京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

カタツムリもビールがお好き!?

どうも、僕です。ポンデ雅夫です。

久しぶりにもほどがあるブログへの登場なのに、「話題がビールって!」と思った方もいるやもしれませんが、どうしても書きたかったのです。イタリアの地ビール事情の続報を。

続報と言っても、以前の記事「伊太利亜地麦酒最新事情 〜ピルスナー至上主義にドロップキック!〜」は4年近く前ですけどね。

先日、なんとはなしに電脳波乗り(ネットサーフィンのことです、念のため)をしていたら、イタリアのビールガイドブック情報に流れ着くことになった。

その名もずばり、『2013年イタリアのビールたち』(Birre d'Italia 2013, Slow Food)。

ワインの国イタリアでも、国産ビールの本が出ていたりするんだ、ぐらいの軽いノリでこの書物を捉えてはいけない。注目してほしいのは、まず出版社である。

食のガイドブックと言えば、あちらではイタリア版ミシュランと言うべき「ガンベロ・ロッソ」というグルメ専門出版社が有名だ。全国版はもちろん、各都市や地方ごとのレストランガイドに、定評あるワインガイドも毎年更新していて、ことイタリアに関しては、ミシュランよりも定評があるくらいだ。

なるほど、このビールガイドも、じゃあ、そのガンベロ・ロッソから…。と僕も思っていたのだが、よく見ると、これが、あのスローフード協会が発行しているのだ。しかも、384ページの大著。

その哲学の本質まで浸透しているかはともかくとして、イタリア・ピエモンテ州の田舎町ブラーを起源とするスローフード運動は、ここ日本にも確実に伝わっている。スローフードならワインのほうがしっくり来る気もするのだが、なぜビールなのか。そこに、日本とは違うイタリアのビールづくりの事情が透けて見える。

日本でも人気急上昇中の地ビール。最近はクラフトビールと呼ぶ人も増えている。地元産の材料を使った地産地消のビールだと誤解されてしまう地ビールよりも、大手メーカーの完全機械化された製造工程ではなく、職人がそれぞれのクラフト(=技術)を生かして作った、比較的少量生産のものを指すのだから、クラフトビールと言ったほうがよろしいのではないかという発想だ。

ところが、大麦や小麦から自社で生産してしまうブリュワリーまで出てきたイタリアでは、地ビールとクラフトビールが語義矛盾しないハッピーな関係が成立しているようだ。

そこで、スローフード協会の登場である。地産地消にこれほどうるさい組織もない。そんなところが、お膝元の地ビールに熱い視線を送っているというのだから、興味がわかないわけがない。

イタリアには現在400を超える地ビール工房が存在していて、このガイドでカバーしているのは、そのうち200強。評する銘柄は1000以上。主だった特徴は、全国のマイクロブリュワリーの成立背景や、その土地との関係、そして職人たちの夢といったストーリーを、商品とともに紹介していること。

評価方法もおもしろい。通常のガイドに見られる☆ではなく、カタツムリとボトルと樽という3種類の基準があるのだ。

カタツムリは、スローフード運動のシンボルなのだが、環境への影響や原材料の生産地など、スローフード的に評価できる「地」ビールであるかどうかという要素が反映されている。

ボトルと樽は、それぞれ瓶詰めや生の状態でどう実力を発揮しているのかを評価している。

こうした基準に合わせて、それぞれの銘柄を大きく3種類に分類している。スロービール、毎日のビール、偉大なるビールの3つだ。スロービールは、その名の通り、味や香りもさることながら、製造地の土地柄や職人たちの背景など、物語も含めて味わいたいもの。毎日のビールは、飲み飽きなくて、味も値段もバランスが取れているもの。そして、偉大なるビールは、質がとにかく抜きん出ているものだ。

こうした独自の基準で評価しているイタリアのクラフトビール・ガイドブック。個々の商品に目を配りながらも、醸造所のあり方、その姿勢や背景をトータルに評価しようとしているところに、スローフード協会が掲げる食の多様性という理念が感じられる。

イタリア語には、「ア・トゥッタ・ビッラ」(a tutta birra、直訳すれば「全部ビールで」となろうか)という慣用句がある。「全力で」とか、「全速力で」という意味だ。日本でもよく「ビールは明日へのガソリンや」とかなんとか言ったりするように(第三のビールからプレミアムまでを、それぞれディーゼルからハイオクまで分類して喩えるのは僕みたいな一部の人だろうけど…)、イタリアでもまったく同じ発想からこんなイディオムが生まれたようだ。
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日本と同様、90年代後半から本格化したイタリアのクラフトビール。ワインももちろんすばらしいけれど、日伊麦酒交流や、このイタリア地ビールガイドを携えてのグルメ旅行もさぞかし楽しいに違いない。両国の地ビール振興に貢献したい気持ちはやまやまなんだけど、今のところ特にいいアイデアが思い浮かばないので、とりあえずはこれからも「ア・トゥッタ・ビッラ」でビールを飲む決意をここに表明して筆を擱(お)き、栓抜きを携えて冷蔵庫へ向かうことにする。

それでは、また非常に近い将来に。