京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

チネチッタでイタリア・メディア黙示録

 もう去年のことになりますが、イタリアのテレビに出演したんですよ。ええ、それはたいへん光栄な体験でした。ことの始まりは日本人とイタリア人のハーフの友達、ジュリアーノが紹介してくれたのです。彼は過去に何度か映画やドラマのエキストラとしてチネチッタ(Cinecittà)でバイトしていたことがあって、今回はすごい有名なバラエティに出れておもしろいからやってみなよ、と提案されたわけです。番組的に東洋人のヴィジュアルが欲しいというケースは結構あるらしく、ぼくやまわりの日本人の友達には、しばしばこういう話がやってくるのでした。

 その有名なバラエティというのは『チャオ、ダーウィン』(Ciao Darwin)という番組で、司会はイタリアの「みのもんた」と呼ばれるパオロ・ボノーリス(Paolo Bonolis、画像右)。毎回2チームに分かれた視聴者グループが、ゲームやクイズで点数を競い合って勝敗を決めるというコンセプトで、ぼくが出演する回のお題は「東洋人グループVS西洋人グループ」。要は東洋人の数合わせに呼ばれたわけなのです。半ば強引なプロデューサーからの電話で指定日時に撮影所であるチネチッタにやってきたぼく。他の出演者の素人さんといっしょにでかい体育館のような場所に集められます。そこからは、ひたすら待ち。受け身で引き受けたため、モチベーションが上がらないぼくとは対照的に、他の出演者の人たちはテレビに出れるとあって、かのボノーリスに会えるとあって、たいそうテンションが上がっています。リハが終わって次の日の本番。番組がスタートするとともにムキムキの兄ちゃんとホットパンツの姉ちゃんたちが絡み合いながらダンス・ダンス・ダンス。ライブあり、アトラクションあり、お色気シーンあり。見所盛りだくさんで2グループの戦いはヒートアップ。さもすれば国際問題にも発展しかねない討論タイムでは、両チームが低俗ななじり合い。美女のアップでワイプを抜かれる鼻息の荒い観客席の男性(やらせ)。何から何までぼくの気に食わず、このような仕事は二度と引き受けるかと、後ろ足で砂をかけて夜中のチネチッタをあとにしたのでした。
 後日、まったく低俗な戯れに付き合わされたもんだぜと毒を吐きつつテレビ欄で番組を確認してみたら、この番組カナーレ5(Canale5)だったんですよ。カナーレ5というのは要するにチャンネル名なのですが、このチャンネルはイタリア1(Italia1)、レーテ4(rete4)と共に、大元の会社メディアセット(Mediaset)に属します。そのメディアセットを創設したのが現在の首相シルヴィオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi、画像右下)。そして『チャオ、ダーウィン』よろしく程度の低いテレビ番組を垂れ流す民放3局は彼の手中にあり、思うまま情報操作ができるわけです。

 手始めにこちらのVTRをご覧ください。冗談でもなんでもなく、ベルルスコーニが今年4月の選挙活動時に、3局で流していたCMです。“Meno male che Silvio c’è.”(シルヴィオがいてくれてよかった)。街に住む人々が笑顔で働きながら声を合わせてそう歌う。オウムか北朝鮮のマインドコントロールを連想させるこの映像が選挙活動の一環として成り立つイタリアの民度の低さもいかがなものかと心配するものの、いちばん問題なのはベルルスコーニがこれほどまでに露骨な宣伝活動を平然と行っているということです。これはさすがにまずい、とヨーロッパの憲法裁判所からお咎めが来たのが2002年。民放3局の内1局を手放し衛星放送化しろというお達しが下ります。翌年、あろうことかベルルスコーニはメディア独占規制を緩和する法案をイタリアの議会で可決。まんまと憲法裁判所の手を逃れたどころか、一人の人間がテレビ局と新聞社(ベルルスコーニは大手新聞社『ジョルナーレ』の経営者でもあった)を同時に所有できないという事前にあった問題もここで一気に解消させ、ますます精力的にメディアを利用し、強大な力を身につけるのでした。
 その他にも、大手出版社モンダドーリ(Mondadori)やエイナウディ(Einaudi)の大株主で、サッカーチーム、ACミランの元会長でもある彼。金回りのいい場所には必ず彼がいて、その経済力とメディア操作力こそが、どんなに嫌われてもベルルスコーニが覇者でいられる理由なのでしょう。そんな彼の具体的な政策や言動はまた別の機会で述べるとして、今回はそんなシルヴィオを激烈に批判する人たちについて。メディアにはメディアを。キーボードが剣より強い昨今、ただただベルルスコーニ政権の独裁を許しているイタリア人ではありません。1977年、『ジョルナーレ』をベルルスコーニに譲る形になってしまったジャーナリスト、インドロ・モンタネッリ(Indro Montanelli)。1993年にベルルスコーニが政界出馬するなり激烈な批判を浴びせます。ムッソリーニ(Benito Mussolini)とベルルスコーニ両方をこきおろしたことで有名な彼は2001年、死の直前に行われたインタビューでこう語っています。

ベルルスコーニが支配するイタリア」を発見したときはショックだった。私の長い人生でひどいイタリアはたくさん見てきたが、今までで見たことがなかった最低のイタリアだ。卑劣で暴力的なローマ進軍をしたイタリア。しかしおそらくそれは輝かしき希望にも元気付けられていた。7月25日のイタリア(ムッソリーニの退陣)、9月8日のイタリア(休戦協定)、復讐心に駆られたロレート広場のイタリア(1944年、パルチザンの手によってムッソリーニファシストたちの死体が宙吊りにされ、大衆の見せしめにされた)。だが、今このイタリアの程度の低さ、下品さは今まで見たことも聞いたこともない。ベルルスコーニがやることは本当に井戸を逆流してくるドブだ。

 このモンタネッリを師と仰ぎ、連日目の覚めるようなすっぱ抜きでテレビを騒がせているのが同じくジャーナリストのマルコ・トラヴァーリオ(Marco Travario)です。コメディアン、ダニエレ・ルッタッツィ(Daniele Luttazzi)が司会を務めるテレビ番組『サティリコン』(Satyricon)でインタビューに答えるトラヴァーリオ。ベルルスコーニの金の出所はどこだ? という命題について緻密な資料をもとに解明し、パレルモ・マフィアとの癒着を示唆します。

 その歯に衣着せぬ口調でずばずばベルルスコーニ及びパレルモ出身の上院議長レナート・スキファーニ(Renato Schifani)などその周りの政治家を切りまくるトラヴァーリオに、スタジオ閲覧者は拍手喝采。そんな彼に対し、メディアセットやら多数の政界人が「中傷」による被害賠償金を請求するもなんのその。次々と新しいドキュメントを発表しイタリアを揺るがし続けています。その他にも、テレビ界から追放されたコメディアン、ベッペ・グリッロ(Beppe Grillo、画像右)や舞台女優で上院議員のフランカ・ラーメ(Franco Rame、ダリオ・フォーの奥さん)などが、自らのブログを通してベルルスコーニのメディアからは発信されない情報を伝えています。
 日本でこのような手法で権力を批判する場合、どうしてもある種のサブカルくささがつきまとってしまいます。右翼芸人鳥肌実小林よしのりなど、ある意味プッツンしてないと権力批判ができないのが日本です。しかしここイタリアにおける彼らのヒーローっぷりはどうでしょう。コメディアン、ベッペ・グリッロは国会の汚職を訴えるマニフェスト、ヴァッファンクーロ・デイ(Vaffanculo-day)を2007年9月8日に各地で開催し、336000人の署名を集めました。臭いものにはフタをしたがる日本のメディア報道と比べてみると、臭すぎてフタをする気もおこらねえよ、といった感じのイタリアの状況は、それほどまでに危機的であるけれど、その反動エネルギーもハンパじゃないなと関心するばかりです。
  
 また、今年カンヌ映画祭では『ディーヴォ』(Il Divo、パオロ・ソッレンティーノ、2008)と『ゴモッラ』(Gomorra、マッテオ・ガッローネ、2008)というイタリアの闇を描いた2作品が賞を獲得しました。『ディーヴォ』は70年代数回にわたって首相を務めたアンドレオッティ(Giulio Andreotti)のドキュメンタリー。マフィアとの癒着が噂される人物で極左によるアルド・モーロ(Aldo Moro)前首相の暗殺事件にも関与しているのではないかといわれています。そしてナポリの犯罪組織カモッラ(Camorra)の実態を暴いた『ゴモッラ』はここ1年常にランキングトップに名を連ねる大大大ベストセラー小説の映画化です。原作者ロベルト・サヴィーニオ(Roberto Savinio)はカモッラからの報復が危ぶまれ、現在警察の監視下で暮らしているそうです。その本といっしょに本屋で平積みされているのがトラヴァーリオの『汚れた手』(Mani sporche)。このような作品群がヒットするという事実もまた、イタリアという国の危機的状況が沸点に達したことを表していると同時に、それだけ多くの人が問題意識を持っていることも表しています。とにかくすべての情報を吟味し判断するのはぼくたち一人一人。これからも多角方面から放たれるメディア情報に注意しながらアンテナを張っていたいものです。
 =参考リンク=  以下、リンク先はすべてイタリア語です。
 ベッペ・グリッロのブログ
 フランカ・ラーメのブログ
 マルコ・トラヴァーリオのブログ
 ダニエーレ・ルッタッツィのブログ