京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スパイダーマン:ホームカミング』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年8月18日放送分
『スパイダーマン:ホームカミング』短評のDJ's カット版です。

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マーベル・コミックの大人気キャラクター、ご存知スパイダーマン。2002年からのサム・ライミ監督版、2012年からのマーク・ウェブ版に続き、これが2度目のリブート、3度目のシリーズ化となります。キャラクターの権利を持っているのが、実はマーベル・スタジオではなくて、ソニー・ピクチャーズだということで、これまではソニーがマーベルトは別に手がけていたんですが、昨年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』から、アイアンマンなど人気キャラがうごめく世界MCUマーベル・シネマティック・ユニバースと電撃的な合流を果たしまして(あのシーンには笑わされましたね)、今回は単独作で新しいスパイディーが本格デビューとなりました。サブタイトルのホームカミングを、マーベルというホームへ帰ってきたという意味に取る人もいます。

スパイダーマン (字幕版) アメイジング・スパイダーマン (字幕版)

 ベルリンでのアベンジャーズ同士の戦いに参加し、キャプテン・アメリカのシールドを奪ったことで調子に乗っているスパイダーマン。スーツを脱げば、15歳の高校生ピーター・パーカー。アイアンマンことトニー・スタークから受け取った特性スーツを身に着け、彼は言わばヒーロー見習いとして、部活かサークルのような感覚で、住んでいるニューヨークご近所の治安を守る活動にいそしんでいた。そんな中、トニー・スタークに恨みを抱く敵バルチャーが暗躍。その動きを掴んだピーターは、トニー・スタークの忠告を無視して独自にバルチャーを封じ込めようとするのだが…

 
監督は、これが長編3本目の大抜擢、ジョン・ワッツスパイダーマンを、これまでで一番役の年齢に近い21歳のトム・ホランド、そして、悪役バルチャーをマイケル・キートンが演じています。
 
鉄の先輩と蜘蛛の後輩がせめぎ合う様子を僕がどう観たのか。それでは、制限時間3分間の短評を今週もスタート!

このコーナーでは7月頭の『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』から、いわゆる夏休み映画を続けざまに扱ってきましたけど、断言します。この夏の大本命が遅ればせながら登場です。パイレーツだミニオンジョジョだと、もう夏のキャラ祭ですけど、1本の映画としてのクオリティーがぶっちぎりに高いです。キャラの魅力とは別に、作品として良くできてる。なんなら、アメージングよりよっぽどアメージングで、これまで最高のスパイダーマンだという評価もありまして、僕も同じ考えです。
 
ヒーローものの宿命ですけど、シリーズ化すればするほど、どうしても敵がどんどん強くなっていく。すると、街や国、ひいては地球そのものが危機に陥るような、とんでもなくデカい話になりがちで、それに合わせて主役もどんどん力をつけるから、力のインフレが起きて何が何やら、僕らのしょうもない現実から何光年も離れた遥か彼方の出来事のように思えてくる。そして、パワーがでかくなる分、当然街が破壊されたり、市民の犠牲も出てくるので、「正義とは何か」みたいな話になって、ヒーローが悩み始める。最終的には、話はもう現実感がないのに、観ているとこっちまでしんどくなるほど重々しいテイストになっちゃう。全部あてはまらずとも、こんなような映画、ありますよね?
 
今回のスパイダーマンは、逆です。身のこなしだけじゃなしに、テイストも軽い軽い! そもそも、ピーター・パーカーは、アベンジャーズの誰よりも若くて未熟なんです。高校生だもの。友達とレゴでデス・スター作りたいし、好きな女の子もいるし、部活もある。普通はこれだけでも大変なのに、そこにプラスして、何よりも楽しいヒーローという活動もこっそりやってる。結構忙しいんですよね。そこで、ジョン・ワッツ監督は、例のスパイダーマン誕生のエピソードや、叔父さんを亡くしてしまうという悲劇を、なんと、あっさりカット。これが英断でした。確かに、クラス内のカースト的な嫌なことも描いてるんだけど、僕がいいなと思ったのは、ここでのピーターが、「僕には僕の活躍できる場があって、学校なんて狭い世界でどのポジションにいるかなんて大したことじゃない」という感じを、調子には乗ってるけど、鼻持ちならない奴にはならないように描けているんですよ。その証拠に、学校なんてどうでもいいとはなってない。ピーターがゾッコンなリズに対しては、彼なりに本気だし、親友のネッドともいいバディ感が出てる。要するに、世界を俺が救うんだっていう孤高のヒーローになりきれていないのが、僕らをくすぐるんです。そこに人間味が出るし、笑いが生まれる。
 
笑いと言えば、アメイジングスパイダーマンの時も、とにかくよく喋ってましたけど、今回はセリフ量がまた増えてましたね。独り言が多いこと! 僕も一人っ子だからわかるんだけど、自分を客体化して、セルフツッコミをしたり、自分の行動を実況するような言葉をブツブツ(普通は心の中でだけど)喋ることで、孤独を紛らわせたり、自分の内面のバランスを保ってるんだと思います。そういうキャラクターの特性をうまく引き出しているのが、彼が自撮りしている動画とか、スーツに仕込まれたAIです。2017年の今っぽさも出せるし、スパイディーの個性も際立つ見事な設定でした。
 
優れたヒーロー映画には、目が離せない悪役が欠かせません。その意味で、今作のバルチャー、マイケル・キートンは絶妙です。彼が悪事に手を染めるきっかけと動機には、同情する余地もあるんですよね。むしろ、「トニー・スターク、お前よぉ、ヒーローなんだったら、もうちょっと社会全体の調和ってもんを考えようぜ」と僕らにツッコませるような感じで、このバルチャーのジキルとハイド的な怖さは、この前の『ザ・マミー』の本家本元のはずのジキルを上回ってました。悪役にも理があるってのは別に目新しくないんだけど、今回はさらに中盤であっと驚く展開が待ち受けてるんで、さらにゾクッとするし、さらに同情度合いが増すという。よくできてる!
 
メイおばさんの色気とか、トニー・スタークの部下のハッピーとの軽妙なやり取りとか、リズとの淡い関係とか、食い気味でポップな編集のうまさとか、過去作関連作オマージュの嫌味がない出し方とか、音楽の使い所とか、ダサい回想シーンが無いとか、もう褒めるところばかり。
 
ただ、冷静になって考えると、要素が多くて展開が早いからついつい忘れてたけど、ピーターがどう成長したのかっていう内面の変化については描き切れてないから、最後の方のトニー・スタークとのやり取りは唐突だし、ヴァルチャーに対してどう思っていたのかという描写がないのも、ヴァルチャーに同乗しちゃった分、僕は不満です。
 
それでも! 僕はノリノリで楽しめました。スパイダーマンって、建物がなかったら、そっか、走るしかないんだ、とか、ゲラゲラ笑いました。最後の奴の決断も、僕は応援したくなるし、次回への期待を高めつつ、これ単体としてもしっかりまとまっているという、シリーズもの、しかもリブートもの、しかももっとドデカイお話の中に後から参加しての1作目という無理難題に、最高に近い形で回答してみせた痛快作でした。

COP CAR/コップ・カー(字幕版)

若手のジョン・ワッツ監督は、前作の『コップ・カー』がまた超絶オススメなので、こちらもぜひ。

さ〜て、次回、8月25日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』です。岩井俊二のあの映像を90年代にギリギリレンタルで観た世代の僕です。この作品は、それこそいろんな角度から語り甲斐があるんじゃないかしら。観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!