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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

マルゲリータ MARGHERITA

 マルゲリータと聞いたら何を想像するでしょう?
ピッツァか、花、あるいは女の子の名前?
似たような名前のカクテルもありますね。
今回は、おそらくイタリアで一番有名なマルゲリータという女性と
彼女と深いかかわりのある食べもののお話です。

 孤を描く海岸線が青い海を囲むナポリの細い路地裏の風景。オイルの入っていないつるんとした生地を円盤状にのばして、赤いトマトと白いモッツァレラチーズ、緑のバジリコをあしらったら、オレンジ色に光る炭で熱した窯に入れます。待ちきれない思いをこらえて数分後。香ばしく黄金色に焼けた生地の額縁の中に、イタリア国旗のトレコローリ(tre colori、緑・白・赤)が鮮やかに映える、ピッツァ・マルゲリータが焼き上がります。
 19世紀の終わり頃、ナポリを訪れたイタリア王妃、その名もマルゲリータに捧げてピッツァ職人が作り上げたこの新作は、後にピッツァの代表格となりました。

 マルゲリータ王妃の名が冠された料理はピッツァだけではありません。
たとえば、ピエモンテマッジョーレ湖西岸の町、ストレーザ(Stresa)には、マルゲルティーネ(Margheritine)と呼ばれる焼き菓子があります。ほろほろと崩れやすい生地には、さらさらになるまで漉したゆで卵の黄身が使われ、中央につけられたくぼみには、焼き上がった後にふりかける粉砂糖がたっぷりと積もります。まったりとしたバターの風味とレモンの皮のさわやかな香りがただようこのお菓子は、ピッツァ・マルゲリータが生まれる少し前、後に王妃となるマルゲリータが避暑地として過ごしたストレーザの町で、ある菓子職人が作り出しました。

 また、美しい広場で有名なシエナ(Siena)には、伝統的なお祭りパリオの時期に、国王夫婦がやって来ました。そのときに新しく作られたパンフォルテも、マルゲリータ王妃へのオマージュです。柑橘類の砂糖漬け、はちみつ、シナモンやコリアンダーなどの香辛料を使うというスパイシーさは、それまでにもあった昔ながらのパンフォルテと同じですが、バニラ風味の砂糖をふりかけた「パンフォルテ・マルゲリータ」は、色がそれまでの黒ではなく、真っ白に焼き上がります。

 二枚貝の殻の中に閉じ込められた白くて淡い輝きをはなつ、しずく形の欠片。それをこっそり懐にしまって、まわりに誰もいないことを確かめてはじっと見つめた少女もいたでしょう。今ではパールと呼ばれるそれは、こう呼ばれていました。マルガリータ(MARGARITA)。

 イタリア国王妃、マルゲリータ・ディ・サヴォイアの肖像にも、パールのネックレスが見られます。そして、今回紹介した私たちの味覚を楽しませる3つの“マルゲリータ”からも白い光の反射が目に飛び込んでくるものですから、当時、イタリアの人たちが抱いていたマルゲリータ王妃のイメージに、パールのやさしい光がさして見えるようです。