京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『パトリオット・デイ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年6月16日放送分
『パトリオット・デイ』短評のDJ's カット版です。

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パトリオット・デイ、つまり「愛国者の日」に毎年開催されるボストン・マラソン。2013年に爆弾テロが起きたのは、ランナーが続々とたどり着くゴールエリアだった。警備にあたっていた地元警察のトミーやFBIの捜査官、そして一般市民や犯人など、映画は多種多様な事件関係者の映像を縫い合わせるようにして進みます。もちろん日本にも報道されたこの悲劇の解決までの102時間。その緊迫する裏側を描いていく。

ローン・サバイバー(字幕版) 

監督はピーター・バーグ。実録路線の中で唯一に近い実在しないキャラクター、ボストン警察のトミーという主役を演じたのは、マーク・ウォールバーグピーター・バーグ監督とマーク・ウォールバーグ。このふたりの「バーグ」がタッグを組むのは、この番組でも扱った『ローン・サバイバー』、日本ではこの春に公開された『バーニング・オーシャン』に次いで、これで3作目。今回はウォールバーグが製作総指揮でもあります。他に、ケヴィン・ベーコンジョン・グッドマンJ・K・シモンズといった渋くも実力派を揃えたキャストが実在の人物たちになりきっています。
 
それでは、制限時間3分間の短評で映画の裏側まで暴けるか。今週もスタート!

何日何時何分、誰がどこにいるか。ボストン・マラソン前夜から、事件、犯人逮捕まで。シンプルな文字情報で時間と場所と人物を示しながら、映画は基本的に時系列で進んでいきます。記憶力の悪い僕は、始まってから10分くらいで、「これ、覚えられるかな」っていうくらい人が出てきたんで心配になりましたけど、何とかなるさと流れに身を任せていたところ、確かに何とかなりました。いや、むしろ主要キャラクターの整理がきちんとできていて、編集が素晴らしいので、名前まで覚えるのはさすがに難しくとも、関係性とできごとの流れは見事に伝わってくる。当然ながら、特に爆発以降、人々がどんどんと関連していくわけです。その意外なつながりにあっと驚き、その後「何たる偶然…」とこちらが不憫に思う暇もなく、事件はずんずん緊迫感を増していく。手に汗握りました。
 
大きな倉庫に急遽作られた捜査本部で、ケヴィン・ベーコン演じる捜査官が「ここにゴール付近の街の様子を遺留品を置いて再現しろ」と指示して、それが手際良く実行に移される場面がありましたけど、映画全体のスタンスはその再現方法に近いです。言わば、遺留品が映画では各視点の映像なんです。それをうまく組み合わせれば、全体像がくっきりと浮かび上がる。映画というメディアの特性を活かした演出ですね。この手の作品だとアカデミーで編集賞を獲ったオリバー・ストーンの『JFK』を思い出したりもしました。

JFK ディレクターズ・カット版 (字幕版)

僕は『バーニング・オーシャン』を観ていないんですが、バーグ監督の同じ実録路線『ローン・サバイバー』との共通点を考えると、「唐突さ」が挙げられるのかなと思います。物語の展開はいつも突然で、人々は予想外の出来事に呆然とし、おろおろし、うろたえる。登場人物たちの多くは、アクションよりもリアクションなんです。そのあたりを僕ら観客はリアルだと感じているのではないでしょうかね。もちろん、演技、撮影、照明、録音、編集と、スタッフの一級の仕事があってこそですけど、もっと大枠の構造として、何かが起こるプロセスよりも、起きてしまってからの対応のプロセスを軸に据えているから、観客はみんな結果を知っているはずなのに、その都度、唐突に起こる展開に登場人物同様びっくりするから引き込まれる。そうやって緊迫感を作っていきます。
 
この構造の欠点としては、どうしても全体が一面的になることでしょう。僕も観終わった後にまず考えたのはそこです。この群像劇の中にせっかく最初から犯人を出してるんなら、もうちょっと踏み込んで、あの若き兄弟がなぜそんな凶行に及んだのか、その背景も暴いて見せてはどうか。でもね、冷静になって振り返ると、そこまでやってしまうとスピード感がそがれる上、モザイク画のようにして小さなピースの集合体として全体を見渡す構造そのものが破綻してしまうんですよね。むしろ、途中でふたりには「911は政府の陰謀」だとか言わせてました。あれがギリのバランスだったのかなと。つまり何が言いたいのかというと、バーグ監督はふたりをシンプルに敵扱いしているわけじゃないだろうってことです。
 
誰かを祭り上げてヒーローにするのではなく、ボストンそのものを、市民たちを、しかも移民も含め、自由の旗印のもとに団結したみんなが立ち直る様子を群像劇的に最終的に感動に結びつけているわけです。アラブを敵視してもいない。むしろFBIや警察もそこには人権的な配慮をしていました。
 
ローン・サバイバー』ではアフガニスタンでの米軍の泥沼の戦いを描きました。その果てに、アメリカ本国はどうなったか。セットで考えると、バーグ監督のつとめて冷静なスタンスがうかがえると思います。「テロなんてブラックリストをいくら作ったって防げない」というFBIの発言は今の日本ではタイムリーに響きますね。さすがに最後は感動的に作り過ぎかなと思ったりもしましたが、「愛国者の日」というタイトルの映画のわりには、プロパガンダではなく、むしろリベラルなバランスで作られた、しかも、語弊を恐れずに言いますが、映画として面白くしあげている良作です。
 
※ どうでもいい補足ですけど、ドアを蹴破る時は、足の裏からドンといくようにしましょう。決して、膝からぶつかってはいけません。そんな機会、これからあるかどうかわかんないけど。


さ〜て、次回、6月23日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『キング・アーサー』です。名高い聖剣エクスカリバーの威力はどんなもんなんでしょうかね。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!