京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『ハクソー・リッジ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年6月30日放送分
『ハクソー・リッジ』短評のDJ's カット版です。

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カトリックの信心深いデズモンド・ドス。米軍に志願するものの、武器は一切持たず、「汝、殺すことなかれ」の教えを戦場でも実践。第2次世界大戦末期、沖縄の激戦地ハクソー・リッジ(前田高地)に衛生兵として従軍した彼が75人の命を救った実話です。

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監督は、色々あったメル・ギブソン。メガホンを取るのは、『アポカリプト』以来10年ぶりとなります。主演は『アメイジングスパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールドですが、沈黙 -サイレンス-』が記憶に新しいところ。
 
アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門にノミネートし、編集と録音で賞を獲得しました。
 
それでは、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

どうしても凄惨な地上戦のシーンに注目が集まりますが、それまでのよくできたドラマがあってこその展開なのを、まずは分かっていただきたい。ドスの家庭環境と人となりが示される前半から中盤にかけてが素晴らしいです。父親アルコール依存症で、母親にしょっちゅう手を上げているんだけど、ある時、デズモンドが彼女をかばって寄り添っていると、「父さんは昔はああじゃなかった」と母が言うんです。父も元軍人で、第1次世界大戦で親友3人を亡くして、今で言うPTSD状態に陥ってしまったんです。確かにろくでもない父親に成り下がってはいるかもしれないけれど、愛する子どもを戦場へは送りたくないという想いには説得力があります。
 
デズモンドの人格と思想が形成されていくプロセスも、端的で無駄のない描写でした。ヴァージニア州の自然豊かなところで、元気に身体を動かして育つんだけれど、ある時喧嘩でやり過ぎて、兄弟をレンガで殺しかける。そこで知った、人を殺してしまう恐怖。青年になると、今度は事故で怪我した人を病院に担ぎ込み、命を救ったその経験が彼のその後を決定づける。家が貧しいから叶わなかったが、本当は医者になりたかったこと。看護師と育んだ恋愛。そこに、戦争の影が忍び寄る。ドスの真面目っぷり。こうと決めたらまっしぐらなところ。誰かと自分を比べたりせずに、僕は僕なんだという芯の強さ。それが故に、周囲とのコミュニケーションではズレが生まれる様子が、意外にも当初はコミカルに描かれるんです。軍隊に入ってからでさえ。
 
ただ、当然、軍にいながら武器を手に取らないという信条は、軋轢を生み、彼は冷遇され、しごかれ、軍法会議にかけられすらするわけです。ここで一気に立ち上がってくるのは、非暴力で暴力に立ち向かえるのかという問いです。ドスが志願した発端は、真珠湾攻撃じゃないのか。そのスタンスで仲間や国を守れるのか。すごいなと思うのは、それでも米軍はドスを軍から排除しなかったんですよね。日本軍ならあり得ないでしょう。
 
そして、1945年5月、沖縄。戦闘が始まるまでの静寂。一気に始まる銃撃戦。息をつく暇のない、そして目を背けたくなる怒涛の展開。安っぽい言葉だけど、映画史に記録されるレベルです。四肢は飛び散り、銃弾が脳天をあっさり貫き、銃剣が胸を刺します。火炎放射器は人を生きたまま焼きます。兵士たちは日米双方ともにバタバタと倒れ、吹っ飛ぶ。文字通り無数の屍を越え、両軍は一進一退の攻防に明け暮れる。そんな中、デズモンドは仲間が退却しようとも、負傷者を手当し、崖から下ろして救助する。何と、時には敵まで。ほとんど狂気です。でも、はっきり言って、多かれ少なかれ、そこでは狂気に支配される。それが戦場なのだということがよく分かります。グロテスクな描写も残酷趣味という批判に、僕は当たらないと思う。
 
ただ命を救うための兵士がひとりくらいいたっていい。ドスはそんな事を考えます。そんなに武器が嫌なら戦争に行かなけりゃいいじゃないかとはならないんですよね。彼をそう揶揄するのは、たとえば、戦場を取材するジャーナリストや、国境なき医師団の活動を浅はかに軽んじるのと近いものがあるような気がします。人が人でなくなる戦争そのものが狂気の産物なのであって、戦争という地獄が無ければ、彼の狂気もないわけです。その意味で、これはきっちり反戦映画として成立する堂々たるメル・ギブソン復帰作と言えるのではないでしょうか。恐れ入りました。


短評後には、島唄ウチナーグチver.)/THE BOOMをオンエアしました。

 

日本側の視点が入っていなくて一方的じゃないかという意見もあるようですが、そんなの無理でしょう。これだけでも139分かかってるんだから。そして、日本軍の兵士は大勢出てきますが、決して偏見に基づいているわけではないし、そこは僕でも伝え聞くレベルのエピソードしかありません。少なくとも、一面的に「過ぎる」という批判は的外れでしょう。

 

沖縄県浦添市のホームページに掲載されている鑑賞の参考になる一連の地図や記録、動画は、日本側からの視点を知る助けにもなりました。こちらから閲覧ください。
 
ちょうど先週6月23日が沖縄慰霊の日でしたが、5月の闘いを描いた本作からまだおよそ1ヶ月地上戦が続き、米軍の死者は1.4万人。負傷者7.2万人。日本側の死者は18.8万。およそ半数は民間人だったと言われています。
 
それにしても、ガーフィールドは『沈黙 -サイレンス-』に続いて、信仰に生きる葛藤を見事に体現。あっぱれ!


さ〜て、次回、7月7日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、シリーズ5本目となる『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』です。FM802で唯一ディズニーからの依頼を受けてジャック・スパロウになりきった経験のある僕が、心を込めて短評するつもりです(笑) あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!