京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

トラブル・オブ・サイクル 5 〜僕と彼女の生きる道〜 (旧ウェブサイトコラム『小噺パラダイス』)

どうも、有北です。
車道という名のまさに地獄を無事に脱出するために、僕は必要以上にペダルをこがなければなりませんでした。いきおいスピードものるというもの。しかし、ブレーキはかけられない。このジレンマ。解決策としては、しばらくこがず、自然にスピードが落ちてくるのを待つしかないわけだが、道は無情にも下り坂へと続いている。かくなる上は、歩行者が一人もいないことを願うしかない。僕は決死の覚悟をもって、目の前に続く坂道へと突入しました。
歩行者が、いた。
どれだけ運が悪いんだ僕は。
歩行者はおばちゃんだ。こちらを見ている。なんだ。右にも左にも避けようとしない。わかる。おまえの気持ちはわかる。まさかこんなに速度ののった自転車がブレーキもかけず自分めがけて突っ込んでくるなんて思ってもいないんだろう。どうせ向こうがよけるわ、と。そう思ってるんだろう。
甘い。
甘いぞ。僕は、ブレーキをかけるつもりはないんだ。これは、意志だ。強い意志だ。
僕とおばちゃんの目が合う。くそ、強い目だ。やつは持久戦も辞さない覚悟だ。先に動いた方が負けだと、やつの目はものがたっていた。二人の距離が縮まる。やつはまだ動かない。もう一度彼女と目が合う。彼女の、強い目。僕はこの戦いに負けた。
ブレーキ。
精神的な疲労から自転車を降り、その場にくずおれる僕。自分を打ちのめした勝者を讃えるべく、顔を上げる。彼女の姿はもうどこにもなかった。僕と彼女の生きる道はこうして一瞬だけ交わり、そして離れていったのだった。
そして、僕は再び自転車に跨り、家路につく。  (おわり)