1959年のディズニーアニメ『眠れる森の美女』で、オーロラ姫に永遠の眠りの呪いをかけた悪役マレフィセントを主人公に、「実はこういう話でした」と現代の価値観で名作を語り直してみせた前作から数年後の物語です。マレフィセントがオーロラ姫との間に恋愛とも血縁とも違う「真実の愛」を感じて以来、妖精の国で健やかに暮らしていたオーロラ。前作にも登場した隣国のフィリップ王子がやって来て、ふたりは結ばれます。ところが、フィリップの母イングリス王妃はそれを良しとせず、結婚の挨拶に城を訪れたマレフィセントと火花を散らし、やがてそれは大きな炎へと成長することになるのです。
監督は、アカデミー賞で美術賞を2度獲得していたロバート・ストロンバーグから、今回は『コン・ティキ』『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』のヨアヒム・ローニングへとバトンタッチされました。メインキャストは変わらず、マレフィセントをアンジェリーナ・ジョリー、オーロラをエル・ファニングが演じる他、イングリス王妃役には、ミシェル・ファイファーが抜擢されました。さらには、我らがギタリストMIYAVIが、マレフィセントと同じ種族のひとりを演じています。
前作は2014年7月にラジオで評して、概ね好意的に捉えていました。単に実写化するだけでなくて、エピソード0からおとぎ話を語り直す、しかも悪役をただ悪に染めないというか、鮮やかに視点を逆転させるのはゾクゾクしました。男の活躍がほぼないってほどに徹底してフェミニズム映画でもありましたが、それ以上に、妖精という異形の者たち、自分とは違う者との共存というディズニーの思想が反映されていて現代的だし、アンジェリーナ・ジョリーの出で立ちが何しろハマっていて、全体として好ましいと話しました。
やはり、結婚から始まることになったこの物語。そこで勃発するのが、マレフィセントと隣国のイングリス王妃による女の戦いです。後に理由は描写されますが、イングリス王妃はとにかく妖精たちを嫌っていて、何なら根絶やしにしたいと目論んでいます。ミシェル・ファイファーがまた見るからに悪そうで怖いんだけど、だいたい思った通りの悪役っぷりを発揮します。マレフィセントとの対比という意味では仕方のないことかもしれませんが、そこが僕には不満と言えば不満ではありました。彼女にもう一歩踏み込んで厚みのある人間像を与えれば、そりゃ最後はあの仕打ちでいいかなと納得できるんだけど、あれだとただただ悪い奴なんで、それじゃ元のマレフィセントのイメージとそう変わりないじゃないかと。第2のマレフィセントかよって。
一方のマレフィセントについては、前作からふたつ変化がありました。ひとつは、主にカラスのディアヴァルとのコンビで見せたかわいさ。本音を隠す時の表情、感動して涙を流しているのにそれを認めないとか、かわいいなぁ。アンジェリーナ・ジョリーのセクシー・ショットも見逃せないし、キャラクターの魅力を深めていたのが、ひとつ。もうひとつは、てっきり妖精だと思っていた彼女の出自が思わず明らかになるところです。角と翼の生えた種族がまさかあんなにいたとは… って、ずいぶん性急で取って付けた印象もありましたが、ああいう部族が出てきたことで、クライマックスの戦闘がスペクタクルとして見ごたえのあるものになったと思います。しかも、小さな妖精は狭い場所に押し込めて、大きなマレフィセントたちはオープンスペースでと、ふたつのドラマを同時進行させることで、映画的にもうまく間を持たせていました。それぞれの空間造形も、さすがはディズニーという代物でした。人間側の戦闘方法が、言っちゃえば化学兵器なんですよ。でも、毒ガスだと目に見えないわけで、赤い粉にしてあることで、これがまた画面に美しさと悲壮感を与えるという仕掛けでしたね。
結局なんの話って、『ズートピア』的な世界観というか、より多様化した生き物、種族の共生です。で、あのフィナーレでしょ? 結局、何とか『眠れる森の美女』に着地するという荒業を成し遂げています。ただ、前作よりも尺が20分近く伸びているわりには、話がまとめきれておらず、特に最後はバタバタしすぎて、そんなトントン拍子に行くかいなって思うし、王妃への対応に拍子抜けっていうか、ずっこけた人もいるでしょう。サブキャラのサブっぷりも著しすぎて、男たちの無能ぶりもやりすぎだろうとは思いました。だいたいマレフィセントが窮地に陥ってからの〜?ってのが、いくらなんでも強引だし、それ、今回取ってつけた能力だからねっていうツッコミは避けられません。でもね、僕は最後におとぎ話に戻してみせたんだと解釈しています。王妃の悪意に満ちたプロパガンダに対し、おとぎ話らしく夢を描くことで幕を引いた。そう捉えると、この映画が好きになります。最後にお願いとしては、もう続編はやめてください。これで十分です。もう映画としてギリギリ崩壊寸前だったんで…
さ〜て、次回、2020年4月21日(火)に扱う作品は? はい、「お家でCIAO CINEMA」が続きます。このコーナーでこれまで扱いそこねた、つまりは僕が外した「準新作」と言えるものをおみくじに入れて、敗者復活的に作品を選んでいきます。で、今回僕が引き当てたのは、『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』でした。北条司の世界観がフランスでどう再現されていたのか。ワクワクと不安が今僕の胸の内で交錯していますよ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!