前にも言ったことはあると思うが、僕は月に何回か、大阪の片隅にあるビジネスホテルでフロントマンとして働いている。仕事で疲れたビジネスマンたちにひとときの安らぎを与えるのが僕たちの仕事だ。出張出張で家庭の安らぎを味わうことのできない彼らに、僕たちビジネスホテルがせめてもの慰めとして提供しているのが、アダルトチャンネルである。専用のビデオカードを1000円で買ってテレビに挿入すれば、エッチなおねえちゃんが翌朝まで見放題。高いのか安いのかは個々人の判断に委ねられるが、まあデリヘルを呼ぶより安くつくのは間違いない。
先日、深夜の勤務中、宿泊客のひとりから、フロントに内線がかかってきた。ビデオカードを挿入しても、アダルトチャンネルが映らないという。どうしても観たいようすだったので、部屋まで確認しに行った。たしかに映らない。彼は期待していたものが得られない喪失感と絶望で頭を垂れていた。エッチなテレビが観られないだけで大の大人がこんなに落ち込むのかと僕は同情し、彼のためになんとかエッチなテレビを観れるようにしてやろうと決心した。
さて、可能性として考えられるのは、ふたつ。
1、 テレビが壊れている。
2、 ビデオカードが壊れている。
どちらかはこの場ではわからない。そこで、僕はいったんビデオカードを預からせてもらうことにした。フロントにテレビがあるから、それに今預かったカードを挿入するのだ。これでエッチな番組が映れば、少なくともビデオカードは正常だということになるので、テレビを交換するなどの対処法がとれるだろう。
僕はフロントに戻り、カードを挿入し、アダルトチャンネルを回した。画面にエッチなおねえちゃんが現れる。しかしまだ安心はできない。なぜなら、はじめの1分間は視聴タイムであり、カードを挿入しなくても見れるのだ。にくいシステム! このカードが正常であると断定するためには、1分間以上映っているのを確かめなければならない。しばらくおねえちゃんを眺める僕。よく観ると、おねえちゃんというよりは熟女である。蟲惑的な声。なかなかのクオリティだ。 30秒がすぐに経過した。あと30秒だ。僕は満足して画面に見入っていた。
突然に玄関のドアが開いた。
「すいません、部屋、開いてますか?」
客だった。
慌てる僕。
リモコンを手に取り、停止ボタンをプッシュする。しかし、いかなる運命のいたずらか?停止ボタンが反応しない。リモコンの電池が急に切れたのか? 角度が悪いのか? 慌ててテレビ本体の停止ボタンを探す。だが突然のことに暗がりだったこともあって、すぐに見つからない。この間わずか3秒。僕は動転していた。玄関からこのフロントまであの客が歩いてくるまで、おそらくあと5秒程度の猶予しかないだろう。この5秒間で最善を尽くさなければならない。確かなのは、今現在、ビジネスホテルのフロントでアダルトチャンネルが流れているということだ。このままではフロントで堂々とエッチな番組を見ている従業員というレッテルを貼られてしまう。しかも熟女好きだという誤解すら与えてしまう。熟女も嫌いではないが、どっちかといえば…そんなことはどうでもいい!もう一度停止ボタンを目で探す。ない。アダルトチャンネルは流れ続けている。人は、追い詰められた時にこそ真価が問われるという。
僕は、音を消そう、と判断した。音声ボタンがわかりやすいところにあったのと、画面が消えないのなら、せめて音声だけでもと思ったのだ。勿論最善の手ではないというのはなんとなくわかっていたが、5秒で結果を出さなければいけないという心理的圧迫が、冷静な判断力を失わせていた。僕は音量ボタンを見事に操り、ミュートにすることに成功した。
直後、客がフロントまでやってきた。当然、彼の目に飛び込む、無音のエッチな動画。
「え?」と、明らかにビジネスマンが口にした。そりゃ、え? だ。エッチな動画がこんなに堂々とビジネスホテルのフロントで流れているのもだし、なぜ無音なのか、そっちも気になる。理由を教えてほしい。そりゃ、え? だ。僕は、聞こえない振りをした。今口を開けば言い訳しか出てこない。だが言い訳をするのは変だ。動かざること山の如し。僕は完全に武田信玄の教えを自分のものにしていた。しかしそれは相手も同じだったようだ。不動の構えを崩さない。先に動いた方が負けだとお互いが判断したのである。大阪の片隅ににわかに甲斐の虎が2頭出現し、睨み合いがゆうに10秒は続いた。
だが最終的には僕が口を開かざるを得なかった。くやしくも僕は今、いちフロントマンであり、ここでフロントマンとしての業務を果たさなければ、本当にただのエッチな番組を観ていただけの人である。
「いらっしゃいませ」と、僕は言った。「お泊まりですか?」ビジネスマンは答えなかった。エッチな動画は音を発することなく、フロントの片隅で流れ続けていた。1分が経過した。幸いにも、ビデオカードは不良品ではなかったのだ。
とっさの判断。判断とは常にとっさにしなければならないものであり、とっさにしなくてもよい判断があると思うのは間違いである。人は常に判断を迫られて生きている。大げさではなく、それにより、人生を左右される。
イタリアの小噺(barzelletta)に、こんな話がある。
Io e la mia ragazza eravamo fidanzati da un anno, ormai, e finalmente avevamo deciso di sposarci. C'era solo una cosa che mi preoccupava, e mi preoccupava molto: sua sorella minore.
La mia futura cognata aveva vent'anni, portava minigonne e magliette attillate, e ad ogni occasione si chinava quando era davanti a me, mostrandomi le mutandine. Lo faceva sicuramente apposta, non capitava mai davanti ad altri.
Un giorno la sorellina mi chiamò e mi chiese di andare da lei a darle una mano a controllare gli inviti di nozze. Era sola quando arrivai. Mi sussurrò che io di lì a poco sarei stato sposato, che lei provava per me dei sentimenti e un desiderio ai quali non poteva e non voleva resistere.
Mi disse che avrebbe voluto far l'amore con me almeno una volta prima che io mi sposassi e legassi la mia vita a sua sorella. Ero totalmente scioccato, non riuscivo a spiccicar parola.Lei disse:
- Io sto andando al piano di sopra, nella mia camera da letto, se te la senti, vieni su con me e io sarò tua!
Ero stupefatto. Ero congelato dallo stupore, mentre la vedevo salire lentamente le scale. Quando raggiunse il piano superiore, si voltò, si sfilò le mutandine e me le lanciò contro.
Rimasi là per un momento, poi presi la mia decisione: mi voltai e andai dritto alla porta d'ingresso, l'aprii e uscii dalla casa andando dritto verso la mia macchina.
Il mio futuro suocero era là che mi aspettava. Con le lacrime agli occhi, mi abbracciò e mi disse:
- Siamo felici che tu abbia superato la nostra piccola prova! Non potevamo sperare in un marito migliore per nostra figlia. Benvenuto nella nostra famiglia!La morale di questa storia?
Conservate sempre i preservativi in macchina!俺と彼女は、1年間の婚約期間を経て、とうとう結婚することにした。だが俺には、たったひとつの、しかし大きな心配事があった。―彼女の妹だ。
俺の未来の妹は20歳で、ミニスカートとタイトなセーターがよく似合い、そんな格好で俺の前に現れては、いつもパンチラ気味にしゃがみこむのだった。彼女は俺を誘っている―俺は確信していた。だって他の人間の前ではそんなしぐさはしなかったからだ。
ある日、未来の妹は、結婚式の招待状が刷り上がったのでチェックするのを手伝ってくれと、俺を家に誘った。俺が行くと彼女はひとりだった。彼女は俺に、「あなたもうすぐ結婚するでしょ、でも私はあなたのこと諦められないし、そのつもりもないの」とささやいた。
そして、「1回だけでいいから、お姉ちゃんと結婚する前に、私とセックスしてちょうだい」
俺はあまりのことに、言葉が出てこなかった。彼女は言った。「上の階の私の寝室で待ってるわ。その気になったら上がってきて、抱いてちょうだい」俺は驚きに固まってしまい、彼女がゆっくりと階段を上がっていくのを呆然と見送った。彼女は上の階に着くと、振り返って、パンツを脱ぎ、俺に放り投げた。俺は少しの間、その場に立ち尽くした。
俺は決断した。俺は踵を返し、玄関に向かった。ドアを開け、まっすぐに、停めてあった車に向かう。
すると、俺の未来の姑がそこで俺を待っていた。目に涙をため、俺を抱きしめ、こう言った。
「嬉しいよ、あんたが私たちの小さなテストに合格してくれて! 今まで娘にふさわしい夫がちっとも見つからなかんだ。私たちの家族へようこそ!」
この話の教訓はたったひとつ。コンドームは常に車に置いておけということだ。
結局、あのビジネスマンは、宿泊した。
夜中に見回りをしている最中、僕はその彼を見かけた。彼は専用の自動販売機に1000円を投入し、ビデオカードを買っていた。どうやら彼のなにかに火をつけてしまったらしい。
ビジネスマンたちの夜はこうして更けていく。昼間のパパはちょっと違う、とはよく言ったものだが、夜中のパパはもっと違うことを、僕は知っている。