京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

パンチ!パンチ!パンチ!2 〜ネバー・ホームレス〜 (旧ウェブサイトコラム『小噺パラダイス』)

どうも、有北です。
そのとき、その泥棒に入られた友人は、こんなことを言ったんです。
「でもさあ、直すためには、ドア全部直さなきゃいけないのよ。18万円もかかるのよ。」
とんでもないことを言うのだ。ドアひとつに18万円だって!ちょっと、待ってくれ、復習だ。いいか。当時僕の住んでいたアパートの家賃は1万5千円。年間では18万円。イコールだぞ。ドア、イコール、僕の家の年間の家賃。だがその時一緒に話を聞いていたポンデ雅夫は、
「でも、もっと高価なもの盗られること考えたら、よかったじゃないか。」
などと、能天気なことを言っている。うつけもの。ばかもやすみやすみ言え。そのドアの価値を一瞬にして計算した僕は、もう少しでやつらを一喝してしまいそうになった。危ないところだった。
しかし、彼女に起こった不幸が僕にも降りかかっていたかと思うと、そらおそろしい。18万円の損失。それは、僕にとっては1年間の野宿を意味する。晴れの日も、雨の日も。暑い日も、寒い日も。野宿。エブリデイ野宿だ。いやだ、せめて家は欲しい。
「せめて家はほしい!」
叫んでいた。知らず知らず、叫んでいた。みんなぽかんとしている。「どうしたんだよ、有北。」ポンデ雅夫が僕の肩に手をやる。
「やめろよ!・・やさしくしないでくれ・・みじめになるから・・みじめになるから!」
僕は彼の手を振り払って、外に飛び出していた。