京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『キング・アーサー』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年6月23日放送分
『キング・アーサー』短評のDJ's カット版です。

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イングランドの王ユーサーを叔父のヴォーティガンに殺され、追ってから命からがら逃れてスラム街で育ったアーサー。ユーサーが残した聖剣エクスカリバーを手に入れ、魔術師の力を借りながら困難を乗り越え、王座を奪還する物語。

シャーロック・ホームズ (字幕版) パシフィック・リム(字幕版)

日本産RPGにも大きな影響を与えた中世の騎士道物語を大胆に脚色するのは、『シャーロック・ホームズ』シリーズなどで知られる映像の魔術師ことガイ・リッチー。アーサーを演じるのは、『パシフィック・リム』のチャーリー・ハナム。悪役ヴォーティガンには、ジュード・ロウが扮する他、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』で人魚シレーナを演じたフランスをベースに活躍する女優アストリッド・ベルジュ=フリスベが魔術師メイジを担当しています。
 
それでは、エクスカリバー並みの切れ味となるか、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

アーサー王は6世紀にウェールズから異民族を撃退した英雄とされているんだけど、その物語は民間伝承やフィクションだし、そもそもアーサー王が歴史上の人物かどうかも議論があるくらいなわけです。つまり、エクスカリバーだ魔法使いだ円卓だ聖杯だといったモチーフさえ出しておけば、後はある程度自由なわけですよ。イギリス人にとってどころか、世界中で、2次創作的なものを育んできた物語の型。これまでも幾度となく映像化されているとは言え、キャラも多いし、ワーナーが新しいマーヴェル的なシリーズ世界、シネマティック・ユニバースを作りたいという意図もよくわかります。
 
そこで、まずガイ・リッチー監督ですよ。昔は失敗もありましたけど、型をうまく改変する素質が今の彼に備わっていることは、『シャーロック・ホームズ』で誰もが知ってる。そう見込まれたわけですからね、リッチーは製作と脚本も手がけて大活躍。というか、大喜びだったんでしょう。良くも悪くも、リッチー節が炸裂した、ケレン味だらけのスーパー歌舞伎みたいになってます。ある程度自由に改変っていうレベルをはるかに超えて、完全に自由なんです。
 
まず父ユーサーが暗黒魔法を使うモルドレッドと戦うプロローグの部分。ファースト・ショットから誰もが思いますね。象がデカすぎる。なんかインドっぽく象の上に人が乗った軍隊っていう設定も時空が歪んでクラクラするけど、それよりも何よりも、象がさすがにデカすぎる。
 
アーサーが難を逃れて育ったスラムで成長する20年くらいを1分強で編集する技には参りましたね。超高速編集はうまいし、見ごたえがあるけど、さすがに端折りすぎ。
 
聖剣エクスカリバーの威力が、もはや理解不能なほどにさすがにありすぎ。魔法はいいんだけど、もうちょい何ができて何ができないかをわかるようにしておいてもらわないと、さすがに雰囲気で押しきりすぎ。
 
中国のカンフーの達人からアーサーが武術を教わってるってのも、衣装全般も、時代考証をさすがにすっ飛ばしすぎ。アーサー王の次創作物である本やゲームや映画からの影響でしょうね。ていうか、時代も何100年か勝手にずらして後にしてるんですよね。
 
一言にまとめると、自由なガイ!
 
なんて言って、笑いのネタにしてるようだけど、これらの要素はすべて長所でもあるんです。ガイ・リッチーは、この映画を面白くするために、良かれと思ってやってるんです(当たり前だけど)。だから、リッチー演出が好きって人はいいけど、そうでなかったら、なんじゃこりゃってなっちゃうかもしれないです。膨らませるところと端折るところのバランスもいびつだし。
 
 
もし普通のやり方なら、さすがに恋愛要素を増やすかな。もうちょい女性キャラを増やすかな。キャラの説明とか、あの世界の地図とか入れるかな。もはや監督がメガホン・エクスカリバーを手に入れたのかってくらいに自由。
 
権力への執着と不安が身を滅ぼすこと。本当の自分というのは、他人、周りが見つけてくれるものであること。そして、もちろん、キャッチコピーにもある下克上の面白さ。敵ではなく仲間を増やすこと。
 
こうしたわかりやすく普遍的なテーマのある物語なんで、たとえばディズニーなら、そこを軸にもっとわかりやすくするでしょうね。でも、そうすると、リッチー節は削がれてしまい、下手すると毒にも薬にもならない歴史もので終わっちゃうでしょう。その意味で、リッチーの起用は諸刃の剣。僕は笑いながらリッチー版、ウェールズスーパー歌舞伎をかなり楽しみました。


サントラは特筆に値します。打楽器を中心にした複雑なビート。細かい息遣いのサンプリング。手拍子。リッチー特有の細かい映像編集とマッチしてました。ダニエル・ペンバートンという音楽監督、グッジョブです。彼は同じくリッチーの『コードネームU.N.C.L.E.』や、ダニー・ボイルの『スティーブ・ジョブズ』を手がけているんですね。

コードネームU.N.C.L.E.(字幕版) スティーブ・ジョブズ (字幕版)

クライマックスへの景気づけに流れる歌ものは、京都音博にも出ていて、僕も面識のあるSam Leeが曲作りにも参加。彼は古い楽器や中世の民俗音楽、ロマ族の音楽、さらには日本の琴までサウンドに取り入れてポップスを作る人なんで、相性がいいはずです。サムを使うとは、わかってんなあって、僕はほくそ笑みましたよ。


さ〜て、次回、6月30日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ハクソー・リッジ』です。沖縄慰霊の日の放送に届いたお告げ。メル・ギブソン渾身の作品ということで、心して観なければ。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!