京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『探偵はBARにいる3』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月8日放送分
『探偵はBARにいる3』短評のDJ's カット版です。

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大泉洋扮する探偵と、松田龍平演じる大学院生の相棒高田が、札幌ススキノを舞台に事件を解決に導く凸凹バディーシリーズ。今回は高田の後輩からの依頼が発端。女子大生の彼女と連絡が取れないとのことで調査すると、怪しげなモデル事務所の美人オーナー、マリに辿り着きます。さらに、彼女の背後には、表と裏双方から社会を牛耳り始めている北条という黒幕が。探偵たちは知らぬ間にマリの罠にはまり、事態は見る間にのっぴきならないものになっていく。

探偵はバーにいる (ハヤカワ文庫JA) 探偵はBARにいる3 (ハヤカワ文庫JA)

例によって東直己の「ススキノ探偵シリーズ」が原作ではあるんですが、この映画はその第1作からいくつかネタを拝借しているものの、実質的には初のオリジナル・ストーリーで、ノヴェライズが出版されています。監督はこれまでの橋本一から吉田照幸に交代。『あまちゃん』や、このコーナーで扱った『疾風ロンド』の人ですね。脚本はいつも通り古沢良太。今回のヒロインとなるマリには、北川景子が起用されました。その他、前田敦子、志尊淳、リリー・フランキーなど初参加陣に加え、田口トモロヲ松重豊安藤玉恵などのレギュラー脇役陣も依然として存在感を発揮しています。
 
評の前に参考情報として加えておくと、これまでは、PG12という映倫の指定(小学生までは親に寄り添ってもらってくださいねっていう枠)が付いていたんですが、今回はG、つまり誰でも観ることができる一般公開となっています。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!
 
まずはこのシリーズの特徴を整理しますね。
 
ハードボイルドというジャンルがあります。ミステリーの分野では、客観的でドライな刑事や探偵が、推理よりも行動で事件を片付けていくのが特徴。このシリーズの場合は、ハードボイルドを気取ってはいるものの、なんだかんだで「浪花節だよ人生は」ってな内面が隠しきれない、言わば、固茹でになりきれない半熟卵、「ハーフボイルド」なんですね(そう言えば、東直己の小説にも、「ハーフボイルド」って言葉がタイトルに踊るススキノ・スピンオフがありました)。平たく言えば、この探偵はいつもカッコつけてる2枚目半。ルパン三世シティーハンター、あるいはコミカル路線の007作品にも通じる、あの笑いがそこかしこに漂っています。

新装版 ススキノ・ハーフボイルド (双葉文庫) 探偵はBARにいる

さらに、映像的な味付けにも特徴が。手持ちカメラやスローモーション、そして画面のギラッとした色味など、松田龍平のお父さん、松田優作の出ていた一連の作品やら、東映実録ヤクザものやらを髣髴とさせるような、70年代に量産された古き良き邦画大人向け娯楽作品のテイストを受け継いできました。大人向け娯楽作だから、エロスもバイオレンスも、裏社会の様子も、わりとしっかりまぶしてあった。主題歌も、カルメン・マキ鈴木慶一ムーンライダーズでしたからね。渋い! こういったすべての要素が、2010年代にあっては、レトロで懐かしくもフレッシュだった。それが注目された要因だろうと思います。
 
で、この3作目。シリーズ初のクリスマス・お正月タイミングの公開ということもあり、恐らくはもっとお客さんの裾野を広げていこうという思惑も働いたのでしょう。監督を交代して、明らかな変化がありました。それが奏功したのか(僕はそうは思ってませんが…)、公開初日からの3日で16万人を動員。これまでで一番好調な滑り出しです。興行的には、ね。映画も商売ですから、それで良いと言えば良いです。ただ、僕はこのシリーズの熱心ではないが確実な一ファンとして釘を差しておきたい。3作目のこのテイストを続けると、今後飽きられやしませんか? そんな懸念を持っています。
 
話の構造は毎度のこと一緒なんで、そこは敢えて触れません。何が変わったって、演出です。これまでは、R指定のひとつ手前、PG12という映倫の指定が付いていて、小学生までは親に寄り添ってもらってくださいねっていう枠だったのが、今回はG、つまり誰でも観ることができる一般公開となりました。実際、性描写もバイオレンス描写も、一部を除いてマイルドになっています。喫茶モンデのウェイトレスの露出度も下がってるし、シリーズで初めて探偵が依頼人のマドンナとベッドを共にするというのに、肝心の描写はすっ飛ばしてる。喧嘩のシーンもわざわざタイマン勝負の場面を用意したのに、早回しを使った撮影方法が機能していなくて迫力が弱い。トレードマークだったギラッとした画作りも、妙にそつがない、要するに特徴がないものになってる。

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代わりに(僕に言わせれば必要以上に)増幅されてるのが、コミカルな要素。あくの強いサブキャラクターも多いし、ススキノが舞台のご当地映画なんで、シリーズならではのお決まりの笑いがそもそも作りやすいんですね。それはむしろシリーズの財産であり魅力であって、決して悪いことじゃないんだけど、安易にそれを膨らませて、安定の笑いに頼るのは褒められたことじゃないでしょう。
 
例外もありました。冒頭のシーン。これまでで一番探偵が探偵っぽいことをするんです。つまり、「この中に真犯人がいる。それはあなただ」みたいなくだり。あれは、面白かったんですよ。これまでの決まり事をひっくり返したと一旦は見せかけるような展開だから。まさにつかみはOK。そして、努力なんか見せたことのない相棒の高田が妙に汗かいてるのも良かった。でも、あとはですね、違うんです。これまであったお約束シーンを大げさにした上に数を増やすばかりでは、シリーズのファンほど食傷してしまいますよ。
 
一方で、音楽は今回も70年代アングラ日本語ロックのはちみつぱいが採用されていて渋みがある。だから、全体として演出のバランスがおかしなことになっているんです。
 
原因は監督の交代です。もし製作陣がより幅広いお客さんを獲得しようと色気を出して吉田監督を起用したんだとしたら、「その近視眼的な発想はどうなんだ」と僕は言いたい(見当ハズレな僕の邪推ということもありえますが…)。たとえば、このコーナーで今年扱った『ローガン』を思い出してください。あれは真逆の発想で作られていました。アメコミ原作なのに、R指定を付けてまで、映画としての完成度を優先して評価された。翻って、このシリーズはもともと大人向けなんだから、12歳以下をなぜ取り込む必要があるんでしょうか。もしそうしたいなら、ルパン三世の『カリオストロの城』ばりに、事件の内容や探偵のキャラクターをうまく改変する必要があるんだろうけど、このシリーズにおいて、それは時期尚早、あるいはそんな必要はないと僕は思います。

さ〜て、次回、12月15日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『オリエント急行殺人事件』です。先日、誕生日にゴディバのチョコレートをいただきまして、その品はなんと、この映画とのコラボでしたよ。Funky802 Special Weeksにふさわしい話題作。ネタバレも何も、オチは多くの人が知っていても、それでもなお面白いことを願いながら、あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!