ガイド用に原稿を作る美佐子。奈良の街に暮らすふたりの心模様を軸に、人にとって何かを失うとはどういう事なのか、そして光と影の芸術である映画そのものについても考えさせる作品です。
 
監督・脚本・編集は河瀨直美。『あん』に続いての出演となる永瀬正敏が写真家の雅哉を、そして美佐子を水崎綾女(みさきあやめ)が演じる他、映画内の映画を監督し主演する役柄として藤竜也、美佐子の上司と劇中映画の女優として神野三鈴(かんのみすず)、さらには、ある大事な役柄で『あん』で主演した樹木希林が登場します。

あん DVD スタンダード・エディション 萌の朱雀 [DVD]

先日この番組に監督がゲスト出演いただきましたね。97年の長編デビュー作『萌の朱雀』で新人監督賞カメラ・ドールを、そして2007年の『の森』では審査員特別賞のグランプリを獲得してきた河瀨さん。10年ごとにカンヌで大きな賞を獲っていて、しかもいずれも奈良が舞台でした。今回も10年経って、また舞台は奈良。第70回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品ということで、トップに当たるパルム・ドールへの期待がかかりましたが、惜しくも及びませんでした。それでも、キリスト教関連の選考委員が精神性の高い作品を選ぶエキュメニカル賞を獲得。青山真治監督の『EUREKA』に次いで、日本人監督としては二人目の快挙となりました。
 
それでは、先日監督に直接ぶつけた点も踏まえつつ、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

河瀨監督の作品すべてを観ているわけではないんですが、喪失感を抱えた人間がどう再生するのか、あるいは人生に一筋の光明を見出すのかといったテーマを据えることが多いように思います。その意味で、今回はまさに集大成。ひとつの到達点でしょう。美佐子の父は蒸発していて、母は認知症を患っている。いずれも、これまでにあったモチーフです。ただ、そんな彼女が映画の音声ガイドをしているという設定がとてもユニークです。これは、台詞よりも映像にはっきりと重きを置いてきた監督の言葉の再評価と考えていいでしょう。映画を構成する要素、映像、音楽も含めた音、言葉、そして観客の想像力。監督は今作でこうした要素を一度バラバラにして吟味し、それらを再構築するような、つまりは映画そのものについて考える作業を行っているのだと僕は思います。その証拠に、鑑賞後にも言葉が残ってるんです。たとえば、「目の前から消えてしまうものほど美しい」なんて、その筆頭です。これは、以前なら、監督は言葉にしなかった、言葉にするのを避けたと思うんですが、今回はとてもいい働きをしていました。
 
音声ガイドは映像を感知できない人とも映画を共有しようという役割ですが、僕もラジオという音声メディアで映像について毎週語っているわけで、その難しさはよく分かります。ガイドの出来栄えを視覚障害者立ち会いのもとにチェックするモニター会が節目節目で出てきますが、そのたびごとに、美佐子は映画への理解と想像力をたくましくしていきます。そうするうちに、言葉にすることと言葉にしないことについて、思いを巡らせることになる。
 
一方、そのモニター会で美佐子が知り合う雅哉は、文字通り光を失いゆく存在。写真家ですから、それは致命的なことなんだけれど、僕はここでも言葉に注目したい。写真家の表現は、当たり前だけど、映画以上に映像のみなわけです。その映像から離れざるを得なくなっていく雅哉が美佐子との交流の中で再評価するのは、やはり言葉なんじゃないでしょうか。ふたりは映像を介して知り合い、距離を縮めるんだけれど、心を開くのはその言葉による部分が大きいのではないかと。
 
堂々巡りするようですが、そんな言葉の再評価は、あくまで映画というメディア全体の中でのことなわけで、台詞に重きを置いた分、じゃあ、他の要素の価値が下がっているってことじゃなくて、むしろ、その逆。強力なスタッフの力を借りて、河瀬監督はこれまで以上に映画の表現の密度を上げることに成功しています。
 
中でも、写真家出身でこれが劇映画デビューの撮影監督百々新(どどあらた)さんが素晴らしい。写真のような構図。自然光の繊細な表現。これまでよりアップが多い人物描写の的確さ。映画movieは、写真が動いているものだって久々に思い出しました。それから、奈良の雑踏の音までデザインした録音のRoman Dymnyさんもすごい。
 
視覚障害者とか、親が失踪とか、特殊な人の話に思えるだろうけど、そうじゃない。人は誰でも何かを失いながら生きていくわけで、それをより分かりやすくする設定なんです。こういう事を話すと、理屈っぽいと思えるだろうけど、むしろとても分かりやすいです。河瀬直美監督の作品をこれから観るなら、『あん』と『光』の2本がオススメですってはっきり言えます。彼女の作家性がとっつきやすい形で味わえますから。
 
トーリーのネタバレじゃないから言っていいでしょう。最後の方に、バリアフリー上映が行われている映画館のお客さんたちの顔がたくさん写ります。一般の人です。役者じゃない。ドキュメンタリー出身の監督は、デビューの頃から使っている手法ですが、今回が一番ハマっていると思います。「映画っていいもんですねぇ」としみじみ感じる場面でした。それをあなたも映画館でご覧ください。好き嫌いは別にして、河瀬直美さんみたいな監督の作品が、日本で、しかも地元関西で映画館いっぱいにならないってのは絶対にダメ! とりあえず、何はなくともご覧ください。


さ〜て、次回、6月9日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ローガン』です。マーベルはどんどん出してくるね。どこまで復習しようかしら。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『メッセージ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月26日放送分
『メッセージ』短評のDJ's カット版です。

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ある日突然、世界のあちこちに巨大な「ばかうけ」、違う、巨大な「コンタクトレンズ」、違う、宇宙船が出現。そこには知的生命体が乗っているのだけれど、当然ながら言語体系がまったく異なるために、意思の疎通が図れない。困った米軍は言語学者のルイーズと物理学者のイアンを対策チームに招聘。宇宙人が地球にやって来た目的は何なのかを探っていきます。

あなたの人生の物語 ブレードランナー ファイナル・カット(字幕版)

原作はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』。SFマガジンの海外短編部門でオールタイムベストSF1位を獲得しています。監督は、今年10月に『ブレードランナー 2049』の公開も控えているドゥニ・ヴィルヌーヴ。主人公ルイーズをエイミー・アダムス、そして物理学者イアンをジェレミー・レナーが演じています。
 
新海誠片渕須直樋口真嗣押井守など、日本を代表する監督達が絶賛しておりますが、僕野村雅夫はどう観たのか。それでは、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

優れた映画は素敵な山と同じで、色んなアプローチが可能。どのモチーフで語るかによって、見えてくるものが変わるものです。今回僕が着目したのは、言語と時間です。
 
未知の生命体を相手にまったくコミュニケーションが取れず、困り果てた米軍は、ルイーズに彼らが発する音声をレコーダーで聞かせるんですね。でも、ルイーズは「姿形も分からないのに、この音だけでは、これが言語なのかどうかすら分からない」と言います。そこで、米軍は彼女を宇宙船へと連れて行き、宇宙人が地球人との面会用に使う不思議な部屋でご対面という流れになります。すると、彼らは墨絵のような文字を持っていることが分かる。でも、それが漢字のような表意文字なのか、アルファベットやひらがなのような表音文字なのか、それともまた違うものなのか、まったく分からない。軍人たちは結論を急ぐのだけれど、彼女は粘り強く、急がば回れで、その言語体系を探っていった結果、彼らの言語には、地球のそれとは異なる時間表現、時制があることを突き止めていきます。

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僕も大学で言語を学んだひとりなので、よく分かるんだけど、外国語を学ぶことの最大の理由は、コミュニケーションを取ることそのものよりも、自分の世界、価値観を広げる事だと思うんです。結果として、自分の人生が絶対により豊かになる。途中でイアンがルイーズにサピア=ウォーフの仮説について話す場面があります。ざっくり言えば、「人間の価値観は、その人の話す言語が規定する」というものですが、だからこそ、別の言語、未知の言語を学ぶことで、人間は自分の小さな価値観という檻から抜け出せるのだと考えることができるわけです。それでは、ルイーズは宇宙人と出会うことによってどう変化するのか。実は、ここからが時間の話です。
 
この映画の中では、ルイーズの過去の映像を突然差し挟むフラッシュ・バックの手法が何度も使われているんですが、そんなのよくある話でしょ? ところがですね、あれ、もしかして、これってフラッシュ・バックじゃないんじゃないかって思えてくるわけです。ネタバレになるから、詳しくは話しませんが、別の手法なんじゃないかと。つまり、彼女は宇宙人とコミュニケーションを取ることによって、僕らを支配する時間について感じ方が変わってくる。このあたりから、最近で言えば『インターステラー』で味わったような感覚に僕ら観客も誘われていきます。彼女は最終的に自分の人生観すら変化して、限られた僕らの命、その一秒一秒を愛おしむようになる。そのきっかけというかヒントが、宇宙人の文字の形、つまり円にあるというのもよくできているなと思いました。
 
絵面が地味ではあるけれど、ヨハン・ヨハンソンのサントラ効果も大いに手伝って緊張感はずっと持続するし、内容が哲学的なものだけあって、余計な刺激に惑わされずどっぷりと考え込める作品。僕も素晴らしい出来栄えだと思います。腑に落ちにくいところも特に後半見受けられますが、よくできたSFはそういうものです。この知的エンターテイメントをぜひあなたも鑑賞して、自分の価値観を問い直してみてください。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫) インターステラー(字幕版)

僕はこの物語の設定を聞いた時に、『2001年宇宙の旅』で知られるSF作家の巨匠アーサー・C・クラークのこれまた代表作『幼年期の終わり』を思い出しました。比較してみると面白いでしょうね。
 
邦題の『メッセージ』も決して悪くないんだけれど、観終わった後に“Arrival”、つまり到着という言葉の意味も深く考えて解釈せざるをえないのも素晴らしいところ。

さ〜て、次回、6月2日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、先日番組にゲスト出演してくれた河瀨直美監督の『光』です。カンヌの結果が気になるところ。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月19日放送分

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MCUことマーヴェル・シネマティック・ユニバースのシリーズにおいて、最もダメな奴らがヒーローになってしまう、たった1作で一気に超人気作に躍り出た『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』がリミックスとして帰ってきました。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(字幕版)

スター・ロードを名乗るピーターをリーダーに、銃器を容赦なく撃ちまくる口の悪いアライグマのロケット、怪力巨漢スキンヘッドのドラックス、セクシーなナイフ使いガモーラ、そして忘れちゃいけない最終兵「木」のグルート。この凸凹軍団は、あれから宇宙の平和を守りつつ、ちゃっかりあくどいこともしながら活動中。今回もとある依頼を受けて怪物と戦った後、アライグマのロケットが余計なことをしでかしたおかげで、とんだ騒動が勃発。そこにピーターの父親を名乗る男エゴが現れ、やがて銀河全体の命運がかかった恐ろしい出来事が動き出してしまいます。
 
監督・脚本は前作に引き続き、ジェームズ・ガンクリス・プラット他主要キャストが続投する中、カート・ラッセルシルヴェスター・スタローンなど大御所が演じる新キャストも登場して、いっそう華やかに物語が展開します。
 
それでは、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

前作でですね、まだそこそこの大木だった樹木型ヒューマノイドのグルートが、唯一話せる言葉“I’m Groot”を変化させて“We are Groot”って発言したのを覚えているでしょうか。あれこそがこのロクデナシどもが本当のチームになった、いや、家族になった瞬間でしょう。つまり、今回はガーディアンズが仲間を越えて疑似家族の絆で結ばれてからのお話。グルートはどうなったか。予告にも出ていたし、最終兵「木」としても登場していましたが、あの後ベイビー・グルートとして生まれ変わりました。そして、準主役級にスポットが当たってます。これがまず大正解。オープニングで、ガーディアンズがソヴリンという星から依頼を受けて、その動力源である特殊な電源を、タコと恐竜が混じったような、ロケット曰くブサイクな怪物から守る任務に就いている。前回家族になったんだから、みんな力を合わせると思うじゃないですか。どっこい、それぞれに口だけ達者で好き勝手な戦い方するんだよな、これが。口喧嘩してるし。でも、そんな中、実は最も我関せずなのがベイビーグルートで、みんながそれでも必死に戦っているのを尻目に、ピーターが持ってきたPAで音楽を鳴らして踊ってる。その楽しそうな裏では壮絶な戦い。それをしかも長回しでカットを割らずに見せてしまう。無駄っていう(笑) この笑いなんですよ。このテイストなんですよ。

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そもそも、ガーディアンズはスペース・オペラの伝統と70年代のセンスいい音楽、そしてしょーもない会話を掛け合わせた発明だったわけですけど、今回はそのどれをもバージョンアップさせています。選曲は今回も文句なし。そして、会話もさらにアホなことになってます。前回よりも僕が好きになったのはドラックス。ワイルド・スピードに出てきそうなあの風体で天然。そして、ゲラ。彼のバカでかい笑い声を聴くだけ楽しい。ドラックスのワイルド・スピードっぽさが気になってくると、今度はベイビーグルートの声をヴィン・ディーゼルが演じていることが思い出されてきまして、また笑いが増幅されてしまいました。
 
こういう小ネタ満載の脚本って、くだらなく見えて、実はすごくセンスがいるんですよね。ドラックスの乳首ネタなんかも(ていうか、その笑いのほとんどが)小学生レベルに見えて、差し挟むタイミングとかずいぶん奇をてらってるし。でも、その一方で、脚本の強度を上げるために、ガン監督はピーターの父親との再会という、こういうSFものでは特に鉄板の要素を盛り込んできたわけです。ここはやっぱり手堅く安全に行こうって感じかなと油断していると、ここにもひねりを入れてあるのは観た人ならわかること。偶然にも先週の『追憶』に続いてですけど、自分の力ではどうしようもない血の繋がりが絶対なのでは決してなく、それを時に上回る絆を人間は結ぶことができるし、そこにこそ人の情が宿るのだというメッセージが込められています。ここがもちろんハイライトなだけに、語れないのがもどかしいんだけど、まあ、そういうことです。まさか最終的に泣かされかけるとは思ってもみなかったですよ。そして、また浸らせる間もなく、笑いを入れてくる。しかも、凄いのは、同様の主題をガモーラの出自にも当てはめていて、これがうまくバリエーションとして機能してる。みんなにしっかり見せ場があって、泣かせたかと思いきや、すぐさま矢のように笑いが飛んで来る。そのバランス感覚もすばらしい。正直に言って、マーヴェルで僕は一番好きです。
 
ただ、さすがに今回の悪役は強すぎませんかね。脚本の改変をして、よりわかりやすくしたということですが、さすがにパワーのインフレが進みすぎていて、最後は絵的に何が何だかってなってしまってます。でも、そんなもんですよ、言いたいことは。

ガジェットも前回からさらに工夫して面白く見せているし。選曲はセンスだけじゃなくて、物語を歌詞が補強するような当て方をしてる。そして、何より、カセットテープや再生機材を壊した奴はただじゃおかないぞというのが、一音楽ファンとして嬉しいし笑える!
 
さて、次回以降、MCUの他のシリーズと交錯するのがちょっと心配ではありますが、それもうまくやるんだろうと高をくくってしまうくらい、僕はガン監督を信頼しています。

さ〜て、次回、5月26日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『メッセージ』です。2週連続SFですが、毛色はまったく違いますよね。そして、前評判がこちらも相当高い。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『追憶』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月12日放送分
『追憶』短評のDJ's カット版です。

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1992年。親に捨てられた3人の少年。能登半島の喫茶店を営むカップルに可愛がられながら暮らしていたところ、とある事件をきっかけに、二度と会わないことを誓います。時は流れて現在。富山県警の刑事となった少年のひとり四方篤は、東京でガラス店を営みながらほそぼそと暮らす幼馴染川端悟と再会。ところが、彼はその翌日に漁港で刺殺体となって発見される。捜査が進むにつれ、悟はもうひとりの幼馴染、現在は建設業に精を出す田所啓太と秘密裏に会っていたことがわかる。
 
殺人事件のミステリーを軸に長年のトラウマを浮かび上がらせ、その傷と向き合う残された者たちの姿を描く作品。『鉄道員(ぽっぽや)』など、高倉健主演作を中心にタッグを組んできた降旗(ふるはた)康男監督84歳と木村大作撮影監督77歳が9年ぶりのコンビのもとに、日本を代表する俳優たちが集いました。岡田准一小栗旬柄本佑(えもとたすく)、安藤サクラ長澤まさみ木村文乃(ふみの)、吉岡秀隆

鉄道員(ぽっぽや)

それでは、映画館でお客さんと観た作品をいつも追憶しながら原稿を書き上げる制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

映画館で予告編を観ていて、正直なところ、「これはキツそうだな」と思っていた僕です。降旗監督の演出はさすがにもう時代にフィットしないんじゃないだろうか。予告編で役者が気持ちを叫んでる映画ってどうなの? これを短評となると辛そう。と思っていたら、先週お告げが下ったので、「マジか。こりゃ久しぶりの進撃か」と心配することしきりに観てきました。ところがですね、僕はこの作品、結構気に入ってしまったんです。予断は良くないっていう良い例ですよ。
 
理由ははっきりしていて、絵作りです。脚本はテレビの2時間ドラマのようだと言われると、反論するトーンが弱まってしまうけれど、木村大作が撮影した映像は、そのほとんどがスクリーンサイズで観るべき迫力を備えていて、圧倒的に美しい。北陸の自然描写は、あんなもん、そこらのカメラマンでは撮れないです。それだけでも映画館に行く価値がある。そして、僕が感心したのは、雨です。少年が親に置き去りにされた後、安藤サクラが彼に手を差し伸べるところ。土砂降りなんだけど、あんなにまで見事に降りしきっている雨を、僕は久しぶりに観ました。雨をどう演出するか。僕は映画を観る時のひとつの基準にしていまして、これには思わず見惚れてしまいました。それから、たとえばビルの屋上で四方篤が先輩刑事と話す時のズームを使った切り取り方。固定カメラと手持ちの割合のバランス。確かに古臭いと言われればそれまでだけど、僕に言わせれば、変に今の撮影や編集の流行りをなぞって見た目だけは今っぽい3流演出よりもよっぽどいい。大御所演歌歌手がEDMサウンドをバックにしても失敗する可能性のほうが高いわけで、自分のメソッドを信じて貫いている降旗木村コンビの姿勢を全否定するのはどうなんだと。そりゃ僕だってさすがに音楽はやり過ぎかなとか、合成は今ならもうちょっとやり方あるでしょうとか、時にあまりに古色蒼然としてるから笑っちゃうところもあったけど、とはいえ、おふたりならではのケレン味としてそこも楽しめました。
 
役者陣も演出の凄みに応えようという意気込みが伝わってきて良かったと思います。一方で、後半にかけて新事実が明るみに出てくるに従い、僕は脚本も演出も普通になっていったと感じてしまうし、感動させようという意図が前に出過ぎたかなという印象も拭えません。ただ、これを誰とは言わないけど、最近のヒットメーカーと言われる監督が担当したら、下手するともっとエモーショナルに持っていく可能性もあるんだよな。全体としては、物語の省略の仕方も、その時々で出す情報量の調節も手堅くまとめられていて、僕はすんなりと引き込まれました。だらだらせずに、99分という尺にまとめてるし、何よりオリジナルストーリーっていうのが良いです。たとえ、イーストウッドミスティック・リバー』と構造がそっくりと言われようと、少なくとも北陸ならではの映画になってたので、あんまり気にしなくていいだろうと。

ミスティック・リバー (字幕版)

これを観ると、血のつながりがもたらす喜びとその裏腹に血によって背負わされる宿命について思いを馳せてしまいますね。親を選べない子供の無力。それでも、人間は血のつながりを超える絆を持てるはずだし、むしろ社会的な枠組みや手続きに則(のっと)らなくったって家族というか家庭を築けるのだという感慨を抱けました。現在パートの安藤サクラの肌ツヤが良すぎて、いやいやいや若すぎるでしょってなったけど、映画冒頭の彼女の形相とラストの神々しいまでの穏やかな表情のコントラストから、人が人を本気で想う時の強さと、時を経てトラウマを人がどういなしていくのか、食い入るようにスクリーンを見つめたのは僕だけではないでしょう。
 
昔と違って、今は家族よりも個の時代だから、余計に時代遅れに思えてしまう感じもあるんだけど、いつの時代も家族はままならぬものです。一度でも家族や親戚に翻弄されて歯を食いしばったことのある人なら、ある程度自分に引き寄せて、そしてほとんど失われてしまったフィルム撮影の美しさと緊迫感に陶酔することができると思います。

この映画のサントラは、よくできてるんだけど、ちょっと出来すぎていると感じる人がいるのもうなずけるぐらいです。歌詞のある曲はそぐわないのは百も承知で、僕が洋楽で主題歌を選ぶなら、これかな。邦題は追憶にしてもいいくらい。


さ〜て、次回、5月19日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』です。宇宙の負け組寄せ集めヒーローたちが、今回はどんな戦いを繰り広げるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

 

『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月5日放送分
『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評のDJ's カット版です。

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2000年の第1作『ワイルド・スピード』(原題:The Fast & The Furious)から始まった破天荒なカーアクション映画シリーズもこれで8作目。メインキャラのひとりブライアンを演じてきたポール・ウォーカーを前作「SKY MISSION」で失いながらも決してスピードを緩めることなく、いや、むしろさらにやり過ぎております。映画オリジナルのストーリーで、なおかつ興行収入も右肩上がり。B級も極めればA級になることを体現する稀有なシリーズです。

ワイルド・スピード SKY MISSION [DVD] 

愛するレティや仲間たちと固い絆で結ばれたファミリーを誰よりも大切にしてきたドムが、まさかの裏切り。極悪サイバーテロリストサイファーとタッグを組む。戸惑いを隠せないファミリーだったが、ドムを取り戻し、テロを防ぐため、アメリカ政府の秘密工作組織のトップであるミスター・ノーバディ、そしてファミリー最大の敵だったデッカードと力を合わせる。ドムはなぜ寝返ったのか? ファミリーと世界の命運やいかに。

ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)  ミニミニ大作戦(字幕版)

ドム役のヴィン・ディーゼル他、ドウェイン・ジョンソンジェイソン・ステイサムのワイルド・マッスル・スキンヘッドが今回も大暴れしている他、シャーリーズ・セロン、そして意外な役柄でイギリスを代表する名女優ヘレン・ミレンが登場します。監督は、このシリーズ初となるF・ゲイリー・グレイ。ミュージックビデオ出身の監督として『ストレイト・アウタ・コンプトン』高く評価されましたが、実は僕の生まれた街イタリア・トリノを舞台にしたカーアクション映画『ミニミニ大作戦』のリメイクも手がけていました。
 
それでは、制限時間3分間。アクセルベタ踏みの映画短評。今週もいってみよう!

ポール・ウォーカーを「SKY MISSION」で文字通り失ってしまったので、どの段階でどの程度まで構想されていたのかはわかりませんが、今回から新たな三部作という位置づけで再始動ということがアナウンスされているってのを、もうオープニングのキューバのシーンから体現してくれます。PitbullのノリノリなHey Maをバックに、ラテンのイケイケなお姉ちゃんたちが水着以上に眩しいホットパンツを次々に見せつけるサービスシーンから、いきなりいとこの車を賭けたドムとキューバ人のカーレースが始まる。「レースで大事なのは、車の性能よりも、誰がハンドルを握るかだ」とか何とか言うんだけど、そこでドムはいきなりブライアン仕込みのテクを駆使するという憎い展開。このシリーズ、お話の規模がどんどん大きくなっているので忘れがちだけど、そもそもはドムとブライアン、そしてカーレースから始まってるわけで、原点を忘れないっていうあたりを開始10分くらいでいきなりフルスロットルで楽しませてくれるんです。
 
そこから、今回のストーリーの核となるドムの裏切りのきっかけが示されるんですが、ここ上手いなと思うのは、もちろんドムがそんな事するにはそれ相応の理由があるんだろうって誰もが思うわけじゃないですか。サイファーから「あるもの」をキューバの路上で見せられて、まんまと寝返るんだけど、その「あるもの」が何なのか、途中まで巧妙に伏せられているのみならず、これは終わってから振り返ってなるほどなと気づく部分なんだけど、このキューバパートでの些細な会話や人物がちゃんと後々思い出されるように伏線として機能させてあるんです。だから、僕らはファミリー以上に理由は知ってるけど、サイファーほどは知らないっていう、映画を楽しむには一番面白い情報量のまま先へ進んでいくんですよね。さらに言うと、この適切な情報の出し方のおかげで、裏切りのドラマがよりダイナミックかつエモーショナルに機能する。だって、途中であのドムが泣くからね! びっくりだよ。
 
こういうように、今回、僕は大味な映画に見えて、実は脚本の微調整が周到に施されてるんだと思っています。特にみんな主役級の濃いキャラクターたちの関係性には気を遣っているからこそ、メインから外れた枝葉のエピソードも生き生きとしてくる。
 
コミカルなシーンも多かったですね。なにしろ手数が多い! キャラ同士のキャッキャしたジョークの応酬。たとえば、ライバルであるホブスとデッカードがふたりで監獄で大暴れする場面なんて、筋肉バカがいがみ合いながら看守や罪人をなぎ倒していくんだけど、それぞれの特徴と関係性を逐一反映した丁寧な構図設定とカット割りで惚れ惚れしました。ホブスがゴム弾を胸筋で跳ね返すみたいな漫画なノリも、ここではOK! ホブスならできる!って思えるもの。
 
そして何より、もちろん、カーアクションですよ。今回も、そんなアホなの連発です。制作陣がツッコミ待ちしてるのが画面から伝わってくるよう。このシリーズ、いつも予告で見せ場を気持ちいいくらいネタバレしてるんだけど、どのシーンもアイデアがフレッシュで完全に振り切れてる、あるいは突き抜けてるから、分かってても「スゲー」「そんなアホな」って楽しめるんですよ。ある理由から氷の上で水上スキー状態になるところなんて、もう僕久しぶりに声を出して笑ってしまいました。最高です。
 
世界あちこちの景色。人種のミックス感。バカさ加減。もはや地球を救うレベルの規模感。騙し騙されのスパイものの魅力。これはもう、B級映画のテイストを残したままA級へとレーンチェンジした、アベンジャーズや007シリーズに匹敵する、エンタメ映画の最前線です。別に過去作観てなくてもいいから、ワイスピにあなたもライド・オンしてください。


さ〜て、次回、5月12日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『追憶』です。監督は降旗康男、カメラは木村大作。『鉄道員(ぽっぽや)』のコンビですね。高倉健の代わりに集った岡田准一小栗旬がどんな演技を見せてくれるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『美女と野獣』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月28日放送分
『美女と野獣』短評のDJ's カット版です。

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冷たく追い払った醜い老婆が、実は魔女だった。呪いをかけられて野獣となった王子。元の美男子に戻るには、その外見のままで誰かと真実の愛で結ばれないといけない。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散ってしまう前に。人々からすっかり忘れられた城には誰も寄り付かなくなっていたところ、美しい村娘ベルが現れ、互いはしだいに惹かれ合っていくのだが、そこにはたくさんの邪魔が入り…
 
これまで何度も映画になっている物語ですが、振り返れば、ディズニーアニメ第2の黄金時代と言われた90年前後の代表作のひとつ、91年発表のアニメ『美女と野獣』が決定版でしょう。それを今回はかなり忠実に実写映画化しています。監督はミュージカルの名手ビル・コンドン。主人公ベルには、「ハリー・ポッター」シリーズで誰もが知るエマ・ワトソンが扮する他、先週評した『T2 トレインスポッティング』のユアン・マクレガーが蝋燭立て、燭台に姿を変えられたルミエールを演じるなど、原作がフランスの民話ということもあるのか、ヨーロッパベースのキャスティングになっています。
 
それでは、バラの花が散るよりも短い、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

人は外見で判断してはいけない。よく知られたこの物語の教訓ですが、ここ数年、リベラルな価値観を物語に植え付けてきたディズニーだけに、今わざわざ実写にするからには、あの戒めをアップデートするような思惑があるのだろうと想像して観に行ってきました。結果として、なるほどなと思えた部分も多い一方、ちょっとした不満もあるにはあるっていうのが、僕の見立てです。
 
まずは、なるほどの部分から。僕はこの手のロマンティックなものにそもそも眉をしかめるひねくれ者でもあるんで、美女と野獣が結ばれるのって、「要はギャップ萌えってことでしょ?」とか、心理学で言うところの一種のストックホルム症候群じゃないのって思っていたくらいなんだけど、今作は違いましたね。何って、ベルの内面です。今回の教訓は、見かけうんぬんよりも、未知のものでも気後れせずに接すれば世界は開けるってことじゃないでしょうかね。
 
ベルは前近代的で閉鎖的な村の中にあって(舞台が18世紀だから当たり前だけど)、超進歩的で、読書家だし、子どもたちに勉強も教えるし、好奇心に満ちている。教会の図書室から本を借りる時のウキウキした感じ、そして、まさかのロバを使った洗濯機を発明して、浮いた時間を使って読書したり子どもに読み書きを教えるところが僕はお気に入り。
 
ひとりずば抜けて賢いから、村人たちをバカにしているという見方もできるかもしれないけれど、冒険心旺盛なベルにとっては、女性はこうあるべきとか、狭い中で汲々とした偏狭な人たちに囲まれていることが、むしろ牢屋にも似た環境なのであって、これはそこからの解放の物語であり、王子との恋愛はその副産物くらいの位置づけなんじゃないかって気がするんですね。ベルは冒険の果てに、それこそ内面が野獣化して城へ攻め入る村人たちの心をも解き放つわけです。そういう進歩的・現代的な女性像と同時に、ガストンが体現するマッチョ的な価値観の否定が顕著だったのも印象的でした。
 
あと、魔女のアガットが実はずっと村にいて観察し続けていたっていう設定も、客観的な視点がひとつできて、僕はすごく気に入りました。
 
他にもよくトピックとして挙げられるのが、LGBT的なキャラクターの導入ですね。潔いレベルの悪役、俺様野郎ガストンの腰ぎんちゃくル・フーがはっきりゲイとして登場しました。ただ、ここからがちょっとした不満の要素ですけど、ル・フウって、役名だから仕方ないけど、フランス語だと普通名詞で、イカれた男くらいの意味なんですよ。ベルが名前からして、ビューティーって意味なのを考えると忍びなくて、イカれた男=ゲイっていう図式になってるのが、進歩とは言え、素直にはうなずけないってのと、あと、18世紀のフランスに黒人の貴族がわんさかいるっていう設定も、わかるんだけど、目配せしすぎっていう感じもします。
 
さらに、「それを言っちゃあおしまいよ」ってことだけど、やっぱりアニメの躍動感に比べると、ちょっとなあとも正直思っちゃいました。
 
とはいえ、この古めかしい題材を実によくまとめていて、絵面も洗練されている一級の作品であることは間違いありません。手堅い娯楽作として、あなたも劇場で、止まらないロマンティックに酔いしれてください。


さ〜て、次回、5月5日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ワイルド・スピード ICE BREAK』です。『T2 トレインスポッティング』『美女と野獣』と来て、「ワイスピ」。すごい流れになってます。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『T2 トレインスポッティング』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月21日放送分
『T2 トレインスポッティング』短評のDJ's カット版です。

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あのロクデナシたちが帰ってきた。20年前、麻薬の売買で大金をものにしたレントンは、仲間たちと山分けせずにトンズラ。逃亡先のアムステルダムから、スコットランドの故郷エディンバラの実家に戻ってみると、既に母親は亡くなり、父親がひとり暮らしをしていた。そして、悪友たちは相変わらず。親戚から継いだパブ経営もそこそこに、売春と恐喝で財を成すシック・ボーイ。麻薬から抜け出せずに家族から愛想を尽かされているスパッド。刑務所に服役中で復讐の鬼と化しているベグビー。彼らのすったもんだの再会を描く。

トレインスポッティング(字幕版)

あのカルト作の続編は、ダニー・ボイル監督も、ユアン・マクレガーなど主要キャストもそのまま続投という珍しいパターン。このふたりも、今でこそ押しも押されもしない映画人ですが、思い返せば『トレインスポッティング』がブレイクのきっかけでした。僕が高校3年生の秋に公開され、受験生ということで劇場に観に行く習慣がその頃は無かったんですが、大学に入ってからも、レンタルビデオ店や友達の下宿先で何年間もポスターを見にし続けるほどアイコン化していたことはよく覚えています。僕がそんな前作を観たのは、結局もっと後になってから。正直、熱狂したわけではないですが、ボイルの映像センスと実験精神にはやはりしびれました。
 
そんなわけで、後追いだし、別にフェイバリットというわけではない僕野村雅夫がどんな熱量でT2を観たのか。3分間の短評という名のショート・トリップ、今週もいってみよう!

これは同窓会映画です。同窓会って、昔話と近況報告、どちらの楽しみもあって、互いの空白を埋めるもの。なので、現役バリバリの頃を彷彿とさせるシーンをいかにうまく配合するかがポイントになるんですけど、その意味で、ダニー・ボイルの作戦は実にうまい。『トレインスポッティング』を思い出した時に、印象的なシーンってたくさんありますが、とにかくよく走ってたなって感じるんです。それを踏まえてのオープニングですよ。レントン、走ってますね。ただ、場所がストリートではなくて、ジムのランニングマシンの上っていう。当時を思い起こさせつつ、現実との落差を見せる。身体も重そうで、案の定、スピードについていけず、ずり落ちてしまうわけです。あの頃と違う俺。浮かぶ幼なじみの顔。そして、前作通りスタイリッシュなタイトルがボンと出て、同窓会スタート。
 
それぞれの再会は、どれも最初こそぎこちないものの、だんだん感覚を取り戻してきて、映画の中でまた走るようになるんだけど、それがもうランニングマシンの上とは違って、イキイキしてるんですよ。バカな事をやってればやってるほど、スピードも上がっていく。そして、ボイルの実験的な映像さばきにもエンジンがかかってくる。夜、逃走する車にプロジェクションマッピングを施したり、性懲りもなくおっぱじめられるドラッグでのトリップシーンも奮ってました。ガゼル達が駆け抜ける映像を反転させて壁一面に映したり。それから、全体的にストップモーション、要するに動画なのに急に静止画を挟む編集スタイルも効果的に使ってました。こいつらの傍から見た滑稽さ、プラス、こいつらの取る行動の刹那的・衝動的な要素を強調するようで。そして、止まるっていう意味では、音楽の寸止めな使い方も面白かったです。かかるかと思ったら、ここではかけへんのかい!っていうね。
 
要所要所でこういう「トレインスポッティングの続編を見ている〜!」という感覚を僕らに与えてくれる一方、やっぱ主人公たちがもう初老なんで、とんがりはそりゃマクレガーの体型同様、多少は丸まってます。逆に言えば、映画全体のまとまり、見やすさは格段にアップしてます。前作では、映画という列車が車両によって積み荷バラバラで、車両同士の連結も外れかけ。止まるべき駅もしょっちゅう飛ばしてしまっていたのに対し、今作は特急とは言わないけど、快速急行くらいの速さで、荷物も人もきっちり乗車整理して定時運行って感じ。だから、物語の行方がしっかり気になる。
 
そこで大事になるのが、今回のファム・ファタール、つまり運命の女、あるいは魔性の女というべき、シック・ボーイがかこってるブルガリア美女ヴェロニカですよ。きゃわいい~。僕、彼女大好き。バカっぽいけど、したたかでもある小悪魔ですね。この設定も、やっぱり20年経った今だからこそできるというか、エディンバラにもグローバル化の波が押し寄せているわけで、そのあたりの社会性は押さえてます。彼女は現代の象徴なんですね。前作もそうだけど、時代性と社会性をしっかり背景に透かせてあるから、映画がしまるんです。

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それが端的に出ていたのが、レントンがそのヴェロニカにぶつ演説です。前作でもキーワードになった”Choose life”。「人生を選べ」という、もともとは麻薬根絶キャンペーンの言葉(日本で言うなら、問題にもなった「覚醒剤やめますか。それとも、人間やめますか」ですね)。それを彼らはパロディーにして、昔も今も世の中をむしろ皮肉る。だけど、フレーズが20年経った今ならではなものになっていて、早口なレントンの台詞回しと矢継ぎ早な映像編集が絡み合い、僕は鳥肌モノの感動を覚えました。SNSやリベンジポルノ、リアリティ番組、労働環境、そして、教育… 考えてしまいますもの。
 
Choose life. Choose Facebook, Twitter, Instagram and hope that someone, somewhere cares. Choose looking up old flames, wishing you'd done it all differently. And choose watching history repeat itself. Choose your future. Choose reality TV, slut shaming, revenge porn. Choose a zero-hour contract, a two hour journey to work. And choose the same for your kids, only worse, and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody's kitchen. And then... take a deep breath. You're an addict. So be addicted, just be addicted to something else. Choose the ones you love. Choose your future. Choose life.
 
20年前に選んだ人生の結果としての今。選択肢はみるみる少なくなっている。淡くてもいい。しがみつける希望は見つかるのか。レコードはまた回り始めるのか。僕はわりと清々しくラストを迎えました。
 
これ1本だけでというよりは、やっぱり前作からの流れを踏まえてですけど、十分に満足のいく続編になっていると僕は思います。

さ〜て、次回、4月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『美女と野獣』です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!