京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

遠すぎるローマ、近すぎるフラスカーティ(心理的に)  (旧ウェブサイト『ローマで夜だった』)

 「隣町のフラスカーティのほうが近いじゃないか!」。行政区域上はローマ市に入る地域でローマ市民として暮らすこと1年余り。つい最近になってこんな切ない事実に気づいたポンデ雅夫が、今回もマイノリティーの視点に立ってコラムをお送りします。ローマに暮らしているのにローマが遠い。このパラドキシカルな現実には以前からも薄々気づいていたけれど、できればあまり受け入れたくない種類の現実だった。がしかし、その無視しがたい事実から目を背けることなく、むしろそれを凝視することによって、いくつかのお話をこの場で開陳してきた(「女子大生逆ナン未遂」シリーズや「びくびく動物ランド」をご参照ください)。要するに、繁華街からの遠さについては十分すぎるほど自覚してきたわけだ。しかし、遠さに着目するあまり、近さにはとんと無頓着だったというのもまた事実だ。それはそうでしょう、だって遠いんだもの、肝心のローマが。そこでフラスカーティ(Frascati)の登場である。


 登場とはいっても、フラスカーティという町は太古の昔からあったわけだし、存在そのものはかなり早い段階から知っていた。僕が今この文章を書いているローマ支部は、マンションの屋根裏に位置している。周りの建物よりも頭一つ分高い構造なので、南向きのテラスからは見晴らしがいい。不動産屋に内覧させてもらった段階で気に入ってしまった。南方はるか先には山々が稜線を描いている。山好きの僕にとってはなかなかおつな景色だ。目を凝らすと中腹に何やら町が見える。それがフラスカーティだった。不動産屋は言う。「あそこではいい白ワインができるんですよ、飲んだことありませんかね、ポンデさん?」。確かに有名なワインだ。僕も大阪で飲んだことがあった。決して高級ではないが、味の良さと料理との相性の良さから、イタリア国内はもとより、世界のあちこちで販売されている銘柄だ。ワイン畑(正確には葡萄畑なんだろうけど、僕には葡萄酒畑としてしか認知できない)に囲まれたのどかでいい場所なんだろうなと僕は想像していた。中空にぼんやりと蜃気楼のように浮かぶ町を眺めながら、そのうち足を運んでみようとは思っていたけれど、なかなかその機会に恵まれなかった。

 ローマ中央にあるテルミニ駅からは電車で半時間ほどで行けるとは聞いていたが、自宅から直接向かうには中距離バスを利用するしかない。イタリアの公共交通機関にはただでさえ不信感を抱いている僕だ。中距離バスなぞ論外である。できる限り私的な交通機関で移動をしたい。しかし、こちらへ来て早々に購入した自転車は早々に盗まれた。オールドファッション幹太には「ローマで本場の『自転車泥棒』を体験したよ」などと言って作り笑いを浮かべた僕だったが、持ち前の運の悪さを改めて突きつけられた形となったこの事件のおかげで、僕の心にはどしゃ降りの雨が降った。それも結構な長雨だった。

 さて、そんな私的交通機関問題が新たな局面を迎えたのは、昨年の初夏。念願だった自動車をオークションで競り落としたのだ。実に中古原付並みの価格で手に入れた自動車は人間で言えば既におじいちゃん。かなり古い車だ。しかし、僕の運の悪さにも陰りが見え始めたのか(心底そう望んでいる)、おじいちゃんは老体をもろともせずにあちこちへと僕を運んでくれるようになった(下の写真は、鼻歌交じりにおじいちゃんを操る僕。クリックすると大きくなります)。そしていよいよ、フラスカーティ行きが決行されることになったのが去年の暮れだ。以前に用事で行ったことがあるというファンシーゆずに背中を押され、僕はおじいちゃんに乗り込んだ。「けっこう時間がかかるんだろう? 坂も上るんだろうし」と、どういうわけだか車には乗り込んだものの乗り気ではない僕だったが、たどり着いて時計を見て驚いた。自宅を出てから10分しか経っていなかったのである。ローマの中心部へ出るのに30分以上はかかるというのに…。いくら郊外で道がすいているとはいえ、まさかこんなにも近いものだったとは。驚きは止まらない。車を降りて散策してみると、フラスカーティはのどかな田舎町というよりは都市の風格を備えていたのである。かなりいい町じゃないか!

 それはあまりにも遅すぎる発見だった。ローマ滞在も残るは半年ばかり。僕は発見の遅れを取り戻すかのようにちょくちょくフラスカーティに足を運んでいる。
 
 途中わき道に逸れてしまうこともあるかもしれないけれど、これから2回にわたって、フラスカーティの魅力について触れながら、ひいてはイタリアの小さなまちの魅力についてぼちぼち考えてみたいと思っている。何だか陣内秀信みたいになってきた感じがしないでもない。いや、する。重複するトピックもあるかもしれないが、僕なりのやり方でそれを料理していくつもりだ。
イタリア 小さなまちの底力 (講談社プラスアルファ文庫)