京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ペッピーノの百歩』① 〜マンゼッラ伯父さんの死〜

 映画『ペッピーノの百歩』(I cento passi 、2000年)は、1960年代にシチリアでマフィアと闘った青年ペッピーノを描いたノン・フィクションです。今回は映画の主人公であるペッピーノ(ジュゼッペ・インパスタートGiuseppe Impastato)が「反マフィア」となった背景について紹介します。

↑実在したジュゼッペ・インパスタート

 ペッピーノは1948年、シチリアパレルモで、マフィアの家系に生まれました。彼の父親はマフィアのボスであるチェーザレ・マンゼッラの義理の兄弟。つまり、ペッピーノの伯父さんは、マフィアのドンなのです。ただ、いくら伯父がマフィアのボスだからといって、ペッピーノ少年にすれば優しい伯父さんだったようですね。映画ではペッピーノが、伯父さんの車を運転させてもらったり、いっしょに床屋に行ったりしている場面が描かれています。

 1963年、そんな伯父さんが暗殺されます。乗っている車ごと爆破されたのです。バラバラになった体の一部が、数百メートルも離れた場所で発見されたそうです。まさに惨殺。犯人はボスの地位を狙っていたガエターノ・バダラメンティでした。しかし、その事実が明るみに出ることはありません。

 映画では暗殺されたマンゼッラの葬式の場面が描かれています。ここで印象的なのが、マンゼッラの妻。彼女は死んでしまった夫の棺おけにしがみつき泣いているのですが、そこへ夫を殺したガエターノがやってきます。すると、彼女はガエターノにむかって行き、彼の胸を何度も殴るのです。彼はその手を掴み、殴るのを止めさせ、彼女を抱擁します。まるで、慰めるかのように。そう、マフィアの世界・理屈では、まさにガエターノは死んだボスの妻を慰めているだけなのです。

↑違和感に満ちた葬式を、不信な目で見つめているペッピーノ

 このマンッゼッラの死は、ペッピーノが反マフィア活動をする大きな動機となります。伯父さんの死、残された家族の悲しむ姿、犯人の無罪、周りの大人の沈黙。「なぜ…?」という気持ちが、ペッピーノ少年の中に生まれたのも不思議ではありません。

 ここで、まさになぜこうした惨たらしい暗殺がまかり通るのか、そしてなぜシチリアの住民たちはそうしたマフィアの行動に対して沈黙しているのか、という疑問が出てくると思います。それを説明するには、ペッピーノが置かれていた1950〜70年代のシチリアの状況、言い換えれば、マフィアとシチリアとの関係を紐解く必要があります。その辺りのことについては、次回で取り上げたいと思います。それではまた。来月までお元気で…


=参考HP=
http://en.wikipedia.org/wiki/Giuseppe_Impastato
http://www.centroimpastato.it/otherlang/peppino.php3