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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

風刺漫画に見るベルルスコーニ時代の終わり

 「これからはベルルスコーニが恋しくなるだろう」。昨年末、英国タイムズ(Times)紙で活躍する風刺漫画家ピーター・ブルックス(Peter Brooks)は、「2011年を振り返って」というテーマの記事でそう発言した。風刺漫画家は相手が憎ければ憎いほど腕が振るう。イタリア歴代の首相だって憎まれてきたけれど、ベルルスコーニほど叩きがいがある人は他にいなかっただろう。首相を退いた今も、ちょくちょくメディアに顔を出す。未成年少女の買春、大手出版社の買収などなど、なんと9つに及ぶ事件で起訴されており、その裁判が進行中なのだ。
 うってかわって、現首相のマリオ・モンティ(Mario Monti)は清廉潔白の人。EUの信頼を勝ち得てイタリアを立て直すために、大統領ナポリターノ(Giorgio Napolitano)から肝いりで任命された経済学の専門家だ。彼の政権が成立したの日のことはよく覚えている。昨年の11月16日。国外にいたモンティ氏は、エコノミー・クラスの飛行機で帰国、空港からは国鉄に乗って首都ローマにはせ参じるという、「浪費するイタリア人政治家」というステレオタイプを払拭するパフォーマンスをやってのけた。その後、欧州議会では各国の首脳から称えられ、厳しい経済政策を打ち立てた。貧困層からの不満は変わらないが、大方期待通りの働きぶりといったところだろう。
 一つ不満を言うなら、彼が就任した日からイタリアの各新聞に載る風刺の一こま漫画が劇的に面白くなくなった。なんと言っても、あれだけ叩きがいのあった漫画の主人公が突如としていなくなり、代わりに毅然としたモンティが現れたのだから、面白くなくなるのも当然だ。その中にあって秀逸な作品を一つ紹介したい。大手コリエーレ・デラ・セーラ(Corriere della Sera)紙で、30年以上一こま漫画を描いているジアンネッリ(Giannalli)のものだ。
 モンティがブリュッセルで行われる欧州議会に初めて出席した日のこと。道を歩いている背広姿のモンティが、セクシーな金髪美女とすれ違う。美女に見向きもしないモンティを遠くから見ていた二人の男。一人が「振り向かなかったぞ! あいつは本当にイタリアの首相なのか!?」と、もう一人に耳打ちしている。 

 女好きだった前首相を揶揄することで笑いをつくりだしている。つまり、ベルルスコーニは退任してなお、一こま漫画の笑いに一役買っているのだ。ジアンネッリのこの作品は本紙の付録として刊行された選り抜き一こま漫画集の第1巻に収録されている。この巻のタイトルは「シック・トランジット」だ。これはラテン語の格言「シック・トランジット・グローリア・ムンディ(世の栄華はこうして去っていく)」から引用したもので、平家物語にも似た万物の無常観を表している。実はこの言葉、リビアの内乱で親交の深かったカダフィ大佐が殺されたというニュースを受け、ベルルスコーニが口にした言葉だ。その1月後には彼自身が「去っていく」という皮肉が込められている。だが間違っていはいけないのは、彼が完全にいなくなったわけではないということ。モンティ政権の継続は今のところ2013年までという見方が強い。ベルルスコーニは自らの政党「自由の人民」(Popolo della libertà)も後任に譲り、今後の選挙には立候補しないと表明しているが、自分の息のかかった政治家たちを利用した「院政」を画策しているとも考えられている。みんなが安心と寂しさを入れ混ぜた声で、「シック・トランジット」と心から彼に言える日は、まだ先かもしれない。