京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スーサイド・スクワッド』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月23日放送分
『スーサイド・スクワッド』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20160925141002j:plain

マーヴェルではなく、バットマン、スーパーマンが「在籍」するDCコミックスの悪役(ヴィラン)たちが徒党を組んで敵と戦わされる物語。舞台はつまり、あのゴッサム・シティ。狙撃の名手デッドショットをウィル・スミス。セクシーな暴れん坊、イカれた元精神科医ハーレイ・クインを『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でも奮闘したマーゴット・ロビーがそれぞれ演じています。バットマン最大の宿敵ジョーカーを、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞を獲得したジャレッド・レトが新たに演じていて、予告編から話題になっていました。監督と脚本は『フューリー』のデヴィッド・エアー

ウルフ・オブ・ウォールストリート (字幕版) Dallas Buyers Club

本国での評価が、実はすこぶる悪いです。評論家筋だけでなく、一般の観客からも不評。なのに、観客動員は3週連続1位で、アメリカだけでなく、世界中で大ヒットを記録しています。日本でも初週が2位、先週が4位ですから、悪くない。実際、火曜日のTジョイ京都レイトショーも結構入ってました。この盛り上がりと不評のバランスは何なのか、そこが実に面白いと僕は思っているので、今回の短評はその辺りが分析の対象になるかなと。
 
それでは、ハーレイ・クイン並みのフルスイング。『スーサイド・スクワッド』短評、おっぱじめよう。
 
☆☆☆
 
いきなり一言でまとめると、キャラの魅力だけで上映時間123分を乗り切ってしまった作品です。物語は、よく言えばシンプル。悪く言えば、ペラっとしてます。強引です。話としては、スーパーマン不在のゴッサム・シティに、文字通り超能力を持つ魔女が眠りから醒めて登場して街をメチャクチャに破壊する。それに人間たちが立ち向かうってことですけど、立場が4つもあるんです。まずは、悪には悪で立ち向かえばいいんじゃないかとスーサイド・スクワッド(つまり決死隊)というチームを組織して操る行政、もちろん主人公のスクワッド達、そしてどこにも与(くみ)しないジョーカー。で、敵の魔女。結構ややこしいんです。さらに、回想も含めればバットマンもちょいちょい出てきますからね。
 
登場人物もこれだけ多いからでしょう。主役のスーサイド・スクワッドには8人かな、それだけメンバーがいるのに、スポットがちゃんと当たっているのは、実質デッドショットとハーレイ・クインだけ。この2人がダブルセンターです。他のメンツには不憫なほどに光が当たらない。これはオープニングからの出囃子付きキャラ紹介の尺の違いからしてそうでした。ブーメラン使いの泥棒キャプテン・ブーメランとか、いきなり登場してびっくらこいてしまう日本刀の使い手、女版五右衛門、なんかXmas Eileen(下のジャケがそのバンド)みたいな仮面のカタナとか、もうほとんど説明すらないですから。というより、ダブルセンターの説明が長すぎるのか。

WORLD COUNTDOWN

こんな調子で、キャラが多くて立場がややこしいので、とにかくアクセルベタ踏みで話があちこち蛇行運転気味に展開します。テンポが良すぎるというのか、寄り道が多すぎるというのか、そうこうしてる間に敵の魔女とその弟があれよあれよという間に街を我が物にしていくプロセスに「え? いつの間に?」と思ったのは僕だけじゃないはずです。とにかく編集がガチャガチャしてて、何らかの軸をもって物語るというよりは、一応つじつまが合う程度にざっとツギハギしましたという感じ。
 
で、そもそも論になっちゃうんですけど、とにかくキャラの立った人達がそれぞれの能力で強大な敵に立ち向かうってんだけど、はっきり言って、パワーに差がありすぎてですね、冷静に考えたらこりゃ無理だろって思ってしまうんですよ。ハーレイ・クインの能力は、怖いもの知らずで、身体が柔らかく、俊敏。武器、バット。一方、あの魔女は人の身体に入り込んだり、他人の脳みそもコントロールできたり、何かフラダンスみたいな動きでピカピカした光の塔みたいなのを出したりと、何だか凄いことになってたよ。どう考えても、互角じゃない。
 
ああ、キリがない。とにかくスクワッドのメンバー並みに、映画の構成もタガが外れてる部分があるんですが…
 
はっきり言って、僕はまったくもって嫌いじゃないんだ、この作品。ダメなところも愛したくなる。クラシック・ロックから最新のヒップホップ、EDMまで、音楽のミックスがカッコいいし、キャラや場面ごとに音楽が映画を引っ張ってる(音楽に頼ってるという言い方もできるけど)。映像が(話が無茶苦茶なわりにという意味で)無駄にカッコいい。ギャグが思った以上に外してない。
 
そして、ここが一番のポイント。バラバラだったスクワッドがチームになるプロセスはギリギリ描けていたので、こいつら無茶苦茶だし、あの爬虫類人間なんて化物でしかないんだけど、だんだん好きになっていくことができたんです。ウィル・スミスが、「これは悪と悪との戦いじゃなくて、悪badと邪悪evilの戦いだ」ってインタビューで言ってたんですが、いくら悪くても、俺達にだって哲学があるんだ。でも、邪悪なのはダメだっていう、ふざけてるけどうなずける理屈には、不本意ながら共感してしまいました。
 
最後の戦いとか、もうバカバカしいレベルっていうか、もうアメコミ原作映画そのものをネタにしてるんでしょうね。映画の作りとしてはおよそ褒められたもんじゃないけれど、そのブッ飛びぶりが、問答無用に魅力的なキャラクターとフィットしているので、冷静に見たら酷評になるんだけど、癖になるジャンクフードとしてしっかりアガる仕上がりに強引ながら持って行けている。酷評のわりに観客を動員できている理由はそこにあると思います。

この作品にはワーナー・ブラザーズによる(が予告編のあまりの評判の良さから、その制作会社に依頼した)編集と、デヴィッド・エアーによるディレクターズ・カット版があって、世に出ているのはその折衷であるということを、昨日のタマフル宇多丸さんも語っていましたが、さすがにその痕跡が垣間見えてしまう作りになっていたのが残念です。

さ〜て、次回、9月30日(金)に扱うのは、『ある天文学者の恋文』になりました。随分毛色が変わって、久々にイタリア人監督! 僕の大好きなジュゼッペ・トルナトーレじゃないですか。音楽はもちろんエンニオ・モリコーネという、アカデミー賞コンビ。今回はどうなんでしょうかねえ。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!