京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年7月7日放送分

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ご存知、海賊アドベンチャーのお化けシリーズ第5弾。ディズニーランドのアトラクションから映画が生まれたという珍しいパターンで、2003年の「呪われた海賊たち」からスタートしたんですが、一応、3までで一度話が完結するんだけれども、お客さんも入るし、もいっちょやろうってことで、「生命の泉」という4作目も製作し、88億円という興行収入を叩き出しました。今回はそこから期間の空くこと6年。久々の続編です。

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ジャック・スパロウと共に冒険したウィル・ターナー。息子のヘンリーは、現在は幽霊船の船長になっている父を救うために各地の伝説を調べ、呪いを解く鍵はポセイドンの槍だと発見。一方、天文学を研究しているというだけで魔女の濡れ衣を着せられているカリーナ。彼女は生き別れた父が残したポセイドンの槍に関する謎を解こうとしていた。はたまた、かつてジャック・スパロウに一杯食わされて海の死神となったサラザールがゴーストたちを率いてジャックへの復讐の狼煙を上げる。サラザールから逃れるためにも、呪いを解くポセイドンの槍が必要。かくして、同じ槍を巡り、登場人物たちの思惑が交錯しながら、物語は意外な方向へと進路を変えていきます。

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ジャック・スパロウには、もちろんジョニー・デップ。死神サラザールは、『ノー・カントリー』のハビエル・バルデムが演じる他、ジェフリー・ラッシュ扮するおなじみのキャプテン・バルボッサも登場します。監督は、今シリーズ初、この番組でも4年前の7月に扱った同じ海洋アドベンチャーもの『コン・ティキ』のヨアヒム・ローニングとエスペン・サンドベリの40代コンビ。
 
それでは、ディズニーからのれっきとした依頼を受けて、つまりディズニーお墨付きでジャック・スパロウに扮し、6年前のファンキー・マーケットでは、一日署長ならぬ一日船長を経験した僕野村雅夫が、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

シリーズ物の宿命ってあるんですよね。映画業界では当たらないと言われていた海賊ものでそのジンクスを吹き飛ばした1の「呪われた海賊たち」。客観的に言って、あれが一番好きだっていう人が多いです。人気もそうだし、評価も高い。ところが、続編を作る度にその人気も評価も衰えているのが実情。だけど、お客さんは入るんです。収益で言うと、1が一番少ない。結局、他に似た映画がないし、ある程度は絶対面白いだろうし、たとえばデートや家族で観に行っても、良くも悪くも引きずらないエンターテイメントだろうという世間的なポジションを確立してるってことが言えるでしょう。
 
では、もっと具体的に、人はパイレーツに何を求めているのか。シリーズの特徴を整理して、今作と比べてみましょう。シリーズの魅力はざっくり言うと、2点。ひとつは、騙し騙され、裏切り裏切られな登場人物たちの駆け引きです。それが、冒険心をくすぐる、いかにもなお宝を巡って行われるわけです。しかも、ジャックとバルボッサのような海賊たちはもちろん、言わば堅気の人達も目的のためには手段を選ばない。猜疑心に駆られた状態で観客も観るので、先が読めずにハラハラする。「ワンピース」のような仲間意識でも「ワイルド・スピード」のような絆でもないんです。情の部分はさっぱりしてるから、見ていて重たくならない。なおかつ、権威に一泡吹かせる展開もあって、スカッともできる。
 
そして、もうひとつは、映画ならではのアイデアたっぷりなアクションシーン。中世だからできる剣と大砲の応酬。船の衝突・爆破、乗り移り。マストで高さ、錨で海の底まで、地上では実現しないアクションには、制約があるだけに、どんな手が次に来るかとワクワクする。さらに、地上でもしっかりやりますよ。2本目「デッドマンズ・チェスト」での転がる水車の上での剣の戦いは忘れがたい。そういう、絵的に問答無用でアガれるアクションが用意されている。
 
そんなパイレーツのスタイルが今作ではどう発揮されていたかって話ですけど、残念ながら、発揮しきれていないというのが正しいんですよ、これが。
 
アクションでのいいところ、ありますよ。予告にも出てくる銀行強盗の場面とジャックがギロチンにかけられるところ。酔っ払ったジャックが、まるで無表情の喜劇王バスター・キートンのように、建物が動くようなビッグスケールな騒動に飄々と巻き込まれる。ギロチンのくだりも笑えますね。ジャックの前にカメラが据えてあるんだけど、ジャックは半分破壊されたギロチンごとブランコみたいになってですね、揺れる度にギロチンの刃がジャックの首元ギリギリまでやってくるという… って、僕の話を聞いていても想像つかないと思います。それが映画的ってことなんですよ。観たら興奮するけど、言語化しにくいっていうね。

なんだよ、マチャオ褒めてるじゃないか! そこはね。でも、陸上でしょ? 海のシーンは? そうだな、若かりしジャックがサラザールをまんまとやり過ごす場面は痛快でした。でも、若い時の話だからね… あとは、サラザール率いる幽霊船が、まるで文字通りガイコツ船っていうか、骨組みしか残ってないような船なのに、水に浮かぶし、半分空中に浮くし、みたいなアイデアは面白かったです。ただ、それでゴリ押してます。もちろんCGだし、人間じゃないんで、何でもありってことになると、そもそもがご都合主義上等のシリーズなんで、だんだん興味が薄れてくる人がいてもしょうがないでしょう。
 
だいたい、今回はジャックがいくらなんでも活躍しなさすぎです。落ちぶれているのはわかったけど、すべてが運任せだし、何をどうしたいっていう意志も伝わってこない。あと、セリフのギャグも、そこそこ滑ってます。そう、ジャックはあくまで潤滑油くらいの存在で、歯車は不在の父親とつながろうとする若い男女とバルボッサなんだけど、正直言って、若者たちには荷が重い。そもそも駆け引きをするような奥行きのあるキャラじゃないうえ、主役という貫禄が薄いんですよ。線が細いというか。どうしても、オーランド・ブルームキーラ・ナイトレイに重ねてしまうからでしょうね。だから、今作で一番おいしいのは、実はバルボッサです。理由には触れないでおきますが、後半のある展開から一気にグイッと前に出てくるんだけど、その理由もね、僕は、「取ってつけたような話」やなと思ったのは事実です。
 
そんなこんなで、まとめると、パイレーツの魅力とスタイルを発揮しきれてないぞっていうのは間違いないです。ただ、このシリーズは、1以降、多かれ少なかれ、そんなとこなのかもしれません。その意味で、一定の面白さは保証されてるけど、それ以上にはならないという感じ。誤解は禁物。今回も面白いです。が、観客動員数ランキング初週1位の売れてる映画なんで厳しく言いますが、もっと魅力を研ぎ澄まさないと、飽きられます。参考になるのは、「ワイルド・スピード」ですね。もう、ここまで来たら、空を飛ぶのもありじゃないかと。そんなことないか(笑) ま、らしさを維持してフレッシュなアイデアを投入し続けるというシリーズ物の鉄則を肝に銘じて、さしあたっては次は「海賊ものらしさ」を取り戻していただきたいところです。

ポール・マッカートニーが出てきました。ジャックのおじさん役。僕はその情報をすっかり忘れていたので、普通に驚きましたよ。確か、キース・リチャーズがお父さん役だったから、ポールとキースは兄弟ってことになりますね。番組では、ポールの曲の中でも、ミシェル・ゴンドリー演出のMVにゴーストが出てくるこちらDance Tonightをチョイスしてオンエアしました。
 
それにしても、邦題の「最後の海賊」は、なんでこんな事になってしまったんでしょうか。そのまま「死人に口なし」ではダメなんでしょうか。「シリーズはこれがラストだって勘違いするお客さんがいるといいな」という魂胆でないことを心底願います。


さ〜て、次回、7月14日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『メアリと魔女の花』です。僕、米林宏昌監督の『思い出のマーニー』が結構好きだったんですが、今回はいかに。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!