京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

マンローの謎

最近街を歩くと、「マンロー」と声をかけられる事態によく遭遇する。
しかも、決まって幼い子どもたちか、野郎どもから。
最初はなんのことだかさっぱりわからなかった。
そもそも呼ばれているのが私なのかどうかすらわからなかった。

「マンロー! マンロー!」
まただ。
私はマンローではないわけなので、当然ながら無視して先を急ぐと、
好奇の目をした少女が、あろうことかわざわざ自転車で追いかけてくる。
私の行く手を封じた彼女は、
「もしかして、マンローじゃない?」と問いかけてくる。
もしかしてという割りには、その目はずいぶんと自信に満ちている。
「マンローじゃない?」問い詰めるそばかすの少女。
「マンローじゃない」オウム返しで応じる私。
「ほんとに?」
「ほんとに」
「違うの?」
「違うの」
ほとんど禅問答に近い会話の果てに、彼女はがっかりして立ち去って行った。
振り返ってみると、ペダルが重そうに見える。
何だかかわいそうなことしてしまったのかな・・・
胸を張って「マンローよ!」と言ってあげたほうが良かったのか?
しかし、なぜに?

ここまでくると、さすがに私も気になってきた。
マンローとは誰なのか?
何者なのか?

思い立ったが吉日。
私はさっそく学校での調査を開始した。
編集クラスの友人たちに手当たり次第に聞き込みをしたのである、
と言いたいところだが、あまりにあっけなく正体が判明した。
マンローとは中国出身の若き乙女であった。

噂のマンロー

しかしここはイタリア。なぜに彼女がそんなに有名なのか?

これもあっけなくわかった。
4月の総選挙でついに政権の座を譲り渡したベルルスコーニ元首相。
メディア王として悪名をとどろかせる彼がオーナーを務めるテレビ局のひとつに、カナーレ5というものがある。
そこの看板番組『グランデ・フラテッロ(Grande fratello)』に出ていたのだとか。
私は知りもしなかったその番組。
試しにポンデ雅夫に聞いてみた、その存在を知っているのかと。
「ん?う〜ん、そうね、たぶんそうなんじゃないかな・・・」
「ねぇ、聞いてないでしょ、人の話」
「ちょっと後にしてくれる?今、架橋だからさ、話しかけないでほしいんだよ」
神妙な顔つきで何かを読みふけるポンデは、いつもにも増して役に立たない。
でも、やっぱり気になるので、この際だからネットで調べあげることにした。

「グランデ・フラテッロ
英語に訳せば、ビッグ・ブラザー。
一般公募した男女それぞれ5人、合計10人が、
ひとつところで100日間もの長きに渡って共同生活を送る。
無人島のこともあれば、スタジオ内に組まれた「家」であることもある。
期間内には外部との接触が禁じられるので、外へは一歩も出られない。
そしてここからがみそなのだが、
その共同生活の一部始終が24時間、
昼となく夜となく数十台にも及ぶカメラとマイクで記録されるのだ。
記録というよりは監視と表現したほうがいいかもしれない。
視聴者は平日は毎日放送される番組内で、その日に起きた出来事を観察・確認する。

全てを見届けるカメラ

誰々はかわいい、かっこいい、気前がいい、話が面白い、機転が利く、うんぬん。
誰それは感じが悪い、怒りっぽい、神経質だ、人の話を聞かない、うんぬん。
そういった視聴者の判断は、電話やメールでの人気投票とそれに付随するメッセージによって明らかとなる。
投票は期間内に何度か行われ、集計結果の下位2名は落選、
即刻「家」からの退去を命じられる。5分以内という無情さだ。
欠員は新たに迎えられる2名の新入りによって補われるという仕組みになっている。
これを幾度となく繰り返していき、
一番人気があった人には、目が飛び出るほどの賞金が贈られるらしい。
元々はオランダで持ち上がったこの企画。
今ではオランダやイタリア以外の何カ国かでも同様の番組が放送されているようだ。

そういえば・・・
ローマン・マンハッタンを発見して興が乗った私は、
あれからも友達に誘われてはチネチッタ・スタジオ内を探索するようになった。
そしてあるとき、広大な敷地の隅に巨大な看板のかかったスタジオを発見した。
「グランデ・フラテッロ
そのときには映画の撮影でもしてるんだと思っていたのだけれど、
今から思えば、その建物こそが彼らの「家」だったのだ。
その入り口だけは警備が厳重で、内部はまったくうかがうことができなかった。
黒づくめのでかい兄ちゃんたち、ビッグなブラザーたちが、しっかりと侵入者を監視しているのだ。

ぶすっとした無慈悲なビッグ・ブラザーズのおかげで、私はグランデ・フラテッロについて知り損ねていたわけか・・・

そんなことをぼんやりと思い出していると、
背後から「よし、終わった」というポンデの声が聞こえてきた。
私はさっそく調査の成果を披露してみた。

「あのねぇ、さっき言いかけてたグランデ・フラテッロっていう番組のことなんだけどさ」

「グランデ・フラテッロ?そんな話したっけ?それって5チャンネルでやってるやつだろ?
道義的な問題を巡って、イタリア国内では何年も前から物議をかもしてる番組だよ。
人気投票とは言うものの、人が人を裁いてるようなもんだからね。
君はいい、あんたはだめといった具合にさ。
あ、そうだ、つい最近までマーロンとかいう中国人の女の子もいたっていう話だよ」

なんだ、こいつ知ってたんじゃないか・・・なら教えろよ。

「マンローよ、正確には」私は苦虫を噛み潰したような顔で訂正した。

「へぇ、そうなんだ。よく知ってるね」

「まぁね・・・ところで何してたの、架橋だとか何とか言ってたけど・・・」

「ん?あぁ、そろそろ今年も半分終わりだろ、書き溜めてた駄洒落の中から上半期のベストを選定してたんだよ」

なんだ、それは・・・

「で、候補は絞られてきたってこと?よしって言ってたけど。教えてよ」

「聞きたい?えっとね」

「あ、いいわ、やっぱり教えてくれなくていいよ・・・」

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