京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『セトウツミ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年7月22日放送分
『セトウツミ』短評のDJ's カット版。
7月18日(月)MOVIX京都で鑑賞。

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(c)2016「セトウツミ」製作委員会

此元和津也(このもと・かずや)の同名漫画を映画化。関西に暮らす高校生ふたり。菅田将暉演じる瀬戸と、池松壮亮演じる内海が、放課後にただ喋っているだけの作品です。8つのエピソードで構成されていますが、場所は決まって川べりの階段。尺は75分。シンプルな構成で新しい青春映画に挑んだ監督は大森立嗣。「まほろ駅前」シリーズや、この番組でも絶賛した『さよなら渓谷』を手がけています。

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原作漫画の単行本が今のところ6巻まで出ていて、連載は継続中。基本的に読み切りなんだけど、物語内の時間はゆるく経過しているっていう形式。今回の映画化では、1、2巻から「映画向き」とされるエピソードが選ばれました。僕は4巻まで読みつつ、MOVIX京都で月曜の夜に鑑賞しました。三連休最終日。人はそこそこ入ってて、シーンによってはかなり笑いがおきてましたね。

セトウツミ 1 (少年チャンピオン・コミックス)  セトウツミ 2 (少年チャンピオン・コミックス)  セトウツミ 3 (少年チャンピオン・コミックス)

 
☆☆☆
 
リスナーの中からは、「こんなのどうやって批評すんの」という声もありましたが、蓋を開けてみれば、特殊ではあるものの、楽しい映画でしたよ。そして、このテイストは別に先行作品がないわけじゃない。洋画なら、僕が敬愛するジム・ジャームッシュ監督の『コーヒー&シガレッツ』とか、邦画なら、こちらも漫画原作でただ喋ってるだけの『THE3名様』ってのが、DVD作品だけどありました。『女子ーズ』とか「変態仮面」を撮ってる福田雄一の作品でしたね。

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共通するのは、川べり、カフェ、ファミレスという具合に、舞台はいつも一緒なこと。2,3人が会話をするだけの短いエピソードを積み重ねていて、起承転結とか序破急みたいなセオリーに当てはまらないこと。こんなところでしょうか。
 
こういう作品を映画にする時には、漫然と映像にしても、各エピソードを束ねるものが何もなくてとりとめがないので、何か映画的な仕掛け、たとえば、毎回エピソードはこのアングルから始まるとか、毎度終わりにはこの被写体を映すとか、そういう縛りを設けてリズムとスタイルを作り、そこにまた微妙なずれを持ち込むことで連続性と違いを生み出していくのが普通です。
 
今回だと、大森監督はまず音楽でそれをしましたね。これがまさかのタンゴ。ロケ地堺の風景とまったく合わないんだけど、はっきりしたリズムと、あの哀愁を帯びた調子が、実はエピソードの区切りにちょうどいいんですよね。音楽そのものが笑いに一役買ってる一面もある。
 
ところで、その笑いについて考えてみましょう。この作品を漫才みたいだよねっていう人がいて、それはそれでもちろんわかるんだけど、僕はちょっと違う見方をしてるんです。息の合った掛け合いの妙で笑わせるのが漫才だとしたら、これは漫才だけじゃない。どちらかというと、それよりもオフビート感が肝で、息が合ってるようで合ってなくてっていうズレとか、微妙すぎる間にこそ、大事な何かがある。だから、漫才にならないように気をつけたという大森監督の演出方針は正しいと思うんです。
 
そもそも、僕はオフビートな笑いが好きです。大好物。爆笑じゃなくて、クスッとするやつね。なぜ好きかって言うと、コミュニケーションを取ろうとして、うまくいかない時の悲しみと、うまくいった時の喜びの両方が、おかしみの中に表現されることが多いからです。同じ笑いであっても、そこにはもっと味わい深い、尾を引く何かがある。切なさがある。ブルーズがある。笑いのための笑いじゃないんです。演芸より演劇って感じかな。
 
ここまで洗練されたキレキレの喩え方とか、こんな高校生いるかって思うけど、この物語の本質はそのリアルじゃないんです。大事なのは、ここに流れてる空気と時間がすごくリアルだってこと。断片的にではあるけど、僕も吸ったことのある空気だし過ごした時間でした。当時まとっていた不安、不満、焦り、孤独、そして充実。それが伝わるから、『セトウツミ』は愛おしい。
 
大森監督は漫画と映画のメディア的違いをわかっていて、この手の演出はお手のものだし、手堅いところと攻めるところのバランスもちょうど良かったんですが、正直なところ、エピソードのセレクトと全体の構成には、僕は納得のいっていないところもあります。
 
一番大きいのは、セトウツミ以外の第3者の端折り方です。中条あやみ演じる美人同級生にして寺の娘、樫村さんはそりゃマストだけど、僕はせめてセンター分けの田中真二を出してほしかった。客観的なカメラの視点と、内海や樫村さんのモノローグはあったけど、もう一人くらいモノローグが入ると、もっとセトウツミの関係性が浮き上がるんだよなぁ。
 
そして、一応、物語的な決着をつけてほしかった。続編もあるかもしれないけど、この1本だけでもうちょっとチャンチャンとしてほしかったです。75分だからね。別の視点を入れて緩急をつけつつ、最後は樫村さん目線で終わるとか、余韻を持たせつつ90分がベストかな。
 
はい、いろいろ言いましたが、僕の戯れ言は置いておいて、映画も漫画もめちゃくちゃオススメ。どっちからでもいいです。ぜひセトウツミを満喫してくださいな。
 
☆☆☆
 
大森立嗣監督が考える「漫才にしない」演出は、まほろ駅前シリーズの映画とドラマの違いを参照するとわかりやすいかもしれません。主人公2人の過去も含め、人生の奥行きを見せようとする映画版は大森立嗣が監督。もっとコミカルに寄せたTV版は大根仁が演出でした。
 
セトウツミのふたりだと、僕は特に内海が好きですね。ていうか、僕は内海です。もはや、内海雅夫です。
 
この物語が好きな人には、小山健の漫画『oosaka.sora』もオススメです。こちらは男女だし、年齢も30歳だけど、関西弁でただふたりが喋っているだけという設定は似通ってますよ。こっちはゆるふわです。
osaka.sora

osaka.sora

 

 

☆☆☆
 
さ〜て、7月29日(金)に扱うのは、『ファインディング・ドリー』になりました。僕はニモがまず記憶あやふやです。そして、イソギンチャクのことを考えると、セトウツミに出てくる鳴山パイセンのことを思い出してしまうのでした。イッツ・オートマティック。ともかく、ドリーをご覧ください(笑) そして、鑑賞後は#ciao802を付けてのTweetをよろしく!