京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『キングコング:髑髏島の巨神』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年3月31日放送分
『キングコング:髑髏島の巨神』短評のDJ's カット版です。

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1933年にオリジナルが作られたキングコング。その後、1962年、東宝の『キングコング対ゴジラ』も合わせれば、各時代の映像技術の見本市の様相を呈しながら、計8本作られてきました。どうやら今回は、新しく始まるシリーズの序章という位置づけで、ギャレス・エドワーズ版の『GODZILLA/ゴジラ』と絡み合いながら、同じ世界感を共有する「モンスター・バース」という、まるでマーヴェルのような流れが予定されています。
 
時は1973年。ヴェトナム戦争からアメリカが撤退する年です。南太平洋に浮かぶ道の島、髑髏島。地質学的な調査という目的のもと、学者、カメラマン、傭兵、米軍で構成された遠征隊が島へ。島を人の手から遠ざけてきた嵐を抜けて侵入した彼らは、そこはキングコングをはじめ、恐ろしい怪物たちが住む場所だった。
 
戦場カメラマンのヒロイン、ウィーバーを、『ルーム』でマサデミー賞主演女優賞ノミネートしている『フリー・ラーソン』。米軍の士官をサミュエル・L・ジャクソン。遠征隊を守る傭兵コンラッドを、マーヴェルの『マイティ・ソー』のロキ役でおなじみトム・ヒドルストンが演じています。

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監督は、デイミアン・チャゼル並に若い32歳のジョーダン・ボート。胸まである長い髭を伸ばしているエキセントリックな外見で、日本好きでもあります。この規模のハリウッド大作は初メガホンです。
 
それでは、3分間の短評、今週もいってみよう!

僕は怪獣映画にそれほど思い入れはないんですが、今回の「キングコング」は、そんな僕ごとき映画好きのちっぽけな映画体験など超越してきました。まず一言、感想を叫ぶなら、「スゲー!」ですね。最初こそ、いつものように分析してやろうという、ある種斜に構えたスタンスで観ていたんですが、物語が進むに連れて、もうただただ唖然とするばかり。あの密林の中で、僕のなけなしの冷静な審美眼は捻り潰されたので、鑑賞後も血湧き肉躍って沸騰した頭脳をクールダウンさせるのが大変でした。
 
魅力は3つです。ひとつは、モンド映画っていう、かつてあった猟奇系のモキュメンタリーのジャンル映画にも似た、未知なる世界を覗く探検ものの味わい。もうひとつは、映画ファンなら誰もが思い浮かべる、コッポラ『地獄の黙示録』的戦争映画のルックとギミック。そして最後は、もちろん怪獣映画ならではの次から次へとスクリーンに登場するモンスターたちのおどろおどろしさ。普通なら、このひとつひとつで十分に映画が撮れるほどの魅力を全部ぶっこんだうえで、しっかりバランスも保っている。すごいです。

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時代設定が、脚本のうえでも、演出のうえでも、肝でした。1973年と言えば、ベトナム戦争からアメリカが初めて撤退をした年。事実上、アメリカ史上初の負け戦と言ってもいい。泥沼のゲリラ戦で満身創痍の米軍の中には、だんだん自分が何のために戦っているのかわからなくなる兵士も多くいて、今の言葉でいうPTSDを描いた映画も結構あるわけです。この作品だと、パッカード士官ですね。戦争でのカタルシスを得られなかった徒労感から心がもぬけの殻になり、むしろ戦地に留まりたいという欲求が芽生えて、「やった!」まだ戦えるとばかりに髑髏島へ喜び勇んでいく。でも、そんな士官と故郷が恋しい部下だけだと、心理的な厚みが弱いんですよ。そこに、傭兵、つまりは軍隊に属さない民兵という外部の視点があり、戦場カメラマンで反戦運動に身を投じてきたヒロインもいる。島を衛星写真で見つけたアメリカ政府特殊研究機関に所属する地質学者もいる。70年代はさらに、あのミュージシャン雅(MIYAVI)も実はいきなりプロローグで登場します。日本兵小野田寛郎(おのだひろお)がフィリピンから帰国したのが1974年なんですけど、そのことを髣髴とさせるようなエピソードとキャラクターも用意されていて、それぞれ立場も思惑も熱量も違って、人間描写がきっちりできている。こういう奥行きをすべて入れられるのが、70年代なんですよ。『シン・ゴジラ』もそうでしたけど、怪獣を通して、あの場合は現代日本を語るという。こちらは、アメリカです。

シン・ゴジラ

でも、怪獣映画だから、そんな人間の話はたくさん要らないんだけどなと思っているあなた! 大丈夫です。今言ったような、そこそこ人数も多くてややこしいお話の前提を、ボート監督はサックサク処理していきます。この辺の手際こそ褒められるべきですね。下手な人がやると、30分は尺が伸びますよ。アクションと最小限のセリフで、さっさと島へ潜入です。ここでヘリ登場です。これがもう決定的に『地獄の黙示録』ですよ。僕はいつ「ワルキューレの騎行」が鳴り出すかと思ったくらい。あのヘリは、ベトナム戦争で実際に活躍したヒューイというモデルなんですけど、音響チームは、ヒューイが展示されている博物館まで出かけていって、そのプロペラの音をサンプリングしたっていうんだから驚きですよ。逐一挙げないけど、こういうオタク的なマニアックすぎる小道具大道具へのこだわりがわんさとあります。ロケ地もしっかりしていて、秘境を探検しているおっかなびっくり感はバリバリ出てました。コングをはじめ、怪物たちこそCGですけど、コングの毛並みなんて、『スター・ウォーズ』を手掛けたことで知られるILM社が1年かけて作り上げた、実は手作り感あふれるVFXなんだとか。気が遠くなりそうな手間!
 
でも、こういう制作意図や背景をすっかり忘れさせて夢中にしてくれるのが、怪物たちの存在感です。種類が多いのがまた嬉しいんですよ。とにかくみんなデカい。キモい。おっかない。ここで大事なのは、彼らには彼らの生態系というか食物連鎖のような秩序があって、そこにコングも含まれてるってことです。だから、怪獣同士もバリバリ戦うんだけど、そこは人間は指を加えて見ているしかないんです。映画のコピーにもあるように、人間なんて最弱です。ちょこちょこ動き回って、ある程度はベトナム戦争時の武器を駆使して立ち向かうんだけど、健闘むなしくというか、まったく思い通りにはなりません。
 
このコントロールできない自然の猛威と人間の関わりは、やっぱり出ました、宮﨑駿でしょう。島をいつも囲んでる低気圧はラピュタの「龍の巣」を思い出すし、コングのまさに神のような存在感とか、現地での慎ましやかなあの人達とか、自然と人間の本来の調和とそれを乱す要因なんかは、これまた出ました『もののけ姫』を思い出してしまいます。そもそも、コングが史上一番デカくて迫力満点。109シネマズ大阪エキスポシティのあのIMAXの倍くらい身長ありますから。そして、まだ1作目だからなのかもしれないけど、こいつ人を見てるなっていうか、人間の心を見通してるなっていうのが態度に出てるのがいい。あんまり出しちゃうと、もはやコミカルになっちゃうだろうし。
 
とまぁ、キングコング好き、怪獣映画好きなら狂喜乱舞する細かいネタや、『地獄の黙示録』的戦争映画のマッドな領域が好きな人もどっぷり入っていける要素満載なのに、ボート監督はめっぽうバランス感覚のある人なんですよ。能ある鷹は爪を隠すで、ドヤ顔をせずにサラッと進めていく。でも、よく見れば、手が込みまくってる。プロローグの演出が抽象化しすぎじゃないかとか、ヘリの数おかしくないですかとか、島のサイズ感が伝わってきませんとか、知らない間に囲まれすぎじゃないかとか、つっこむ人もいるでしょう。でも、そんなのは、丸ごとコングが投げ捨てちゃいますんで、とにかく安心して劇場へ行って、あなたも「スゲー!」って叫んじゃってください。

さ〜て、次回、4月7日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ムーンライト』です。マサデミー賞発表翌週に、アカデミー賞作品賞を短評するという流れ。悪くないですね。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!