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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

愛嬌でモテる色男ヴォーロ

 

 ファビオ・ヴォーロことファビオ・ボネッティは、まだ小学生だった頃、ある映画が大好きだった。アルベルト・ソルディ監督作品の『私が知っていることを君が知っていると私は知っている』(Io so che tu sai che io so, 1982, 日本未公開)。自分と同姓同名の主人公が登場するということで、ボネッティ少年は幾度となくこの作品を鑑賞したらしい。アルベルト・ソルディ扮する銀行員ファビオ・ボネッティが妻の浮気を疑いはじめたことで、家族の歯車が狂っていくというコメディー映画だ。それにしても、表情豊かで憎めない人柄の主人公や、色恋沙汰に振り回される日常生活など、この映画の中には、後に人気マルチタレントとなるヴォーロの映画人としての要素が凝縮されている気がしてならない。
 ヴォーロは1972年、北イタリア・ベルガモ県のカルチナーテで生まれた。高校を卒業し、バンドのドラマーや父の経営するパン屋の手伝いを経験した後、1994年地元のインディーズレーベルから歌手デビュー。さらに1996年、ラジオDJとしてデビューを果たす。以降、テレビタレント、作家、俳優としても活躍している。興味の赴くままにさまざまな活動に手を染める彼だが、2003年には、以前から親交の深かった同郷の大先輩シルヴァーノ・アゴスティに誘われて、劇の舞台でも主演を務めている。その時のインタビューでは、こんな言葉を残している。

ぼくは何のスペシャリストでもないんだ。一つのことだけを続けられないから、いろんなことを同時にやっている。やりながら分かってくるだろうと思って。それに、一つがダメになっても、他のことが残っているからね。

 えらく肩の力が抜けたコメントだが、成功と人気を裏付けるだけの実力も持っている。まくし立てるような喋り方と、機知に富んだ言い回し。決して二枚目というわけではないが、自分の頭が剥げかかっていることをネタにしてみたりと、人としての飾らなさにも愛嬌を感じる。俳優としては、アレッサンドロ・ダラートリ監督作品『彼らの場合』(Casomai, 2002)で初主演。続いて同監督の『熱』(La febbre, 2005, 日本未公開)でも主役を演じた。この二作では、ビッグアーティストが主題歌を担当していて、勢いのある若手タレント・ヴォーロを主役に抜擢してヒットを狙った印象が拭えない。しかし、主演三作目『ふたつにひとつ』(Uno su due, 2006)になると、「やりながら分かってくる」というヴォーロの言葉どおり、板についてきた演技が観客を圧倒する。本作は、脳腫瘍の可能性に苛まれ、男の人生が一変するという物語だ。主人公の喜怒哀楽のコントラストが要となるのだが、ヴォーロはそれを見事に演じ切っている。
 着実に認知度を高めたヴォーロは、『モニカ・ベルッチの恋愛マニュアル』(Manuale d’amore 2, 2007)や『イリーガル・オフィス』(Studio illegale, 2013, 日本未公開)など、ここ10年のあいだに、自らの著書の映画化を含む10本の映画に出演し、国内人気俳優の座を確固たるものとした。面白いのは、どの映画でも女性とのトラブルが絶えない色男を演じていることだ。それも見た目ではなく、人柄でもてるタイプの色男。しかも年齢を重ねれば重ねるほど、そのキャラクターの深みを増してきているように思える。まるで、子供の頃に夢中になった映画の名優に近づいてきているかのようだ。
(文責 ハムエッグ大輔)


『ふたつにひとつ』は、私たちドーナッツクラブが翻訳し、字幕をつけ、2013年9月7日、明後日に本邦初公開を迎えます。
京都、元・立誠小学校 特設シアターにて公開。
貴重な機会ですので、ぜひお越し下さいませ。