京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年7月4日放送分

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スパイダーマンを主人公にした実写映画としては、2017年に公開された『スパイダーマン:ホームカミング』の続編です。そして、「マーベル・コミック」のヒーローたちが同じ物語世界の中で同居・クロスオーバーするMCUマーベル・シネマティック・ユニバースとしては、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続編にして、フェイズ3のラストを飾る23作目となります。

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これは「エンドゲーム」からまだそう時間が経っていない頃の物語です。自分の高校生活に戻った主人公ピーター・パーカーは、夏休みを利用して、学力コンテストの仲間や先生たちとヨーロッパへ研修旅行に出かけます。目下のミッションは、大好きな女の子MJに告白すること。親友のネッドにその計画を打ち明けながら、ヒーローであることから離れ、バカンスとしゃれこもうとしているところへ、元SHIELD長官であるニック・フューリーから携帯への着信が。あろうことか、ピーターはその連絡をスルーして、そのまま最初の目的地ヴェネツィアへ。ところが、そこに現れたのは得体の知れない水の化物エレメンタルズ。ピーターがスパイダースーツなしで対抗を目論むも苦戦を強いられているところへ颯爽と舞い降りて敵を撃退したのが、異世界からやって来た新たなヒーロー、ミステリオ。ピーターは、地球の新たな脅威に立ち向かえるのか。研修旅行は続行できるのか。そして、何よりMJに告白できるのか?

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監督は前作「ホームカミング」から続投して、まだ38歳と若いジョン・ワッツが担当。脚本家たちもそのまま続投。キャストもそうですね。ピーター・パーカー/スパイダーマントム・ホランド、ニック・フューリーをサミュエル・L・ジャクソン、MJをゼンデイヤ、親友ネッドをジェイコブ・バタロン、メイおばさんをマリサ・トメイ、ピーターのサポートとなる元トニー・スタークの運転手ハッピーをジョン・ファブローが演じている他、新キャラのミステリオにはジェイク・ギレンホールが抜擢されています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

「ホームカミング」の短評の時に僕が強調した良い意味での軽さを今回も踏襲しているんですけど、これってすごいことですよ。だって、この前が「エンドゲーム」ですよ。シリアス。重厚。深刻。その直後だってのに、今作の軽妙さは前作を上回ってます。話の前提となる空白の5年間問題なんかも冒頭で手際よく説明されるんですが、そこにいちいち細かい笑いを入れていくんですよね。たとえば、人類の危機に乗じて不倫・駆け落ちした女がいたとかみたいな小ネタ。それが、ヨーロッパ行きの飛行機の中で何とかMJの隣に座ろうと画策して失敗するピーターっていう、これまた細かすぎるラブコメ要素に重ねられるわけです。ラブコメと言えば、他のクラスメートたちも旅行に乗じていちゃつくし、メイおばさんも何やら浮かれていて、映画全体も軽いどころか浮ついてます。
 
そんな浮かれたピーターをヴェネツィアまで追いかけてきたニック・フューリーが出てくるところで雰囲気が一変するのかと思いきや、そんなことはないんですね。ニックが深刻な事態を説明する最中にも、これまたどうでもいいとしか言いようのない横やりが入るっていう古典的なギャグを天丼で展開します。しかも、ピーターときたら、僕には荷が重いんで、親愛なる隣人のままでいたいんでとか言って、化物征伐の戦いへの参加を断るんだけど、その時のニックの解決法、譲歩の仕方がまたコミカル。
 
この話、要するに、16歳の高校生の成長を見守るってことなんだけど、中盤以降、「え!?」っていうどんでん返しを用意しつつ、彼の内面の弱さをヴィランが指摘し、そのヴィランを攻略することで、ピーターが一皮むけていく。そういう流れになっています。

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ここで発揮されるのが、ジョン・ワッツ監督の作家性です。過去作に見られた「常軌を逸した大人に翻弄される子どもたち」というモチーフが今作でも見受けられます。もちろん、ヴィランとの対決もそうなんですけど、僕に言わせれば、最高のヒーローにしてアクの強すぎる金持ちトニー・スタークも、常軌を逸した大人に相当します。ヒーローとしてのスピリットを託せばいいのに、ハイテク満載のメガネまで託すもんだから、大変なことに。そして、トニー・スタークの過去の尊大な態度がまた時を経てぶり返すってのは、迷惑以外の何物でもないですもん。でも、こういうシリーズファンへのサービス精神と個人の作家性を無理なく結びつけていく手腕はさすがだなと舌を巻きました。
 
さらには、メディア批評的な側面も盛り込んでましたね。どこもかしこも映像で溢れ、リアルとフェイク、フィクションとファクトの区別がつかなくなっている現実の世の中を踏まえてました。お話全体もそうだし、最初から最後まで、スクリーンの中に大小のモニターやプロジェクションだらけでしたもんね。そこに翻弄される様子は、僕らもよくわかるってところじゃないでしょうか。

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前回は、スパイダーマンがあまり飛んでなくて、物足りなかったなんて声もありましたけど、僕に言わせれば、ビルや木などがない、だだっ広いところでは走るしかないんだっていうことを笑いとともに見せてくれたのが忘れられないんです。あれはあれで良かった。そして、今回は飛んでるよ。ヴェネツィアで、プラハで、そしてベルリンで。『メン・イン・ブラック:インターナショナル』に続いての007化ですけど、はっきり言って、スパイダーマンの方が現地の見せ方は上手でしたね。ニューヨーク以外で飛ぶだけで、こんなにも新鮮。楽しかった。
 
あのラストですから、明らかに続編はありますね。今度は高校生活も最後になるんでしょうか。正直、ヴィランの操る技術のからくりがよくわからならいところもあったけど、そんなことはどうでもいっかって思えるほど、MCUスパイダーマンも新たなフェーズを迎えるにあたって、考えられる限り最高のフィナーレでした。

サントラから何をかけようかと思ったんですけど、AC/DCは一昨日かけたしな〜。で、思い返すと、イタリアの曲が3つも使われてるんですよ。せっかく僕がDJなんだから、ここはイタリアのでしょってことでこちらをチョイス。ヴェネツィア行きの飛行機の中で使われていたものなんですが、「星のような君よ、僕の頭上で輝いておくれ」っていう歌詞でして、何とかしてMJの隣の席をゲットしようとするピーターの内面とも一致していました。さらには、機内のトイレを使ったギャグシーンがあったんですが、そこで「シヴォラ、シヴォラ、シヴォラ、シヴォラ…」って繰り返し歌われます。これは英語のスリップとかスライドってことで、要は滑るっていう動詞。実際、ピーターの行動も滑ってたんですよ。ほんと、マーヴェルのこのあたりの細かさには驚きました。


さ〜て、次回、2019年7月11日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『Diner ダイナー』です。蜷川実花監督作品を短評するのは初めて。あの色の洪水のような世界を受け止めきれるかしら。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく! 

『きみと、波にのれたら』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月27日放送分
映画『きみと、波にのれたら』短評のDJ's カット版です。

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サーフィンを愛し、大学入学をきっかけに海辺の町で一人暮らしを始めたひな子。自宅マンションが火事になったことをきっかけに消防士の港と知り合い、ふたりは恋に落ちます。おっちょこちょいのひな子としっかり者の港。ふたりはサーフィン、キャンプ、料理、音楽を通してその絆を深めていくのですが、冬のある日、ひとりでサーフィンをしようと海へと向かった港が、溺れた人を救おうとして命を落とします。大好きな海を見ることすらできなくなるほどショックを受けたひな子。しばらくすると、ふたりの思い出の歌を口ずさめば、水の中に港の姿が現れることに気づくのですが…

夜は短し歩けよ乙女 夜明け告げるルーのうた

監督は湯浅政明長編映画だと『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』で知られる他、Netflixオリジナルの『DEVILMAN crybaby』でも世界的な注目を集めたことが記憶に新しい方ですね。脚本は『夜明け告げるルーのうた』でもコンビを組んだ吉田玲子。
 
キャストも紹介しておきましょう。サーフィン好きの向水ひな子を川栄李奈(かわえいりな)、消防士の雛罌粟港(ひなげし)をGENERATIONS from EXILE TRIBE片寄涼太、港の妹洋子を松本穂香(ほのか)、港の後輩消防士である山葵を伊藤健太郎がそれぞれ演じています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

湯浅作品を見慣れている人ほど、特に前半、港が亡くなってしまうまでの演出には違和感を覚えると思います。人物や物体が平面的で、輪郭が平気でグニャグニャ歪んだりするような、アニメならではの動き、現実からの飛躍を特徴としている作家なわけですけど、今作はかなり写実的なんですね。
 
湯浅作品に縁がなかった人にとっても、最近の日本のアニメではまずお目にかからないと言えるほど、とにかくふたりがラブラブな前半のストーリーラインには違和感を覚えると思います。ひな子の友達がちゃんと代弁してました。「リア充爆発しろ」ってね。
 
画作りも物語も、この作品は大丈夫なのか。どっこい、どちらの違和感も後半するする解消され、クライマックス前後ではしっかり泣かされている僕がいました。

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カップル的な描写について、まず話します。これはかつてのトレンディードラマ的なジャンルの「ベタ」なんですよ。GENERATIONSの曲も90年代感ありますよね。かつて流行ったJ-pop感というか。湯浅監督はまっすぐなラブストーリーをこれまでやってなかった人なんで、ジャンルとしてのお約束を踏襲しつつ、先祖返り的にあえて記号的に一旦振り切ったわけです。その分、後半港が死んでショックを受けてからのひな子の幻影・幻覚が活きてくる。これもセリフではっきり出ます。「洋式便器に向かってブツブツ言ってる変な人」に見えるようなぶっ飛びも、前半があればこそなんですね。主要登場人物が4人であるとか、死んだ人間の幻影が出てくるってことで、90年のヒット作『ゴースト/ニューヨークの幻』を実際に参考にしたと言われていますが、恋愛の四角関係が展開するのが港の死後だってことや、こいつとこいつがくっつくんだろうなっていう、それこそラブロマンスもののお約束をわりとサラリと裏切ったりと、後半を際だたせるための前半のストレートな振り切りだとだんだんわかってくる構成になってます。

ゴースト/ニューヨークの幻 (字幕版) 

作画についての違和感はどうか。湯浅作品にしては珍しく写実的だぞって部分。こちらもメリハリがあると言うべきか、彼の特徴は今回は水に注ぎ込まれています。アニメ表現の難関のひとつである水に豊かなバリエーションがある。陽光を反射するきらめく水。愛する人を飲み込んでしまう脅威としての水。さらには、愛する人をくるむ水であり、火を消す水であり… 迎えるクライマックスでは、ひな子の幻影かゴーストかという微妙なリアリティーラインを高々と飛び越える、これぞ湯浅政明という跳躍が文字通り映像通りそびえ立って燃え盛ります。そのシーンには、「きみと、波にのれたら」というお話のテーマである自立と再生がこれでもかと込められていて、ただただ口を開けて事態を見つめる他ありません。
 
ちょっと安直ではあるけれど、名前がそのまま説明してます。雛罌粟港、つまり、火を消し、波から人や物を守る港、向水ひな子、つまり水に向かいながらよちよち歩きをしていた雛が成長して港を出ていくということです。サブキャラの二人が主人公たちを引き立てるスパイスとして巧妙に配置されているし、コーヒーや花火や消防士や恋人たちの聖地みたいな道具立てもよく機能しています。嫌味な言い方をすれば、とにかくベタなんだけど、そうした間口の広さ、ジャンル映画的な約束を守りながらも、そこで表現的な実験を推し進めてしまう湯浅政明。ツッコみたい部分も最終的に飲み込んでしまうパワーを備えた作品でもありました。あのクライマックスの迫力は大スクリーンでこそ!


かつて流行った曲として、劇中でひな子と港が歌い、そしてひな子がひとりになってからも何度も口ずさんだのが、これですね。さすがに口ずさみすぎなので、メロディーに飽きちゃう部分もありましたが…

さ〜て、次回、2019年7月4日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』です。「ホームカミング」と『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続編ってことになるんですよね。あ〜、ややこしや。でも、今回はおうちから遠く離れてヴェネツィアにも行くらしいので、観光気分でも楽しめそう。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく! 

『メン・イン・ブラック:インターナショナル』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月20日放送分

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UFOや宇宙人などの超常現象を目にした一般市民の元を訪問し、口封じをする全身黒尽くめの男たち。この映画シリーズには、1990年に発表された同名の原作漫画があるわけですが、そのさらに元になっているのは、1950年代以来、アメリカを中心に流布している都市伝説です。珍しいケースですよね。97年、トミー・リー・ジョーンズがベテラン敏腕エージェントKを、そしてウィル・スミスが減らず口をたたく新米エージェントJを演じた1作目以来、2002年、そして2012年と、同じコンビと同じ監督、つまり『アダムス・ファミリー』のバリー・ソネンフェルド、さらにはスピルバーグが製作総指揮という座組で3本作られてきました。

メン・イン・ブラック (字幕版) メン・イン・ブラック2 (字幕版) メン・イン・ブラック 3 (字幕版) 

 今回は、スピルバーグ以外はスタッフ・キャストを一新したスピンオフ的続編です。監督は、『ストレイト・アウタ・コンプトン』や『ワイルド・スピード ICE BREAK』のフェリックス・ゲイリー・グレイです。

 
20年前、幼少期にエイリアンに遭遇しながらも、記憶消去を偶然逃れて以来、宇宙の神秘に興味を膨らませ、MIBにあこがれて成長し、ついにスカウトされるにいたった新人女性エージェントM。初のミッションは、MIBに潜入したとされるスパイを突き止めること。MIBロンドン支部へ出張したMがタッグを組むのは、イケメンだけれど軽薄で、過去の栄光にあぐらをかく先輩エージェントH。このコンビはスパイを見抜き、その野望を阻止することができるのか。
 
女性エージェントMをテッサ・トンプソン、チャラ男なエージェントHをクリス・ヘムズワースがそれぞれ演じる他、リーアム・ニーソンエマ・トンプソンレベッカ・ファーガソンなどが登場します。豪華キャストなんですけど、主演のコンビが『マイティ・ソー バトルロイヤル』のヴァルキリーとソーなもので、どうしても思い出しちゃう人がいるのはしょうがないでしょうね。
 
シリーズの人気と寄せられた期待は相当なもので、実際アメリカでも興行収入ランキングは初登場1位。日本でも『アラジン』に次いで2位と、前作には及ばないものの、決して悪くはない出だしだと思います。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

鑑賞後に首をひねっている観客が多いことは、番組に寄せられた感想やネットに上がっている声に如実に現れています。曰く、トミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスのコンビニは敵わない。今回のMとHのバディが不完全燃焼。エイリアンが小奇麗。誰がスパイかすぐにわかってしまう。目新しさがない。などなど。
 
では、僕はどう感じたか。平たく言うと、こうです。
 
みんなの言いたいことはわからなくもないけど、結構楽しく観られたし、なんなら、たとえば1作目よりも僕は気に入ってるんですが、ダメですか?
 
大前提として身も蓋もないことを言いますけど、このシリーズにみんなが求めているものは、そんなカッチリしたできの良さなのかってことなんですよ。そもそもが都市伝説ですからね。だいたいあのエイリアンにまつわる部分だけ記憶をピカッと一瞬で消せるニューラライザーって、何よ。ご都合主義の極みじゃないですか。今回1作目を見直しましたけど、2019年の感覚だと、ギョッとするブラックジョークも散見されるし、ストーリーもそこまで感心するほど練ってあるというよりは、いい意味での雑さゆるさを楽しむものだと思います。だから、もう、トミー・リー・ジョーンズとウィル・スミスのコンビと、ファッションやガジェットのポップな魅力でもっていたシリーズなんですよ。

 

そういう割り切りのもとに観ると、今作は僕は十二分に合格点に達していると感じました。

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当たり前だけど、エイリアンの造形や動きはCG技術が発展した今の方がすんなり観られるし、旧ファンへのサービスも入れながら、ポーニィみたいな新しいかわいいエイリアンも登場させていますよね。ガジェットも今っぽく進化していて僕はすんなり楽しめました。ポール・スミスのスーツ、POLICEのサングラス、ハミルトンの腕時計、レクサスの車。どれもキマってました。パリ、ニューヨーク、ロンドン、マラケシュ、砂漠、ナポリと、あちこちの景色を観ることができる観光映画的魅力もありました。さらに、画面の色使いが工夫してあるので、「黒」がより映えていてかっこいい。テッサ・トンプソンを起用しているだけあって、MEN & WOMEN IN BLACKだみたいなポリコレギャグも加わっていましたね。ストーリー的にも、20年前の伏線回収だったり、ヘムズワースが大胆にもエイリアンと性的関係を持っていたりと、これまでと違ったブラックな笑いも盛り込めていたと思います。もう、僕としては、これで十分です。ビッグバジェットのB級大衆娯楽作なんだから、いいじゃないですか。

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ただ、一応、なんじゃそりゃってところにも触れておくと、そりゃ今回のバディーには難がありました。ふたりの役割が最初から最後まで基本同じなので、変化がない。これは特にウィル・スミスの変幻自在っぷりを前にすると、確かに分が悪いです。それは認める。それから、エイリアンが小奇麗すぎる。まとまりすぎてる。でも、昔みたいに体液どろどろ一辺倒なのもどうかと思っていた僕としては、別にこれで構いません。
 
舞台裏について触れると、ウィキペディアにも載ってることですけど、監督が何度も降板しようとするくらい、製作はもめて混乱したようです。どうやら、エイリアンが地球にたくさん移民しているという設定に、地球での現実の移民問題を重ねようとした当初の脚本のアイデアがボツになったようなんですけど、僕としてはキャスト一新でリスタートを切るなら、もっとエッジのきいたものも観たかったなというのが本音です。
 
とはいえ、あちこちでロケするから「インターナショナル」ってなタイトルの安直さが示すようなB級娯楽感は十分に保証された、普通にデートにオススメできるような1本でございました。


へえ、アリアナ・グランデが主題歌なんだ! っていうことではなくて、シリーズ恒例の有名人カメオ出演で、今回はアリアナの姿をチラッと拝めるぞっていうことです。

 

さ〜て、次回、2019年6月27日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『きみと、波にのれたら』です。『夜は短し歩けよ乙女』や『夜明け告げるルーのうた』など、日本を代表するアニメーション監督として最近とみに引っ張りだこになっている湯浅政明の作品ですよ。また音楽が大事な意味を持つらしいとあって、こりゃ楽しみだ。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく! 
 

『アラジン』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月13日放送分
映画『アラジン』短評のDJ's カット版です。

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舞台はアラブの港街アグラバー。貧しさ故に泥棒に身を落としてはいるものの、心やさしく機転のきく青年アラジン。彼が市場で巡り合ったのは、王宮の外に自由を求めてお忍びでやって来た王女ジャスミン。ふたりは惹かれ合うものの、アラジンは王宮に忍び込んだことがばれて捕らえられてしまいます。彼を使えると見込んだ邪悪な大臣ジャファーは、アラジンを魔法の洞窟に放り込み、ランプを手に入れさせようとするのですが… こすればランプから出てきて、願いを3つ叶えてくれる魔人ジーニーは、誰のどんな願いを聞き入れるのか。
最近のディズニーは実写化が多いですよね。『アリス・イン・ワンダーランド』『マレフィセント』『シンデレラ』『美女と野獣』『プーと大人になった僕』『ダンボ』『ライオン・キング』『ムーラン』。すごい数ですよ。そんな中、こちらは92年に公開された大人気アニメの実写リメイクです。原作はご存知『千夜一夜物語』の『アラジンと魔法のランプ』。監督は『シャーロック・ホームズ』『コードネーム U.N.C.L.E.』などのガイ・リッチー。ランプのジーニーを演じるのは、ウィル・スミス。王女ジャスミンはインド系イギリス人ナオミ・スコット。そして、アラジンを演じるのは、競争率の高いオーディションを勝ち抜いたエジプト系カナダ人のメナ・マスードです。

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事前に試写を観ていた複数の802関係者から、「マチャオ、いつの間にアラジンに出てたん?」なんて聞かれてたんですよ。僕はもうこの手のフリにはわりと慣れているので、やれ「撮影は大変やった」とか「眼の前で見るジャスミンは美しかった」とか適当なことを言ってたんです。あ〜、また僕に似てる人がいるんだなと。これまでも、ジェームズ・フランコアダム・ドライバー、大人気海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のキット・ハリントン、そして眼鏡に帽子という条件付きで、ジョニー・デップなどなど。確かに、どの役者さんも映画によって役によって、僕に似てはいるんだけど、今回のメナ・マスード演じるアラジンは段違いかなと、僕も思います。僕もだんだん映画を観ていて他人事には思えなくなってくるくらいだったんですが、不思議とリスナーからは誰にも言われなかったんだよな。雅夫はアラジンなのか、マサジンなのか… 
 
てなことはどうでもよく、音楽には、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』でお馴染みのソングライターコンビ、パセク&ポールも参加して、実写版オリジナルの曲を提供しています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

何度か話している通り、ディズニーは今や最強のポジションを獲得しているわけです。ピクサースター・ウォーズも取り込んだばかりか、今年は20世紀フォックスも買収しちゃいましたから。映画業界という世界でのディズニーランド、ディズニーの国の領土をぐいぐい広げているわけです。そんな中で、さっきも言ったように、名作アニメの実写化が相次いでいます。その理由は何か。ひとつは、日本での漫画実写化が多い理由と同じでしょう。興行的なリスクの低減。もともと売れてる知名度の高い物語であれば、集客にも苦労するまいという、コンテンツそのものの魅力にあやかるパターンですね。しかも、オリジナルが自分のとこのものなので、そして、もうひとつ僕が事の本質だと思っているのが、2010年代現在の価値観での語り直しです。オリジナルアニメでは「アナ雪」や『ズートピア』に象徴されるように、それぞれの役割とか「らしさ」から解放された多様なキャラクターが活躍する物語を生み出しています。そこで、90年代にディズニー復活の礎となった名作たちも、この際そういう価値観でやってみようというわけです。
 
多様性は早速キャスティングに出ていますね。黒人、アラブ系、インド系という3人がメインなわけです。ストーリーラインは大筋ではもちろん変えていないがために、違いに注意がいくように設計されているわけですが、その最大の違いはジャスミンです。「プリンセスがちょいと庶民の生活を覗いてみました」ってな『ローマの休日』的なレベルではなくて、なんと自分で王位を継ぐ気満々なんですよ。舞台がアラブだけに、その意志の驚きがさらに増します。演じたナオミ・スコットはいい女優ですね。役者の身体をのびのびと見せるガイ・リッチー演出が冴えていたアラジンとジャスミンの出会いから逃走のくだりでも、「やる時はやる」っていうジャスミンの意志の強さを匂わせていて良かったです。そして、何より『Speechless』という今回のための新曲! ナオミは歌もうまい! そして、「あたいは黙ってないわよ」っていう気持ちがちゃんと伝わってきます。

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そして、キャストと言えば、ウィル・スミスですよ。オリジナルではロビン・ウィリアムズが声を当てていて、その印象が強烈だったわけですが、それをウィル・スミスはリスペクトしながらも自分らしく更新してみせることに成功しています。なにせ実写で出るわけだから、プレッシャーも相当だったと思うんですが、まあのびのびしていること。これもやはり音楽的な効果が大きいです。『Friend Like Me』では得意のラップをさせてるし、ウィル・スミス最大のチャームである表情のバリエーションの豊かさをたくさん見せていましたね。そこからの、魔法でアリ王子になったアラジンとジーニーが率いる大名行列的なインド映画的カーニバルなんて圧巻です。はっきり言って、文化的にはもうカオスなんだけど、そこは力業でもっていってます。時に物語に暗雲が垂れこめても、ジーニーが、いや、ウィル・スミスがそれを軽やかにコミカルにしてくれることで、画面が一気に華やぎました。
 
とまあ、基本的に楽しんだ今回の実写リメイクですが、違和感もありました。これも大きなものを2点挙げます。悪役であるジャファーの心情がうまく表現しきれていなかったことで、奴がすごく小者に見えるので、ハッピーエンドへ持っていくためだけの道具に成り下がってしまっていたこと。そして、ディズニーにつきものの動物描写ですが、猿はすごくいいとしても、虎はかなり厳しい。当たり前だけど、虎がむちゃリアルなので、ジャスミンすら魔女っぽく見えるのは問題ですよ。なんなら端折っても良かったかな。実写の利点を虎についてはうまく物語に落とし込めていなかった印象ですかね。まあ、でも、こうした違和感も、主要キャスト3人と音楽と今回はやり過ぎなかったガイ・リッチー演出が織りなすハーモニーに取り込まれれば、ほんの些細なノイズに過ぎません。誰にでも勧められる楽しいリメイクだったと思います。


さ〜て、次回、2019年6月20日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『メン・イン・ブラック インターナショナル』です。お、2週連続ウィル・スミスと思いきや、今回は出演してないんですよね。前作からずいぶん空いてのシリーズ復活はどうなっているのか。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく! 

『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月6日放送分
映画『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』短評のDJ's カット版です。

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5年前のゴジラとムートーの戦いで息子を失ってしまった動物学者マーク・ラッセルは、特務機関モナークから離脱していました。一方、中国にあるモナークの基地ではマークの元妻エマが、娘のマディソンと一緒に孵化したモスラの幼虫との交信を試みます。そこへ、環境テロリストの傭兵部隊が襲撃。ふたりは拉致され、怪獣と交信する装置オルカも強奪されてしまいます。
 
巨大怪獣の存在が公になった今、武力によって怪獣たちを制圧するべきだという世論や政府の意見に対して、ゴジラ研究の第一人者芹沢博士を擁し共存の道を探るモナークラッセル親子と交信装置オルカを救出しようとするものの、南極でモンスターゼロと呼ばれる怪獣が目覚めてしまったことで、それを察知したゴジラが南極へ向かうなど、事態は混乱します。モスララドンキングギドラといった怪獣が次々と復活する中で、モナークを始め、人間はどう対応するのか。そして、怪獣たちの戦いの行方は?
日本が世界に誇るゴジラシリーズのリブートであるハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』から5年。その続編ということになりますが、怪獣たちが地球にうごうご蘇るという、レジェンダリー・ピクチャーズ製作のモンスターユニバース構想の中では、『キングコング:髑髏島の巨神』に続いて3作目にあたります。ちなみに、モンスターユニバースの次回作も既に決まっていまして、『Godzilla vs. Kong』が2020年5月に公開予定です。
 
監督は、前回のギャレス・エドワーズからマイケル・ドハティに交代となりました。彼は『X-MEN2』や『X-MEN:アポカリプス』、それから『スーパーマン リターンズ』の脚本を手がけていますが、筋金入りのゴジラ・ファンです。芹沢博士に扮するのは、我らが渡辺謙。他に、カイル・チャンドラーヴェラ・ファーミガサリー・ホーキンスチャン・ツィイーなどが出演しています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

いろいろと監督インタビューを漁っていた中で、面白い発言に行き当たりました。曰く、「この映画はモンスターオペラです。『スター・ウォーズ』がスペースオペラであるように」。そして、構造として『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』に大きな影響を受けていると、映画サイトTHE RIVERでも答えているんですね。
 
前回現れたムートーをゴジラが撃退したことで、とりあえずの平穏が戻った地球でしたが、街は破壊され、多くの人命が失われたわけです。そこで、政府なんかはゴジラを含むかつての地球の支配者たち巨大怪獣たちを葬り去るべきだと主張します。つまりはこういうことです。地球の現支配者である人類が、その主導権を蘇った怪獣たちに渡すまいとする。一方、モナークは人類と怪獣の共生を模索します。ゴジラたちは生態系の一環であって、彼らの活動によって地球は再生に向かうのだから、うまくコントロールすれば、共生もできるし、地球環境も改善する。大雑把にまとめれば、こういうことだろうと思います。だからこそ、彼らはモンスターではなく、巨大生物をタイタンと呼ぶわけです。タイタンというのは、ギリシャ神話に登場する巨人族の神のことです。
 
ただ、作品を観ればわかるように、今回は人間たちは特にちっぽけな存在です。この物語における人間の役割は、だいたい何かを起動することです。もともと地球にはいなかったギドラを覚醒させる。禁断の武器をあっさり使用する。ゴジラをバックアップするためにこれまた禁断の核を使用する。などなど。あとはね、オスプレイとか乗り物に乗って、怪獣たちの戦いを眺めたり、よせばいいのに近づいてトバッチリを食らったりするばかり。はっきり言って、無力でした。人類と怪獣をそのままジェダイたち共和国とシスの帝国になぞらえるのは乱暴だけれど、確かに物語の構造としてはエピソード5帝国の逆襲に似ている展開を見せます。

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故に本作は、怪獣映画大好きで、怪獣たちの戦いにこそ楽しみを見出す観客にとっては、東宝オリジナルへのリスペクト満載で狂喜乱舞となるわけです。いいぞ、ドハティ監督、お前分かっとるなってことですよ。確かに、モスラの優美な姿や十字架と同時に画面に映るギドラの神々しさ、そしてゴジラをまさに神の中の神と位置づけるような存在感と神殿での芹沢博士とのやり取りなど、絵画的なキメの構図をうまく取り入れた画作りはすばらしかったです。これは宗教映画の変種と思わせる演出も随所にありました。キャストにも活かされていた西洋と東洋の価値観の違いも盛り込んでいて、なんかグチャグチャしてるけど、よくやったと思えます。
 
逆に、怪獣に相対する人間たちの欲望と葛藤のドラマを見たいという観客にとっては、ちと物足りなくなってきます。というか、大味に感じられるわけです。怪獣とコミュニケーションを取ろうとする様子も、自己犠牲的な研究者たちの行動も、ドラマとしてはわかるけど、なんかすごく小さいし、彼らの操ってる乗り物に比べて技術がチープに見えたり… なんか、スケールが釣り合ってないんですよね。そういうもんだと言われりゃ、それまでですけど。

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1本の映画としての完成度と、ゴジラと人間のバランス、そして現実の世界への批評と風刺という意味では、やはり『シン・ゴジラ』に軍配が上がるかな。

 
でも、不満足だなんて僕はまったく思ってなくて、むしろそりゃ興奮しました。構図としては「逆襲」したゴジラたちですが、ほとんど傍観するしかなかった地球の支配者たる人類はこれからどう知恵を絞るのか。ていうか、キングコングは今何してるんだ? どこにいるんだ? その行方と期待は来年に持ち越しです。


僕が観たのは字幕版だったのですが、吹き替え版では最後にこの曲が少し流れます。ボーカル川上洋平くんのたっての願いがかなってのゴジラ映画への参加となりました。


さ〜て、次回、2019年6月13日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『アラジン』です。僕が出ているという噂は本当なのか!? あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!  

映画『空母いぶき』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年5月30日放送分
映画『空母いぶき』短評のDJ's カット版です。

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近未来のクリスマスイブ。沖ノ鳥島の西450キロにある離島に、国籍不明の軍事組織が上陸し、海上保安庁の隊員を拘束します。海上自衛隊の指示によって現場へ急行することになったのは、訓練航海中だった航空機搭載型護衛艦の空母いぶきを擁する艦隊。その存在自体が、国是である専守防衛に適っているのかどうか、つまりは憲法違反ではないかと物議を醸した攻撃型戦略空母です。現場海域では、艦隊が突然のミサイル攻撃を受け、事態はまさに一触即発。自衛隊員、総理大臣など内閣や官僚たち、いぶきに乗り込んでいたメディア、一般市民など、映画は様々な立場の人物を物語に巻き込みながら、日本が戦後経験したことのない緊迫した事態を描きます。

空母いぶき(1) (ビッグコミックス)

原作は、2014年にビッグコミックで連載が始まり、今も続いている、かわぐちかいじの同名漫画です。監督はベテランの若松節朗(せつろう)。テレビマンから出発して、ドラマ『振り返れば奴がいる』など、主にフジテレビのドラマ黄金期に活躍した後、映画業界へも進出。『ホワイトアウト』『沈まぬ太陽』あたりが代表作。脚本は、『攻殻機動隊』や『パトレイバー』など、アニメや怪獣モノを得意とする、こちらもベテランの伊藤和典

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 続いて、キャスト。いぶき艦長に西島秀俊、副長に佐々木蔵之介、総理大臣に「一流」役者の佐藤浩市、ネットニュースの記者に本田翼がそれぞれ扮している他、藤竜也村上淳市原隼人山内圭哉玉木宏高嶋政宏(まさひろ)、斉藤由貴片桐仁中井貴一小倉久寛吉田栄作と、ちょっと簡単には端折れない顔ぶれです。

 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

チェーホフの銃」という言葉をご存知でしょうか。伏線の張り方のテクニックとして物語論の分野で知られるものなんですが、ごく簡単に言えば、「ストーリーに銃を登場させるなら、それはいつか発砲されないといけない」ってこと。僕は映画を観ていて、そのテクを思い出しました。抑止力の議論を今ここで話し始めると、時間内に収まりませんから省きますが、物語の論理から行けば、自衛隊がやがて戦闘行為を行うのは必然です。実際のところ、戦後初の防衛出動、つまりは軍事行動を取れという命令が政府より出ることになります。
 
ここで、原作漫画からの大きな改変について触れておきましょう。映画では序盤から当然情勢分析が成されて、当初は国籍不明だった軍隊が、フィリピン周辺の民族主義新興国「東亜連邦」のものだと判明します。つまり、IS、イスラム国的な架空の国なんですね。ところが、漫画では上陸される島が尖閣諸島であり、相手国ははっきり中国です。
 
領土問題やアメリカと中国の貿易摩擦北朝鮮の動き、韓国との数々のわだかまりなど、極東アジアの現実の不安定な情勢と憲法改正論議を踏まえ、「もしこういうことがあったら自衛隊はどう動くのか」をシミュレーションする物語です。その相手国を架空のものに改変した思惑は別として、結果としては、あくまで現憲法下で自衛隊にどんな可能性があるのかという側面によりフォーカスする効果はあったと思います。

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それから、もうひとつの大きな改変は、訓練中だった「いぶき」に報道の人間がふたり偶然乗り合わせていたことと、東京の一般市民がその報道を受けてどう動いたのかというドラマを盛り込んだことです。実は相手国の姿はほぼ登場しません。この映画が描くのは、日本側のリアクションなので必要ないという判断でしょう。一見すると、報道関係者や一般市民を登場させるのは視野を広げてはいるんだけど、日本の多様な受け取り方に的を絞っているので、これも基本は焦点化の一環と言えるんじゃないでしょうか。それから、物語自体も、漫画では1年以上にわたる時間が経過しているのに対し、映画はクリスマスイブの24時間に縮められています。これも、ドラマに緊迫感をもたらしつつ、2時間程度の映画として焦点化するのに寄与しています。
 
事態がのっぴきならないものになるにつれ、明らかになってくるのは、それぞれの立場の違いです。好戦的な人と穏健な人、タカ派ハト派、アクセルとブレーキ。そうした差異がその都度議論され、戦闘行為に反映されていきます。

シン・ゴジラ

この構造は『シン・ゴジラ』に近いんですが、あちらはゴジラという圧倒的な存在が画面に君臨したし、会話にしても庵野秀明演出による情報量の過剰さがエンタメとして機能していたのに対し、今作は極めて地味ってのは否めないです。映像の見せ方にしても編集にしても、当たり前というかテレビ的というか、とにかくわかりやすさに終始しているので、緊迫感をもたせるサスペンス的なうまさはあっても、見ごたえはちと物足りません。
 
ただ戦闘シーンそのものはね、ハリウッドレベルのCGを期待されると厳しいですけど、予算の制約がある中で、何箇所かを除いて、奮闘していたと思います。ちゃんと浸れる。
 
そして会話。もちろん肝になってくるわけですが、そこはたとえば西島秀俊佐々木蔵之介、アクセルとブレーキのシーソーゲームを思い出せばわかるように、基本的に役者の力量がグイッと僕らの興味と集中をキープしていました。その分残念に思ったのは、会話をどう始めるか、その場面づくりがかなりの割合で唐突なので、その都度リズムが崩れていたこと。

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唐突つながりで言えば、やはりラストは気になりました。「そんなのあり!?」ってなるでしょ。架空の国「東亜連邦」の設定がうすぼんやりしてるのはまだいいとしても、現実に存在する国や組織をラストにこれまたわりとぼんやりした理屈で持ち出してくるのは、飲み込みづらいものもありました。現実にあり得るかってことよりも、とにかく唐突っていうことですね。
 
そろそろまとめますが、僕はそれでも観る価値は十二分にあると思っています。僕ら市民が考える材料を提示するという意味で、この映画の果たす一定の役割はあります。最後に吉田栄作が演じる外務官僚が外交の基本的理念を語っていましたが、僕が注文をつけたいのは、彼(ら)の果たした役割にももっと比重を置かないと、とにかく「自衛隊の存在は大事」だとか「空母は必要でしょ?」っていう政治的プロパガンダだという批判は免れないでしょう。

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それこそチェーホフの銃じゃないですけど、強大な武器が登場すれば、人はやがてそれを使いたくなるものです。出世して艦長になった西島秀俊が総理大臣相手に、いぶきをおもちゃに見立てて、おもちゃは遊びたくなると言ってのけた。ゾッとする場面でしたね。まあ、そんな彼の考えは一連の騒動を通して、少しは改まる様子が匂わされますけど、本来我々が考えるべきは、官僚と政治家の目立たないが地道な外交努力によってこうした事態を回避しなければいけないことです。つまりは、日本に空母が必要なのかを考えるところからスタートしないといけないというのは、この映画の前提条件として、あるいは鑑賞後に立ち戻るポイントとして心に留めていただきたいと僕は思います。


さ〜て、次回、2019年6月6日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』です。渡辺謙が「We call himゴジラ」と言い放ってから5年。物語内でもちょうど5年進んでのハリウッド版2作目です。監督もギャレス・エドワーズではなくなっているんですが、果たして。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!  

『レプリカズ』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年5月23日放送分
映画『レプリカズ』短評のDJ's カット版です。

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人間の意識・記憶を抽出して、コンピューターへ。プエルトリコにあるバイオ系企業の研究所で行われていた研究は佳境を迎えていましたが、そのデータをロボットの脳にインストールするとバグが起きていました。研究資金にも期限にも限りがある中、悩む神経科学者のウィリアム・フォスターでしたが、息抜きにと出かけた旅行で起きた事故で、最愛の家族4人を同時に亡くしてしまいます。茫然自失のフォスターは、そこで一線を越え、家族のクローン、つまりはレプリカを作ろうとするのですが…
 
監督は、ディザスタームービー『デイ・アフター・トゥモロー』が代表作のジェフリー・ナックマノフ。クレジットを確認すると、製作だけでも5人いて、そのうちのひとりはキアヌ・リーブス。あと、『トランスフォーマー』シリーズのロレンツォ・ディ・ボナヴェントゥーラなんかがいます。そして、製作総指揮にいたっては10人以上名前があるんです。船頭多くして船山に登っているんじゃないかという不安がよぎりますよ。主演はキアヌ・リーブス。妻のモナに扮したのは、アリス・イヴ

ジョン・ウィック(字幕版)

しかし、キアヌはとにかく散々な目に遭いますね。スクリーンのそこかしこで。公式サイトのコピーはこれです。「暴走が、止まらない」。ハッシュタグは、#キアヌ暴走です。アメリカではキアヌ主演の人気シリーズ3作目『ジョン・ウィック:パラベラム』が公開され、その週まで続いていた『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』の興行収入ランキング4週連続1位を阻んだということですが、あくまで客観的な情報として伝えておきますと、この『レプリカズ』は残念ながらアメリカではすっ転んでおります。
 
それでは、暴走するキアヌを僕がどう受け止めたのかを語る、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

キアヌ・リーブスほどのスターが主演するSF映画にしては、と言うべきだと思いますが、これは愛すべき珍品です。おそらく予算もそこまで潤沢にはなく、脚本ができあがるプロセスにも紆余曲折があり、作品として空中分解するギリギリ手前のところで、とにかくキアヌの魅力と、なんかわからんがとにかくたぎっている強烈なパッションが観客の興味を持続させるという感じ。酷評は簡単にできるんだけど、僕はそうはしたくない。そんなバランスですかね。
 
いくつか具体的にピックアップしましょう。まずは登場する技術と設定が、だいたいどっかの映画で見たそれこそレプリカの寄せ集めって印象は拭えないですよね。だいたい意識を抽出するのに使うローテク感満載のヘッドセットはなんなんですかね。あれで頭を固定して、目の内側にずぶりと針を刺して脳にアクセス。おそらくは神経にあの針先が触れて、そこから脳内の情報を吸い出すイメージですよ。なんかすんごいアナログなのね。たぶん、あの針を眼に刺すっていう悪趣味な絵面をやりたかったんでしょう。このあたりの発想からも、B級SFホラー感がぷんぷんするわけです。

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脚本の流れは、だいたいが行き当たりばったりと後出しです。まずあんな嵐の中、車で無理やり休暇に出るなって話なんだけど、ともかく家族が亡くなってしまい、キアヌだけほぼ無傷。これはもうキアヌだから、ジョン・ウィックだから、それでいいんです。ただ、当たり前だけど、途方に暮れますね。家族の死体を車から運び出すなんて辛すぎる。ただ、次のアクションですよね、ポイントは。研究仲間のエドスマホで連絡。家族の脳内データを抽出するから、「あれもってこい!」ですよ。ここからこの映画におけるキアヌの暴走が始まります。
 
ただ、そこで急に持ち上がるのが、クローン人間培養器の存在です。見た目は、液晶画面の付いた、ただのでっかい水槽。専門分野の異なるエドがその水槽の管理者っていうんだけど、はっきり言って、あの水槽自体がノーベル賞級っていうか、「そんな技術あったんだ!」って、こっちが眼をひんむいてしまう事実でした。しかも、何もないところから、死んだ家族の身体を年齢までそのままに完全再現できちゃう。ただし、意識は白紙状態だから、死体から抽出した意識をそこにインストールする。もうね、SFって言っても、発想が中学生です。ていうか、そんなことできちゃうんだ! ていうか、この研究所、この話が始まる前からとっくに暴走してたってことだし、そこに研究者たちがあっけらかんと参加してるってこと自体がマズイよね。

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問題はその水槽が3つしかないから、家族の数と比べて足りないってことでの葛藤が生まれる。それをどう乗り越えるかも見ものですね。そんでもって、なぜか子供も妻も年齢が違うのに同じ日数で完成する肉体。そこからの、家族がひとり欠けたことを隠すためのSNS上のアリバイ工作とかも、なんかわからんが面白い。もはや筋と関係ないネタに笑えてしまう。もっと大きな問題は、蘇る家族の記憶改ざん技術がね。また出ました。「そんなことできちゃうんだ! 」。そして、あとは勘づいたバイオ企業からの逃走劇で、文字通りキアヌ暴走。
 
マチャオは今日はかなりネタバレしてんなあって思うかも知んないけど、普通に公式サイトでここまで出てますから、ご安心を。ここまでただただツッコミを入れてきました。以上、デキの今一つなB級SFでした。って片づけたくなくなるのは、結局、キアヌ演じるフォスターの家族への愛情が軸にあるからだと思います。そして、はちゃめちゃな技術うんぬんは別として、身体も記憶も完全再現できちゃえるんだったら、それはもうクローンでありながら、人だよねっていう、ほとんどは過去の映画史のつぎはぎレプリカなんだけど、そこは「人間ってなんだろう?」という問いかけとしては面白いんです。この手の映画って、エンディングでゾッとさせるもんだけど、『レプリカズ』の場合はブラックでホラーな味わいプラス、ハートウォーミングな落とし所も用意してありまして、それは他にあんまりないんじゃないかな。ということで、結論として、もう一度繰り返すと、これは愛すべき珍品です。


 

別にサントラでバングルズが使われているわけではないんですが、フォスターのあの(自己中心的ではあるが)強い家族への想いを目にした後にふっと浮かんできた曲です。なんか、80年代の曲をかけたくなる懐かしい味わいもあったような… そりゃ、きのせいかな。ってことで、番組では評の後にお送りしました。

 

公式サイト、ぜひ閲覧してみてください。トップに映画.comでの特集記事へのリンクがあるんですね。これは配給がパブリシティ目的で依頼した記事だろうと想像するんだけど、普通はそういうのって苦労してでも褒めるわけですよ。ところが、映画.comも踏み込んでるよ。記事のタイトルだけ言っときましょうか。「5分に1回起きる『キアヌの間違った選択』に全力でツッコむ映画」ですから。「いじらしいほどの『ツッコまれ待ち』ムービー」だって言い切ってますから。その記事も笑えるから読んでもらいたいし、何よりも作品も観てほしいです。『アヴェンジャーズ/エンドゲーム』とか間違いないやつでお腹いっぱいになったところに、こういうのをチョイスするのもオツなもんです。

eiga.com


さ〜て、次回、2019年5月30日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『空母いぶき』です。これはまた意見の割れそうなものが突撃してきました。映画の出来不出来とは別に、専守防衛自衛隊だの問題で意見が分かれるような内容なのだとしたら、これは評が難しいところだけど、気合いを入れて臨みます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!