京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月18日放送分
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』短評のDJ's カット版です。

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作家リー・チャイルドが1997年からスタートさせた原作シリーズ。かつてアメリカ陸軍の憲兵隊(軍の警察です)捜査官だったが、今は軍を離れて一匹狼の流れ者となっている男、ジャック・リーチャーを主人公に、これまで19年間で21冊出版されてロングヒット。『ミッション・インポッシブル』という人気シリーズと並行して進める新シリーズとして、トム・クルーズが製作も務め、2012年に邦題『アウトロー』が映画化。今作はその2本目です。

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今回のリーチャーは、陸軍内部調査部という、自分の古巣の女性少佐ターナーが、見に覚えのない罪を着せられて逮捕されたことを知ります。彼女を救い出して真相を探ろうとするものの、リーチャーが過去に関係を持った女性が産んだという15歳の娘が加わり、3人は疑似家族状態で軍の闇を暴くために追いつ追われつ…
 
主演はもちろんトム・クルーズ、54歳。そして、監督・脚本は前回のクリストファー・マッカリーから、『ラスト・サムライ』のエドワード・ズウィックへと交代しています。
 
今週も109シネマズ大阪エキスポシティのIMAX次世代レーザーで鑑賞してきました。このシリーズは、とにかくトム・クルーズを鑑賞するためのものでもあるので、より大画面でトムの飾らない魅力、そして今作であれば全力疾走をIMAXで堪能ください。
 
それでは、いつものように3分間の短評、いってみよう。

観に行ったその日に802で何人かのスタッフから感想を聞かれたんです。「結構楽しめたよ。僕は『アウトロー』がかなり好きだったんで、満足満足。1本目との関係はほぼないし、今回はより一般受けする作りにしてるんじゃないかな」みたいなことを言ったんですね。ただ、そこから記憶をたどって、気になったことをメモして頭の中を整理していくと、あのフレッシュな状態での感想、トム・クルーズ堪能仕立てホヤホヤの僕の感想が、評価のピークでしたね。今となっては、製作の間違いと言わざるをえない点がそこそこ引っかかってくるということが判明いたしましたので、今日はその思考の流れも含めてご報告です。
 
アウトロー』の時は、トム・クルーズが「ミッション・インポッシブル」のイーサン・ハントとまったく違うアプローチで、同じく超人ではあるんだけど、年齢を重ねたスターならではの簡単に言えば渋みを強みとするようなシリーズにしたいんだなっていう方向性が極めてはっきりしてました。マッカリー監督は『ミッション・インポッシブル ローグ・ネーション』も手がけているがゆえに、違いはもう鮮明で、ジャック・リーチャーの場合は70年代アクション映画風の、もっと言うと様式としては西部劇風の、古式ゆかしい演出を蘇らせていました。ただ、それはつまりまったくもって2010年代の映画的流行とは相容れなかったがために、興行的にはそこまで奮わなかったですけど、「俺達はこれがやりたいんだよ。俺達はこれがかっこいいと思ってんだよ」っていうのが伝わってきたから、その気概も込みで好きな作品でした。

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それだけに、今回はマッカリーからエドワード・ズウィックへの交代が心配だったし、その心配通り、2作目にして路線変更しすぎだよな、となってます。
 
予告にも出てるオープニングは最高でした。テキサスのしけたダイナー。表には男たちがバタバタ倒れてる。そこに警察到着。リーチャーは逮捕されかけるんだけど、「90秒後にそこの電話が鳴る。そしてお前は逮捕される」っていう逆転劇が起こる。かっけー!!! よ、待ってました。
 
おかえリーチャー!!
 
となるんですが… そこから、リーチャーは今回のヒロイン、電話でしか話したことのないターナー少佐に会いにワシントンまでヒッチハイクでのこのこ出かけていくんですね。しかも、あろうことか、「恋」してるムードなんですよ。この違和感!
 
リーチャーは女にあっさり恋するタイプじゃないんですよ。お前はどの面下げてノコノコ会いに行ってんだ! そもそも、リーチャーは携帯電話を持たないから、何度も公衆電話から誘い文句のラブコール。前作からの彼らしい時代遅れ感と良いテンポ感にごまかされてたけど、リーチャーは一匹狼で女にすりよったりしないの!
 
しかも、行ってみたら、そのターナーが逮捕されたと。おかしいなってことで独自に調査を始めようとしたら、向こうの弁護士から「リーチャー、あんた、娘がいるぞ」みたいなことになって、隠し子疑惑にちょいとうろたえるっていう。うわ、ますますリーチャーっぽくない。

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アウトロー』の時のロザムンド・パイクみたいな(↑)、ヒロインと付かず離れずじゃなくて、今回はずっと一緒。しかも、小娘までひっついてくる。さらに、これ大事な要素ですよ。推理と捜査に基づく解決じゃなくて、何から何まで「たまたま、偶然」ばかり。
 
あれだけ嫌っていたスマホをあっさり手にしてしまっている。カット割りのせいか編集のせいか、何度かアクションシーンで「今何が起こったの?」ってな具合によくわからないことがある。敵もリーチャーも何度か迂闊すぎるミスをするのが解せない。
 
しかも、絵作りとか編集の演出アプローチもかなり変わっちゃった結果、この「ネバーゴーバック」は2000年代の普通の映画になってるんです。ネットカフェで検索したら組織から逆探知されたとか、ジェームズ・ボーンか! クライマックスのハロウィンパレードって、あれは「007 スペクター」のオープニングか! このシリーズにそんなの求めてないから。何を他のシリーズに似せに行ってるんだと。
 
インタビューを読んでたら、エドワード・ズウィックはリーチャーの意外性を出してみたかったみたいなこと言っていて、意図はわかるけど、それって、シリーズ5作目くらいですることじゃないんですかね? 確かに原作もそうなってるんだろうけど、原作シリーズでは、これが18冊目だから、映画の2本目としてこれを選ぶこと自体が、僕はどうだったのかなと思います。そして、さっきも言ったように、脚本にいくらなんでもアラがありすぎでした。最後の一騎打ちなんて、もはやただの場外乱闘にしか見えないですよ、あれじゃ。アメリカでも日本でも結構評判悪いです。
 
だが、しかし、僕は嫌いではない。むしろ、かばいたくもある。このシリーズ、30年にわたってハリウッドの第一線を走り続けている彼自身超人と言える男トム・クルーズのしわもむくみもむき出しの魅力を味わえるのが最大の魅力だと思うんです。それは達成してますから。
 
もちろん、いいところもあるし、普通の映画になってるけど、まあ、普通におもしろいです。なんなら、ツッコミながら見てください。60代のトムが演じるイーサン・ハントより、ジャック・リーチャーが見たいんです、僕は。僕はマッカリーで3作目が観たいんだ! シリーズを続けさせてくれ〜
 
☆追記☆
 
で、マッカリーは何をやってんだよと思って調べてみたら、宇宙戦艦ヤマトの実写版を作ってました。いいよ、ヤマトは。リーチャーの演出に次回はカムバック、いや、ゴーバックしてほしいところです。

さ〜て、次回、11月25日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「またまた新しい映画の女神あおいさんから授かったお告げ」は、『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』です。「ハリー・ポッター」に正直なところ疎い僕でもついていけるのか!? 23日(水)公開なので気をつけてくださいね。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!