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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

切なき飛沫(しぶき) (旧ウェブサイトコラム 『イタリアの小噺バルゼッレッテ』)

 僕にとって2009年という年は「『びっくりくりくりくりっくり』って誰のギャグやったっけ?」という兄のどうでもいい質問から始まりました。みなさん、明けましておめでとうございます。ちなみになんていう芸人だったかは覚えていません。調べる気もありません。ちょっと検索すればたぶんすぐにわかりますが、そんなことに時間を使う気はありません!

 さてさて、めでためでたのお正月、みなさんいかがお過ごしでしたか? 正月といえば初詣ですが、あいにく我が家には初詣の習慣がなく、実家でだらだらと過ごすのがいつものパターン。おみくじくらい引けばとも思うが、あいにく占い関係にはいい思い出がないので、それもやらないことにしています。

 というのも、もう数年前の話。1回だけ占い師に見てもらったことがある。そのときちょうど大阪は天王寺で「占いフェアー」をやっており、1回1000円で見てもらえるというキャンペーン中だったのだ。考えてみればそんな軽い占いになんの信憑性もないわけだけど(ヤフーオークションで墓石を買うことに抵抗があるのと理屈は同じ)、なんだかそのときはテンションが上がっていたのか、よっぽど未来に暗雲を感じていたのか、ともかくひとりの占い師のブースを訪問した。

 その占い師は桃井かおりに雰囲気が似たアンニュイな女で、ちょっとした雑談をした後、おもむろに「あなた、長男ね」と、僕の目をまっすぐに見つめて言った。残念なことに僕は三男だった。そのことを彼女に告げると、彼女は悪びれたようすもなく、「いや、今長男って言ったのは、家庭の中で、長男的な役割を果たすという意味で、実際に長男かどうかっていうのはまた別問題よ」と言った。彼女なりのジョークか? とも思ったが、どうも占い師は真剣だ。まなざしがまっすぐだ。宮崎アニメの主人公はよくこんな目をしている。僕は辛抱強く彼女の次の診断を聞くことにした。すると彼女は「あなた、ここから上がだめね…」と、僕の首を指差しながら、アンニュイな口調で宣言した。これにはさすがに温厚な僕も「えっ、首から上ですか?」と、聞き返した。すると「そうね、全部だめね」と、またも冷静な返事が返ってきた。考えてみるとこれはかなり深刻な宣告だ。首から上っていうのは人間の大事な部分が全部詰まってるわけで、首から下は身体機能を維持する部分なわけで、そうなると僕は、人間の大事な部分が全部だめってことになる! ていうか、これって占いなのか? 見た目で判断してるだけじゃないのか? 最終的には彼女は僕に「あなた、もっと自分のことを長男だと思って、お母さんを大事にしなきゃだめよ」と、親戚のおばちゃんと大差ないコメントをくれた。これで1000円だ! 訴訟しようかと思ったぜ!
 人生は時に「走る」という行為にたとえられる。人生という長い道のりを走りぬくために、なにかしるべが欲しいと思うのは人の性だが、だからといって親戚のおばちゃんと同じ忠告じゃ、こんな頼りがいのないしるべはないってもんだぜ!
 とまあ、そんな経験もあって占いを軽視していた僕だけど、そんな僕にある日天罰が下った。
 去年の末、僕は誕生日を迎えた。記念すべき30歳。否が応でもプリン体を気にするサーティーズ・ロードのスタートだ。災難はその前日、つまり29歳最後の日、すがすがしい朝を迎えた僕に降りかかった。そもそもの始まりは、いつもの何気ない朝だった。「今日で20代も最後か…」、感慨深げにつぶやく僕。振り返るとこの1年、いろいろなことがあった。走った。駆け抜けたと言ってもいい1年だった。テレビを点けるとめざましテレビがやっていた。いつもの占いのコーナー。射手座は10位だ。ぱっとしない順位。「金銭感覚が鈍りがち」と一言で断言される。ラッキーアイテムはきくらげだ。きくらげ? 酢の物か、豚骨ラーメンでも食えってことか? たかが占いが食生活にまで干渉してきおって…! 反骨精神とともにファミマに向かう。当たり前だがきくらげなんて買うつもりはねえぜ! 朝食だしな! まずさわやかな朝にふさわしいミルクティーをチョイス。そして続けざまに、寒さと気持ちのもやもやを吹き飛ばすために、温かいものをチョイス! レジの横のホットスナックコーナーに直行だ。肉まんか、ミルクココアまんかと散々悩んだ結果、20円の価格の安さを優先して、肉まんをチョイスした。みみっちいぜ、僕!
 誰もが挑むべき人生という長いマラソン。寛平ちゃんでなくとも走り抜けたいものだ。
 走るといえば、イタリアの小噺(barzelletta)に、こんな話がある。

 Una giovane moglie approfitta dell’assenza del marito per spassarsela con l’amante. Sul più bello, sente però la chiave girare nella toppa. In preda al panico, intima al compagno di saltare dalla finestra. Proprio in quel momento passa davanti a casa una marea di podisti per la consueta maratona paesana. Senza perdersi d’animo, lo sfortunato amante si unisce al gruppo completamente nudo.
-Ehi, che ci fai nudo come un verme? – gli chiede incuriosito un concorrente.
-Ehm, niente, è che quando corro sudo così tanto che non sopporto nessun indumento – risponde.
-Va be’, ma almeno le scarpe potevi mettetele! – rincara la dose un altro del gruppo.
-Sì, certo, - continua l’amante, - ma allora non avrei più lo stesso contatto con la terra e quindi con la natura!
-Senti un po’, - insiste il podista curioso, - e quel preservativo a casa ti serve?
-Beh, sai, in caso di pioggia…

 若い妻が、夫の不在を利用して、浮気相手と楽しむことにした。滞りなくベッドインし、絶頂を迎えようとした瞬間、妻は玄関の鍵がかちゃかちゃ鳴る音を耳にした。やばいと感じた彼女は、今まさに絶頂を迎えようとしていた男を、自分の中から追い出し、ベッドから追い出し、最終的には窓から家の外に追い出した。そのとき、折悪く、家の前をマラソン選手たちの先頭集団が通りかかった。わけがわからないままに、この不運な男はマラソンランナーたちの人波に飲み込まれ、素っ裸のまんまこの集団とともに走るはめになった。
「おいおい、あんた、なんで素っ裸なんだい?」、ランナーのひとりが興味深げに質問した。
「いやいや、なんでもないさ。走ってるうちに汗だくになっちまってね、シャツがはりついて気持ち悪いから脱いじまったのさ」、と男は答えた。
「なるほど。だけどさ、せめて靴くらい履いててもよかったんじゃないのかい? ゆうべまでの雨で道がぬかるんでるから、しぶきが飛んで気持ち悪いだろう?」
「いや、そんなのはなんてことないさ。しぶきは大丈夫だ」
「そうかい、ところで気になってることがあるんだが」、別のランナーが言った。「あんた、どうしてコンドームをつけてるんだい?」
 すると男は、「しぶきが飛ばないようにさ…」
 (※訳は筆者が多少脚色しています)

 ファミマから帰宅し、ミルクティーのパックを開け、一口飲んだ。しばらくして急激な腹痛が僕を襲う。前日に食べた水菜が悪かったのかもしれないと思った僕は、慌ててトイレに駆け込んだ。
 用を足してトイレから出てきた僕が、何気なく振り回した手が、たまたまそこにあったミルクティーのパックに当たる。
 あっという僕の虚しい叫びは冬の空気をわずかに揺らしただけだった。派手に空中に飛び散ったミルクティーのしぶきは、友人から借りた本をしとど濡らしただけにとどまらず、僕に食べられることを待っていた肉まんをも無惨に茶色に染め上げた。
 なんてことだ。せっかく買った肉まんが、20円高いミルクココアまんのようになってしまった。これは損なのか、得なのか? わからないぜ! いや、わかるぜ! 損だぜ! ミルクティーでびっちゃびちゃの肉まんなんて食えやしないもんな! これはきくらげを買わなかった天罰か? マザーファッカー! 29 歳最後の日に、マザーファッカー!!
 人は30歳になる。肉まんをびちゃびちゃにしながらも、人は30歳になる。
 このお正月、和歌山市内のとあるバーで開かれた、高校時代の友人たちとの新年会に出席したところ、みんなそれぞれの道を走っているのだなと再認識できた。この3月に結婚するという爆弾発言をした、高校教師のKくん。その発言に触発されて離婚の傷跡を自らほじくり返しはじめたOくん。さらにそれに触発されて最近別れたばかりの彼氏の思い出を切々と語り始めた、紅一点・看護士のNさん。Nさんを口説き始めたバーのマスター。悲喜こもごもだ。
 人の数だけ大人の数はある、と誰かが言った。30歳にもなると、仕事と所在地の都合でなかなか集まれる日もなく、みんなと次に顔を合わすのは3月のKくんの結婚式だろう。その次は、またお正月か。
 つもる話は尽きることなく、バーで夜明かしとなった。朝になり、Oくんは仕事があると飛行機で神奈川に帰っていった。Kくんは顧問をしているクラブの朝練に顔を出さなければいけないと勤めている高校に行った。紅一点・Nさんは、「ひとりがさみしいの」、「漫喫の過ごし方がだいぶわかってきたわ」、「このバーに週3日は朝までいるの」と、まだ元カレのことを引きずっているようだった。
 バーのマスターは黙々と閉店準備をしていた。「マスターは、何歳なんですか?」僕が尋ねると、「31歳だよ」彼は答えた。マスターが店の前にホースで水をまく。道がしぶきでしとど濡れた。