京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『メッセージ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月26日放送分
『メッセージ』短評のDJ's カット版です。

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ある日突然、世界のあちこちに巨大な「ばかうけ」、違う、巨大な「コンタクトレンズ」、違う、宇宙船が出現。そこには知的生命体が乗っているのだけれど、当然ながら言語体系がまったく異なるために、意思の疎通が図れない。困った米軍は言語学者のルイーズと物理学者のイアンを対策チームに招聘。宇宙人が地球にやって来た目的は何なのかを探っていきます。

あなたの人生の物語 ブレードランナー ファイナル・カット(字幕版)

原作はテッド・チャンの『あなたの人生の物語』。SFマガジンの海外短編部門でオールタイムベストSF1位を獲得しています。監督は、今年10月に『ブレードランナー 2049』の公開も控えているドゥニ・ヴィルヌーヴ。主人公ルイーズをエイミー・アダムス、そして物理学者イアンをジェレミー・レナーが演じています。
 
新海誠片渕須直樋口真嗣押井守など、日本を代表する監督達が絶賛しておりますが、僕野村雅夫はどう観たのか。それでは、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

優れた映画は素敵な山と同じで、色んなアプローチが可能。どのモチーフで語るかによって、見えてくるものが変わるものです。今回僕が着目したのは、言語と時間です。
 
未知の生命体を相手にまったくコミュニケーションが取れず、困り果てた米軍は、ルイーズに彼らが発する音声をレコーダーで聞かせるんですね。でも、ルイーズは「姿形も分からないのに、この音だけでは、これが言語なのかどうかすら分からない」と言います。そこで、米軍は彼女を宇宙船へと連れて行き、宇宙人が地球人との面会用に使う不思議な部屋でご対面という流れになります。すると、彼らは墨絵のような文字を持っていることが分かる。でも、それが漢字のような表意文字なのか、アルファベットやひらがなのような表音文字なのか、それともまた違うものなのか、まったく分からない。軍人たちは結論を急ぐのだけれど、彼女は粘り強く、急がば回れで、その言語体系を探っていった結果、彼らの言語には、地球のそれとは異なる時間表現、時制があることを突き止めていきます。

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僕も大学で言語を学んだひとりなので、よく分かるんだけど、外国語を学ぶことの最大の理由は、コミュニケーションを取ることそのものよりも、自分の世界、価値観を広げる事だと思うんです。結果として、自分の人生が絶対により豊かになる。途中でイアンがルイーズにサピア=ウォーフの仮説について話す場面があります。ざっくり言えば、「人間の価値観は、その人の話す言語が規定する」というものですが、だからこそ、別の言語、未知の言語を学ぶことで、人間は自分の小さな価値観という檻から抜け出せるのだと考えることができるわけです。それでは、ルイーズは宇宙人と出会うことによってどう変化するのか。実は、ここからが時間の話です。
 
この映画の中では、ルイーズの過去の映像を突然差し挟むフラッシュ・バックの手法が何度も使われているんですが、そんなのよくある話でしょ? ところがですね、あれ、もしかして、これってフラッシュ・バックじゃないんじゃないかって思えてくるわけです。ネタバレになるから、詳しくは話しませんが、別の手法なんじゃないかと。つまり、彼女は宇宙人とコミュニケーションを取ることによって、僕らを支配する時間について感じ方が変わってくる。このあたりから、最近で言えば『インターステラー』で味わったような感覚に僕ら観客も誘われていきます。彼女は最終的に自分の人生観すら変化して、限られた僕らの命、その一秒一秒を愛おしむようになる。そのきっかけというかヒントが、宇宙人の文字の形、つまり円にあるというのもよくできているなと思いました。
 
絵面が地味ではあるけれど、ヨハン・ヨハンソンのサントラ効果も大いに手伝って緊張感はずっと持続するし、内容が哲学的なものだけあって、余計な刺激に惑わされずどっぷりと考え込める作品。僕も素晴らしい出来栄えだと思います。腑に落ちにくいところも特に後半見受けられますが、よくできたSFはそういうものです。この知的エンターテイメントをぜひあなたも鑑賞して、自分の価値観を問い直してみてください。

幼年期の終わり (光文社古典新訳文庫) インターステラー(字幕版)

僕はこの物語の設定を聞いた時に、『2001年宇宙の旅』で知られるSF作家の巨匠アーサー・C・クラークのこれまた代表作『幼年期の終わり』を思い出しました。比較してみると面白いでしょうね。
 
邦題の『メッセージ』も決して悪くないんだけれど、観終わった後に“Arrival”、つまり到着という言葉の意味も深く考えて解釈せざるをえないのも素晴らしいところ。

さ〜て、次回、6月2日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、先日番組にゲスト出演してくれた河瀨直美監督の『光』です。カンヌの結果が気になるところ。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!