京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『さようなら ぼくの こりす』 フルビオ・テスタ〜


作・絵:フルビオ・テスタ / 文:神沢利子


きこりが森から持ち帰った子リス。
きこりから息子へのかわいいおみやげです
少年と子リスはすぐに仲良くなりました。何をするにも一緒。
ある日、少年と子リスは森へでかけます。
生まれた場所へやってきた子リスは自分の仲間と出会い…。
少年の子リスへの眼差しは愛玩物へのそれではなく、友としての眼差し。
寂しい自分の気持ちと、相手を尊重する思い。
最後に発せられる少年の「さようなら」という言葉。
ある種のすがすがしさを残してくれるお話です。


今回ご紹介するのは学研から出版されているWorld Picture Bookから、
『さようなら ぼくの こりす』です。
この絵本のイラスト、なんとも個性的。
全体的にはブラウンがベースとなっており温かみがあります。
人物の表情や動物の動きもどこかユーモラスで、
ぺらぺらとページをめくって絵だけをながめるのも楽しい一冊です。

絵本の内容は、大雑把に言うと
きこりが森から持ち帰った子リスと、そのきこりの息子のお話。
仲良くなって、すっかり子リスと心を通わせることができたと思う少年が
子リスには子リスの生きる場所があることを知ることになる
というものです。
それが、イラストの基本的な構造と通じています。
この絵本では
左が町(家、人間の住む世界)、右が森(子リスの住む世界)と
二つの世界が左右で分けられ、固定されて描かれています。


物語が進む方向とページをめくる方向が同じ
つまり、ページをめくる方向に登場人物が進んでいくタイプの絵本ではなく、
町(左)と森(右)の位置が固定されており、
その間を行ったり来たりするタイプの絵本です。

こういった、絵本の構成部分は、あまり意識されずに読まれるのですが
読み手に違和感を感じさせない、あるいは、
無意識のレヴェルでストーリーを強化することになる
絵本にとって大切な部分であるように思います。

ストーリーを楽しむ。
用いられている言葉を、そのリズムを楽しむ。
イラストのディテールを楽しむ。
イラストの構造やストーリーとの関係性を楽しむ。
「さようなら ぼくの こりす」もこれらのどの角度からも楽しむことができます。
例えば
「さようなら」と言った少年の心の動き。
例えば
「ぼうずの やつ、よろこぶぞ」というきこりの台詞(P.11)。
例えば
町の広場の様子(P.10 P.11)。
例えば
固定して描かれた町(少年の住む世界)と森(子リスの住む世界)。

絵本はいろいろな角度から楽しむことができますね。
上記は私のお気に入りの部分、楽しい発見。
どこかでこの絵本を見つけたら是非開いてみてください。
あたなだけの楽しい発見に出会えるはずです。


Fulvio Testa フルビオ・テスタ(1945− )
イタリア、ヴェローナ生まれ。建築学を学んだ後、絵本画家になる。
挿絵のみならず、オリジナル絵本も執筆。

World Picture Book
学研が1972年から出版していた月刊保育絵本「学研ワールドえほん」シリーズの中から厳選して絵本として復刊したシリーズで、現在10タイトルが出版されています。

学研ワールドえほん
 1972年の創刊以来30年にわたり月刊保育絵本として親しまれてきた絵本シリーズ。そのほとんどは、外国の絵本作家やイラストレーターが、「学研ワールドえほん」だけのために特別に描きおろしたオリジナル絵本です。執筆した絵本作家、イラストレーターは延べ200名を数え、現在も世界各地で活躍しています。