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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

闇は明暗を分ける (旧ウェブサイトコラム 『イタリアの小噺バルゼッレッテ』)

 先日久しぶりに友人に「話がある」と呼び出され、ミナミに向かったのだが、途中で携帯の電源が切れてしまい、ひやひやしたものだった。なにせどうせ携帯で連絡がとれるからと、約束の場所とか時間とかかなり曖昧なまま向かったのだ。奇跡的に出会うことができたが、充電は完璧にしておかなくてはと心に誓った。電気というものの偉大さを痛感した僕だった。そういえば以前観たバラエティ番組で、暗闇の中ホタルイカの光のみを頼りに勉強するという企画をやっていたが、結果は惨憺たるものだった。ホタルイカの放つ光量は微々たるものなのだ。やはり、電気だ。
 それはさておき、無事に落ち合うことができた僕たちは、裏路地の小さな店に入った。なかなか味のある店構え。混んでおりカウンターしかあいていない。いいですかと聞かれ、いいですよと答える。なにを飲もうかとメニューを見ると、ボトルが安い。900ccの黒霧島が1600円だ。なかなかのサービス精神。注文する。ほどなくボトルとグラスがふたつ、アイスペールいっぱいの氷が僕らの眼前にもたらされた。
「最近、彼女とうまくいってないんだ」
 焼酎を一杯煽るなり、友人はこう切り出した。よほど誰かに話したかったのだろうか、僕の相槌もあまり必要ないほどに彼はまくしたてた。焼酎、愚痴、焼酎、愚痴。詳しくは伏せておくが、かなりもめているご様子だった。ひとしきり彼の心情の吐露を聞いた後、食べ物をなにも注文していないことに気づき、大将に声をかけたまさにその瞬間のことだ。突然、暗闇が店内を覆った。
停電だ。
 大将が言うには、すぐに復旧するはずなので、しばらくお待ち下さいとのこと。だが、5分、10分待っていても、いっこうに電気がつく気配はない。どうしたことだ? しょうがなく、暗闇の中で、酒だけを煽りつづける僕たち。ドランカー・イン・ザ・ダーク。これはこれでおつなものだが、さすがに限界になってきた。考えてみたら今日は朝からなにも食べてないんだ。空腹に焼酎ばかりは結構きつい! プリーズ、食事! 大将にせがむ僕たち。だが大将からは「電気がつけば、すぐにご用意できるんですが…」と力のない返事が返ってくるだけだった。
「やっぱり、電気がつかないと、料理できませんよね?」と食い下がると、
「暗いですからね…」と、さらに力のない返事が返ってきた。暗闇というのは人をこんなにも不安にさせるものか…。
 しょうがなく、彼の愚痴話を肴にして焼酎をさらに胃に流し込みながら、いくばくかの時間を費やした。何人かの客は帰ってしまった。さらなる空腹に襲われ、僕らはもう一度大将に飯をすがる。すると、
 「火を使うのは危ないんですが、刺身なら、切るだけなんで、頑張ってみます」という勇ましい一言が。やったぜ! 
 だが、少しして、「やっぱり、暗いですね…」。
 弱音を吐く大将。だめだ。大将は完全に心が折れてしまっている!
 だがここで、友人が起死回生のアイディアを発案した。
「俺、照らすよ!」
 言うが早いか、友人は携帯を取り出し、ディスプレイの光で大将の手元を照らしてみせた。大将の指先に握られた包丁とはまちの切り身があかあかと浮かび上がる。僕は彼に惜しみない拍手を贈った。だがそのファインプレーの代償として、友人はカウンターから厨房まで身を乗り出し、上半身をひねったかなり無理な体勢を強いられていた。いまだかつて飲み屋のカウンターでこんな体勢をとっている人間を、僕は見たことはない。しかし…、見事なコラボ! 客と主人が一体となってひとつの料理に挑む。なんて美しい光景だろう! 彼の心意気に応えるかのように、大将も見事な包丁さばきを見せる。だがその時だ。友人の携帯が音を立てた。「あっ」友人が声をあげる。まさかの、もめてる彼女からのメールだ。彼はしばらく無視していたが、内容が気になってうずうずしてるのが暗闇の中でも感じ取れた。
「見てもいいですか?」。申し訳なさそうに言う友人。
「どうぞ」。大将が答える。
 彼が返信している間、しばし厨房に暗闇が訪れる。返信し終わると、
「お待たせしてすいません」と、再び厨房を照らす彼。
「いや、謝ることじゃありませんよ…」と、大将。
 気を遣いあうふたり。妙な状況だ。しばらくして、彼の電話が再び鳴る。さっきとは違う音。今度はメールではない、着信だ。彼に確認したわけではないが、タイミング的にも、例の彼女からであるのは明白だった。しばし着信音を黙殺する彼。微妙な空気。
「出てくださいよ」。大将が言った。
 友人は席を外し、店の外に出て行った。なかなか帰ってこない。しばらくの沈黙の後、高らかな音が暗闇に響いた。今度は着信音ではなく、僕の腹の虫が鳴いたのだ。
 暗闇はなにかとトラブルの元である。
 たとえば、イタリアの小噺(barzelletta)に、こんな話がある。

 In una strada buia un uomo ed una donna sono in macchina che scopano allegramente. Dopo la prima, la donna chiede all'uomo di farne un'altra. Lui l'accontenta, ma evidentemente alla donna non basta. E così che si fanno anche la terza. Lei ne vuole ancora e ancora... non è mai soddisfatta, pretende di farlo una quarta volta. L'uomo, esausto, le risponde:
- Mi devo prima riprendere un attimo, posso?
  E così dicendo, esce dalla macchina. Lì vicino, sotto un lampione, c'è un tizio che sta cambiando una ruota alla sua auto. Il nostro amico gli dice:
- Ascolta, c'ho questa troia insaziabile in macchina che non mi da tregua, me la sono scopata già tre volte ma lo vuole ancora. E io non ce la faccio più! Non è che te ne occuperesti tu ed io in cambio ti sostituisco la ruota? Tanto è tutto buio in macchina e non se ne accorge...
  Così si infila di volata nella macchina buia. Poco dopo passa una volante della polizia e, vedendo il trambusto, si ferma per fare dei controlli. Un poliziotto scende e si avvicina alla macchina, illumina l'interno con una torcia e, bussando sul finestrino, chiede all'uomo:
- Cosa state facendo?
- Sto scopando con mia moglie!!!
- E non potete farlo comodamente a casa vostra?!?
- Veramente non sapevo che fosse mia moglie fino a quando lei non ha fatto luce...

 暗い夜道に車を停めて、男と女が急いでカーセックスに興じていた。1回目が終わった後、女は男にもう1回せがんだ。男は満足していたが、女は明らかに物足りなそうであった。そこで男もふんばって、なんとか3回目までこなした。だが女はいっこうに満足する様子がない。ついに4回目も要求した。男は疲れ果て、彼女に言った。
「ちょっと休憩させてくれよ。いいだろ?」
 からみつく彼女を振りほどき車から出ると、近くの街灯の下で、車のタイヤを交換しているおじさんがいた。男は彼に言った。
「なあおじさん、あそこの車にさ、とんでもないヤリマンがいて、ちっとも俺を休ませてくれないんだよ。もう3回もやったのにさ、まだやりたいって言うんだ。でも俺は限界なの。そこでさ、あんたと俺の役割を交換しないか? 俺がそのタイヤを交換してやるから、かわりにあんたはあの女とセックスをしてくれ。大丈夫さ、車の中は暗いから、あいつ気づきゃしないって」
 おじさんは快諾し、すぐに真っ暗な車の中にもぐりこんだ。しばらくして、巡回中のパトカーが、車が揺れているのを見て、事情聴取するために停車した。パトカーからひとりの警察官が降り、車に近づいてきた。懐中電灯で車の中を照らし、窓をノックすると、男に尋ねた。
「なにをやっているんだ?」
俺の嫁とファックしてたのさ」
「旦那、奥さんとそういうことするなら、ご自宅でお願いしますよ」
「しかたないだろう、電気をつけるまで、俺の嫁だってわからなかったんだから!」

 電話を終えて友人が帰ってきたのは、無事に電気が復旧し、僕がうまい刺身に舌鼓を打ち始めた頃だった。随分長いこと話し込んでいたから、おそらくかなりもめたのだろう。

「よかったね、店、明るくなって」

そう言った彼の表情の暗かったことといったらない。