京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

女子大生三人組に逆ナン!?? 〜出会いは想定外〜   (旧ウェブサイトコラム『ローマで夜だった』)

 これはつい先日僕の身に降りかかった出来事です。自宅近くの停留所で、僕はぼんやりと空を眺めていました。いつまでたってもバスが現れないので、時間を持て余していたのです。この街ではそれくらいのことでいらいらしても仕方がないので、どっかりベンチに腰掛けて、雲の行方を追いかけることにしていたというわけです。すると、どこからともなく日本語が聞こえてくるではありませんか。しかも若い女の子たちの。ローマがいくら観光地だとは言っても、僕が住んでいるのは街の外れです。ぐるりとローマを取り囲む環状道路の外なんです。観るものなんてありません(下にあるのはローマの地図です。緑のラインが環状道路。僕は見事に蚊帳の外…)。

 イタリアの都市計画を少しでもご存知の方ならお分かりいただけると思うんですが、いくら都会であっても、一歩外へ出ると驚くほど田舎になるものなんです。そう、正確に言えば、僕はローマに程近い田舎に住んでいるわけです。従って、近所で日本人を見かけるなんてことはめったにないことなんです。耳を疑った僕がその声のする方向を向いてみると、今度は目を疑うことになりました。女の子たちは三人組だったのですが、そのひとりが大学の後輩にそっくりなのです。まさかこんなところで巡りあうとは。

 彼女たちはまだ僕の存在には気づいていないようです。憧れの国イタリアにやってきた興奮がまだまだ冷めやらぬ様子で、それぞれが手にしている一眼レフのカメラでお互いを撮り合いっこしています。ガイドブック表紙の「イタリア」という文字を指差してお茶目なポーズを決める後輩。おいおい、待てよ。仮にも大学でイタリア語を勉強してるんだから、そこまで舞い上がるなよ。僕は心の中で、そうつっこみました。

 はしゃぎながらも、3人はいよいよバス停に近づいてきます。僕は自分の持てるありとあらゆるリアクションの選択肢を念頭に置きながら、その予期せぬ再会をうまく彩ろうと努めました。ところがです。あろうことか、問題の彼女は僕には目もくれずに、通りすぎていくではありませんか。お〜い。ひどいじゃないか。気づいてくれよ。芝居の稽古だってつけてやったじゃないか! ほとんど子供じみた恩着せがましい言いがかりを胸に秘めつつ、僕はとにもかくにも立ち上がることにしました。左手を顔の高さまで挙げて、「ルリちゃん(仮名)、僕だよ、ポンデだよ」。ところがです。喉元までせり上がっていたその言葉は、ものの見事に踵を返しました。要は声をかけることができなかったということなんですが、それもそのはず、予定外に彼女が振り向いてきたのです。ばち〜ん。見事に目が合いました。とくとくと向かい合う二人。僕とルリちゃん、…じゃない! 誰だこいつは! つい先ほど10メートルほどの距離をはさんで目撃した際には間違いなくルリちゃんだった人が、今こうしてわずか1メートルほどの距離で見るとルリちゃんでないのです。これには正直まいりました。あらゆるリアクションを用意していたつもりでしたが、こんな事実はまったくの想定外だったんですもの。しかし、何とかせねばなりません。というのも、僕はうら若き乙女を前にして、挨拶代わりに手を挙げているのですから。どうする? ただバスを待っていただけなのに、さっきまでのどかに流れる雲を追いかけていただけなのに、どうしてこんな窮地に陥らなければならないのでしょうか? 結局のところ、腕時計で時間を確認するフリをするという、まったくもってクラシカルなやり口でその場をしのいだ僕でありました。いや、本当にうまくしのげたものなのか、実際のところはよくわかりませんが、僕は一刻も早く再び腰を下ろしたかったので、そうして額の汗をぬぐいました。

 やれやれ。くたびれもうけとはこのことだ。そう思いつつ、僕はバスの到着を待ちわびました。ところがこれが来ないんです。ほとんど嫌がらせです。さすがにイライラしてきた僕が再び乙女たちに目を向けると、とんでもないことになっていました。3人が3人とも僕を見つめているのです。またしても予想外の展開にうろたえた僕ですが、乙女の視線を受け止めるのは決してまんざらではありません。慌てて居ずまいを正し、彼女たちの発言を聞き逃すまいと、耳をダンボにしました。すると…。幾度続くか、想定外。僕は頬が緩みそうになるのをこらえるので精一杯でした。