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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『日本で一番悪い奴ら』短評

映画 ラジオ 野村雅夫(ポンデ雅夫)
FM802 Ciao! MUSICA 2016年7月15日放送分
『日本で一番悪い奴ら』短評のDJ's カット版。

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(C) 2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会

 
実在の事件をもとに描いた「凶悪」で話題をさらった白石和彌監督が、2002年の北海道警察で起こり「日本警察史上最大の不祥事」とされた「稲葉事件」を題材に描く作品。綾野剛が演じる北海道警の刑事・諸星要一が、捜査協力者で「S」と呼ばれる裏社会のスパイとともに悪事に手を染めていく様を描く。

出演は他に、中村獅童ピエール瀧、ラッパーのYOUNG DAIS、芸人の植野行雄などです。
 
番組では、先月のスペシャルウイークス中に、白石監督と綾野剛さんのインタビューを放送するとともに、サイン入りプレスシートをプレゼントしました。そして、僕はこの作品の舞台挨拶で司会も行ったという、もうSと言っていいんじゃないかというズブズブ具合ですが、いや、ここは一旦その関係を忘れて、客観的に評していきます。
 
☆☆☆
 
白石和彌監督は現在41歳で、これが長編3本目。もともと若松孝二に師事して、その後、助監督として行定勲犬童一心についたということなんですが、特に若松監督の影響はデカいんじゃないでしょうかね。亡くなる前の最近の作品で言うと、『実録・連合赤軍 浅間山荘への道程(みち)』なんて凄い映画がありました。もちろん、白井監督を世間に広く知らしめたのは、この番組でも扱った前作『凶悪』ですけど、これも実録もの。

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白石さんはインタビューでこんな発言がある。
 
「実録犯罪もの=リアルという公式がありますが、事件をリアルになぞるだけでは面白くない。映画にする以上は作り手独自の視点、過剰な気持ちが当然入ってくる。それでもなお、フィクションではない要素が確実に映画の中にあるわけで、観る者の魂をつかんで離さない」
 
実録だからってドキュメンタリーじゃないと。俺の視点を入れていくぜってことですね。「日悪」だとその傾向がより強くなっていて、もう語り口は青春コメディーです。柔道部出身で体育会系まっしぐら、バカがつくほど素直で真面目、先輩に言われたことは疑わずに組織に忠実。職場とか、属してる組織の価値観しか目に入らない人。はい、きっとあなたの身の回りにもいますよ。そんな視野狭窄かつ猪突猛進型な諸星という男の警察や裏社会での栄光の日々と、大方の予想通り転落していくさまを描いていく。
 
事件の事実関係は忠実に再現して、人間関係の見せ方やキャラ付けにはフィクションというかエンタメ要素を味付けしていく白石監督の戦略は見事に当たってます。綾野剛は陰に陽にいつも張り詰めてるし、画面からギラギラがほとばしってるし、エッチっていうかエロいし、チーム諸星の4人はだんだんバンドのようなグルーブ感を生み出していくし。なんかね、スカッとしてます。時にはキラメキすらあります。そこが、ブラックなジョークになっていて、多くの人が指摘する日本版『ウルフ・オブ・ウォールストリート』だっていうのは僕も同意見です。視野狭窄っぷりでは、宮沢りえ主演の『紙の月』にも近いですね。なんなら、「浅間山荘への道程」もテイストは違うけどそうですね。

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白石監督のスタイルの一つと言っていいと思うんだけど、僕が好きなのは、物語が求心的に一箇所にフォーカスが当たってる時に、フッと引きの目線を入れることなんです。『凶悪』でもありましたが、「日悪」は特にそれが効果的です。たとえば、序盤で諸星やライバル刑事たちがひとりの犯罪者を巡って、手柄の取り合いになるあのチェイスシーン。ここっていうところで高い所にカメラを置いて俯瞰するんです。すると、こいつら何やってんだよっていうツッコミとして視点が機能する。
 
こういうのが、僕は脚本にもあると思います。思い出してみてください。結婚式でのスピーチのシーンなんてまさにそうで、彼らの論理をあえて言葉にして話させることによって、「そうそう、こいつら愚直にやってるし、何か感動的にすらなってるけど、いや、それ根本的に間違ってますから」と僕らにツッコませて笑わせる。警察内での銃器対策の会議もそうでしたね。よく事情がわかってない次長が入ってくることで、つまり内部なんだけど組織的論理の外側の目線を入れることで、拳銃を摘発するために拳銃を買うという壮大なマッチポンプを笑いに変えてしまう。
 
ところで、組織の腐敗を扱った作品、最近多いなぁ。警察だと『64』もそうでしたね。縦割りで横の連携のない構造。いびつな上下関係。そして、今回だと点数制とノルマ制ですね。拳銃一丁につき何点。覚せい剤何点。手段は問わずに結果しか見ないみたいな。もちろん、警察のこういうところも大問題なんだけど、考えたら、成果主義がはびこる日本の労働環境において、似たようなことがそこかしこにあるはずでしょう。数字でしか人を判断しない組織。
 
しかも、こんな実際の大汚職があっても、警察組織内で裁かれたのは諸星ひとりだったという事実ね…
 
最後に画面に映る日の丸を見ながら、日本型組織の今後に垂れ込める暗雲が脳内にポッカリと浮かんでしまったのは僕だけでしょうか。
 
白石監督は『凶悪』に続いて見事な手柄をものにしたと思います。ぜひあなたも劇場で見て、監督の言葉を借りて評を閉めるなら「虚無感を味わうエンターテイメント」を体感し、「心に引っかかり続けて」ください。
 
☆☆☆
 
さ〜て、7月22日(金)に扱うのは、『セトウツミ』です。原作漫画がまた面白いわ〜。ご覧ください。そして、鑑賞後は#ciao802を付けてのTweetをよろしく!