京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

ベッドサイドには、魔が棲んでいる (旧ウェブサイト『イタリアの小噺バルゼッレッテ』)

 今朝、目覚めてベッドサイドにある時計を見ると、もう午前9時を指していた。おかしいな、と思った。今朝はやらないといけないことがあったから、6時には起きようと思っていたのに、3時間もオーバーしている。これはいったいどうしたことだろう? 僕はベッドサイドの鏡を手にとり、そこに映る自分の寝ぼけた顔を確認した。そののち、これもベッドサイドにある時計のアラームを確認してみる。たしかにゆうべ、アラームは6時にセットしたはずだ。鳴らなかったとしたらとんでもない怠慢である(時計の)。もし怠慢から時計が鳴ることを拒否したのであれば、まあこんなことはしたくないが、解雇も考えなければならないだろう(時計を)。と、そこまで決意して時計を確かめたが、どうも毎朝6時に鳴るようにきちんと設定されている。こうなると考えられるのは、アラームは6時に間違いなく鳴り、何者かがその鳴り出したアラームをこっそりと解除したという許しがたい犯罪である。まあそしてその犯罪を人知れず為したのは、ほかでもないこの僕である。
 二度寝
 言うまでもなく二度寝だ。
 いや待てよ。二度寝ではないかもしれない。僕は最近の目覚ましに標準搭載されているスヌーズ機能を常に利用していて、いったんアラームを止めても、その後1分ごとに鳴るように設定しており、これによると、都合5回は鳴っているはずなのだけど、そうなると、これは考えたくはないがどうやら僕は今朝六度寝をしている計算だ。なにをしてるんだろう、僕は。実は僕は知人に頼まれごとをしていて、約束の期日が今朝の10時、要するにあと1時間後なのだった。もちろんゆうべのうちに済ませておけばなんの問題もなかったのだけど、昨夜は疲労からくる猛烈な睡魔が僕をたやすくベッドへといざなった。だから朝早く起きてやろうとしたのだ。しかしまさかこんなていたらくを…。いや大丈夫、今はまだ9時。10時までは猶予があるじゃないか。だから、本来4時間でやろうと思っていた作業を、特別に1時間でこなせばそれで済む話だ。
 そこまで考えたこの僕は、勢いよくベッドから体を起こすつもりだった。だがそのとき、ベッドサイドにガラス製の細長いなにかを見つけた。それは泡盛の空き瓶だった。一瞬目を疑ったが、泡盛の空き瓶であることは見間違いようもなかった。そして、それがどうも昨夜飲まれたものだという形跡をも確認した僕は、この寝坊の原因を完璧に理解し、そのままもつれこむように自分への弾劾裁判を開廷した。まったく不毛な裁判だ。裁くのも僕、裁かれるのも僕。必要なのは判決じゃなくただの反省だ。そして、時ここに至って僕ははっきりと思い出した。昨夜僕はちょっとした仮眠のつもりでベッドに入ったのだった。たしかそれが夜中の12時頃。30分も寝れば頭もすっきりするだろうと、12時半にアラームをセットしたはずだった。ところがこりゃどうしたことだ。いつの間に僕は朝の6時にセットしなおしてるんだ。どうにも記憶がはっきりしないが、ひとつだけはっきりしているのは、僕は六度寝ではなく、どうも七度寝をしていたということくらいか。いや正確にいくなら、「少なくとも」七度寝だ。八度寝かもしれないし、九度寝かもしれない。なにしろ覚えていないんだ。くそう、泡盛め! それ以上に、自分め! 仮眠だぜ? 仮眠のつもりでベッドに入って、なぜ小脇に泡盛を抱えてるんだ。あのときの自分が理解できない。ご法度だぜ!
 そのとき、ふとベッドサイドを見ると、なんだか食べ残しのサーターアンダギーがある。サーターアンダギー? 泡盛。サーターアンダギー。なんだこの「俺だけの沖縄フェアー」は! いや、なんだじゃない。覚えてる。ここ一週間で、まったく別のふたりからかわるがわるもらった沖縄土産だ。たぶん泡盛のあてに適当なものがなくて、引っ張り出してきたんだろう、アンダギーを。もらった当時は嬉しかったが、今となっては憎い。泡盛。アンダギー。ああ、なんか、もりだくさんだ! ベッドサイドがもりだくさん! だめだ、これ以上ベッドサイドにとらわれていては。ベッドサイドには魔が棲んでいる。そうこうしているうちに時計を見ると9時30分。まずい!
 とりあえず落ち着こう、と、ベッドサイドのリモコンを操作し、テレビをつけてみることに。おや? テレビがすでについている? 今気づいたが、テレビはDVDの待機画面を映し出している。昨夜、見ながら寝てしまって、そのままということか? そうとしか考えられない。30分だけ仮眠しようとした直後に、泡盛を飲み、「俺だけの沖縄フェアー」を開催し、DVDまで観ようとした(そして記憶にはないが、実際に観た)のは、まったく理解の範疇外だが、すべての状況証拠が声高にそう叫んでいる。ベッドサイドのリモコンを操作し、DVDを再生してみる。「人志松本のすべらない話」が始まった。
 ベッドサイドには、魔が棲んでいる。
 例えば、イタリアの小噺(barzelletta)に、こんな話がある。

Dopo una lunga notte d'amore, lui nota una foto di un altro uomo sul comodino. Comincia a preoccuparsi.
 - Questo è tuo marito? - chiede nervosamente.
 - No, sciocchino... - risponde lei, accoccolandosi a lui.
 - È il tuo fidanzato, allora?
 - Niente affatto! - risponde lei, mordicchiandogli l'orecchio.
 - È tuo padre o tuo fratello? - insiste lui, sperando di rassicurarsi.
 - No, no, no! Sei così affascinante quando sei geloso!
 - Beh, allora mi vuoi dire chi e questo? Si può sapere?!?
 - Quello sono io prima dell'operazione...


十分に時間をかけて濃密に愛し合った後、ベッドでたばこをふかしながら、彼氏は、サイドテーブルに自分とは違う男の写真があることに気づき、戦々恐々とした。
「なあ、これ、きみの旦那かい?」おそるおそる、彼は尋ねた。
「違うわよ、ばかね」彼女は答えて、彼のそばにしゃがみこんだ。
「ふーん。じゃあ、婚約者かなにかかい?」
「ノン、ノン」彼女は答えて、彼の耳を甘がみした。彼氏は一瞬恍惚の表情を浮かべたが、すぐに自我を取り戻すことに成功した。今は目先の快感に身をゆだねている場合ではないのだ。
「よせよ、こっちは真剣な話をしてるのに」
「強がっちゃって」
「話を聞けよ。なあ、こいつ、誰なんだ…? わかった! きみのお父さんかお兄さんだよな?」ここまでくると、彼は、推量ではなく希望を口にしているだけだった。気持ち、口調も荒くなる。ところが彼女はそんな彼氏を軽くあしらうばかり。
「違うったら。もう、妬いちゃって、かわいいんだから!」
いよいよ彼氏は彼女に懇願した。
「なあ、こいつが誰なのか教えてくれよ。じらすのはベッドの中だけにしてくれ。このままじゃ俺、おかしくなっちゃうよ」
彼女は観念した。
「それは、手術をする前の私よ」
※訳には多少の脚色がほどこしてあります。

 DVDの停止ボタンを押したのは、9時40分のことだった。若干の後悔はあったが、なあに、大丈夫だ。時間はあと20分もある。20分あればうまい言い訳が考えられるに違いない。僕は自分を信じることにしている。大丈夫だ。
 僕はもう一度ベッドサイドの鏡を手にとり、そこに映る自分を見た。
「それは、9時間40分前の、泡盛を飲む前のあなたよ」とは、もちろん誰も言ってくれなかったけれど。