京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『オリエント急行殺人事件』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年12月15日放送分
『オリエント急行殺人事件』短評のDJ's カット版です。

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イスタンブールからイギリスのカレーへ。ヨーロッパを駆け抜ける豪華寝台列車オリエント急行で、アメリカの大富豪ラチェットが刺し殺された。乗り合わせていたベルギーの名探偵ポワロは、大雪で列車が立ち往生する中、目的地以外に共通点のない乗客と車掌あわせて13人を容疑者として尋問していく。
 
ポワロ以外にも、ミス・マープルなど人気シリーズを生み出し、ミステリーの女王と呼ばれるアガサ・クリスティー。彼女が1934年に発表した原作小説はミステリーでも最も有名な結末のひとつでしょう。世界各地で翻訳されています。映画化は、まず74年。イングリッド・バーグマンショーン・コネリーなどの豪華キャストを起用して大ヒット。アカデミー賞6部門ノミネート。名作の誉れ高い1本でした。さらには、NHKで放送されて日本でもお茶の間で人気だったイギリスのドラマシリーズの映像化も忘れがたいものがあります。どちらも簡単にレンタルできるので、見比べてみるのもいいでしょう。

 

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そして、今回はケネス・ブラナーが製作、監督、そしてポワロの三役を務めます。他に、ジョニー・デップデイジー・リドリージュディ・デンチペネロペ・クルスなど、今回も主役級の役者が揃い踏み。『エイリアン・コヴェナント』『ブレードランナー2049』に続き、リドリー・スコットがこの作品でも製作に関わるという、秋冬リドリー祭り開催中ということも付け加えておきます。
 
それでは、僕野村雅夫が「灰色の脳細胞」を駆使した3分間の映画短評エクスプレス、今週も出発進行!

物語の面白さについては、もう折り紙つきなので、まだ内容を知らない人は、まずは何も考えずに触れてみてください。「そういうことかぁ」なんつって、ストーリーに驚きながら楽しめるはずです。ただ、何らかの形で結末や主人公ポアロのキャラクターを知っている人が大勢いるわけです。特に全70話のドラマシリーズは原作すべてを網羅して、再放送もしょっちゅう。デヴィッド・スーシェという役者が演じてきた確固たるポアロ像がもうあるわけですよ。どうしたって比べちゃう。僕もそうでしたもの。
 
そこで、新しいポアロを生み出すために、製作チームは脚本から綿密に準備しました。リドリー・スコットの息のかかったマイケル・グリーンの起用。彼は『セックス・アンド・ザ・シティ』などTVシリーズでならした人なんですが、今年は『LOGAN/ローガン』『エイリアン:コヴェナント』『ブレードランナー2049』、そして今作と4本の大作を手がけてる。乗りに乗ってるだけあって、新しいイメージはしっかり作れていると思います。まず、旧来より遥かにがっしりしていて、アクティブ。なんなら、ハードボイルド。よく動く。愛らしい老紳士じゃなくて、凛々しく肉体的にも頼れそうなんですよね。胸板厚い! 髭も髪もフッサフサ。その分、もともとある自信家キャラも増幅されていて、自信過剰なくらい。「物事には善と悪があり、その中間はない」だなんて言い放つ始末。このあたりのイメージ植え付けを、本編に入る前、オリジナルのイントロダクション、エルサレムのシーンでサッとやっちゃう手際の良さ。さらに、そのプロローグでは、今まさにトランプ大統領がトリガーを引いて問題になっているあの土地の3つの宗教・価値観というモチーフまで入れ込んでいる。これ、後から考えると、明らかなフリでしたね。

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クライマックスの謎解きの構図を思い出してください。乗客たち、つまり容疑者たちがズラッと長テーブルに並んでいる絵画的なやつ。どう見たって『最後の晩餐』ですよ。この中に裏切り者がいるっていう、聖書のあれ。つまり、今回のテーマは、宗教的な倫理観と、近代国家が秩序維持のために生んだ法律、このふたつの価値とどう折り合いをつければいいんだという苦悩である、と。ポアロも揺れ動く。善悪は単純に割り切れるものではないと気づいて成長する。これが、今回の映画化の僕は一番のポイントであり独自性だと思います。
 
ポアロの人間的成長って、ドラマシリーズには薄い要素でした。老紳士でしたしね。「オリエント急行」ってのは、原作では70以上ある話の中で8作目なんですよ。だから、ポアロがこれぐらい若くてキビキビしててもいいだろうという解釈でしょうね。ということは、人間的にもまだまだ成熟する余地のある存在であると。「おっす、俺、世界一の名探偵ポアロ」っていう雰囲気で登場しただけに、この「気づき」の要素はフレッシュに感じました。謎解きをしてから、彼自身も良心の呵責に苛まれますからね。実はこれ、7年前に制作されたイギリスTVシリーズと似た設定なんですが、こちらの若ポアロは、一通り悩んだら、「わいはポアロや、名探偵ポアロや!」ってな具合にサクッと復活してますね。それだけ、まだ若いと。

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ただですね、僕は今作、どうもまだしっくりは来ていないんです。ケネス・ブラナー監督も出ていた『ダンケルク』と同じ65ミリフィルムで撮影された、細密かつ迫力ある画作りとか、アップを多用して達者な役者たちの細かい演技を堪能できるとか、良いところはたくさんあります。乗車する時のカメラ横移動で列車を舐めるようなカメラワークも格好良かった。けれど、全体的に演劇的なバシッと決まった派手な構図が僕は多すぎるなと感じます。乗客たちの心理、背景、そして誰がどんな嘘をついているのか、じわじわ探るのが醍醐味なのに、この若ポアロはどうも全体に性急で、推理のプロセスを端折っていきなり核心をついた質問を被疑者にぶつけるもんだから、こちらがついていけない。

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さらに、アクションとケレン味、絵的な勢いで突破しようとしている箇所が目についたのが、僕はゲンナリ来ました。ジョニー・デップケネス・ブラナーのケーキを突きながらのやり取りなんて最高だったのに、ああいう絵は地味だけど味わい深い場面が、事件が起きて以降、極端に減るんですよねぇ。
 
監督のインタビューを読むと、同時期に舞台で取り組んでいたシェイクスピアを意識したという発言があります。そういう舞台映えしそうな重厚な画面構成が、平たく言えば大げさで作り物臭さ、演劇感を出しすぎて、それが若ポアロのキビキビしたアクションなんかと噛み合っていないんじゃないかと思うんです。
 
とはいえ、やはりこれだけの役者陣の演技合戦はそれだけで興奮します。次は『ナイルに死す』。エジプトにも最高のキャストが集うことを願っています。

さ〜て、次回、12月22日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』です。今年もこの時期がやってまいりました。僕も、誰が呼んだか大阪エキスポシティの大仏IMAX次世代レーザーで拝んできますよ〜。そう言えば、デイジー・リドリー2週連続ですね。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!