京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『キングスマン:ゴールデン・サークル』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年1月12日放送分

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謎の組織ゴールデン・サークルから攻撃を受け、壊滅に近い打撃を受けたイギリスの独立スパイ機関キングスマン。残ったメンバーは、前作で立派なエージェントになったエグジーと、その教官にしてガジェット担当のマーリンのみ。ふたりは提携するアメリカの機関ステイツマンに協力を依頼して事態の打開を図るのだが、そこになんと前作で死んだはずのハリーが姿を現して、さぁ、どうなる!?

キングスマン(字幕版) キック・アス (字幕版)

007やミッション・インポッシブルの新作など、スパイ映画の当たり年だった2015年に公開されて大きな話題を振りまいたスパイ・アクション『キングスマン』の続編。監督・製作・脚本すべてにクレジットされているマシュー・ヴォーンは、前作から続投。『キック・アス』の監督ですね。原作マーク・ミラーというのも、同じ。良いコンビ感が出てきたふたりって感じです。ハリーのコリン・ファース、前作の出演でブレイクしたエグジーのタロン・エガートンが続投するのはもちろんのこと、今回はゴールデン・サークルという敵対組織のボスをジュリアン・ムーア、ステイツマンのエージェント「テキーラ」をチャニング・テイタムが演じます。そして、エルトン・ジョンカメオ出演も話題となっていますね。
 
前作を番組で短評できなかったのが悔しかった僕です。映画の女神様からのお告げを手ぐすね引いて待っておりましたよ〜。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!

Manners maketh man. 礼儀が紳士を作る。英国紳士のエレガントな身のこなし。荒唐無稽なガジェット。エキセントリックな敵。

 

前作『キングスマン』が土台としていたのは、ロジャー・ムーアがボンドを演じていた007おバカ路線。(007を監督できなかった)マシュー・ヴォーンが、古き良きお気楽B級スパイ映画を2010年代に蘇らせたわけです。ただ、ボンドとは違い、主人公のエグジーはトレインスポッティング的な労働者階級出身。そんな彼を、父親代わりのメンター、ハリーが導いて一流のエージェントに「仕立てる」『マイ・フェア・レディ』的な軸があって、そこに下品な言葉づかいや悪趣味なグロテスク描写といったブラックな笑い、そして主にアメリカの保守的な価値観への痛烈な皮肉を盛り込んでいました。つまり、自分の愛するジャンルを土台に、「今俺がやるならこうしよう」っていうアップデートがきっちりできていた上、やたらリアルだったりアート寄りだったり、良くも悪くも重厚な作品が多かった最近のスパイ映画の中にあって、とにかく目立つテイストだったということもあり、2015年を代表する作品になったわけです。

 

それがゴールデン・サークルでどうなったか。続編のマナーってのがあるわけですよ。前作で登場した人気キャラや道具を反復して出して「待ってました」とファンを喜ばせつつ、そこに差異、バリエーションを加えていく。反復と差異。リピートとバリエーション。この作品はしっかりそのマナーを守ってる。言わば、Manners maketh film. ですよ。

 

前回はエグジーがキングスマンという謎の組織にリクルートされ、観客と一緒に驚きながら成長していきましたが、今回はそれがステイツマンへにスライド。マッドなラスボスは黒人から女性へスライド。スマホを使った人類壊滅計画から、ドラッグを使ったものへとこれまたスライド。下手すると丸め込まれそうになってしまう敵の口のうまさは反復する。ハリーの復活劇と彼のアクションにも反復と差異を詰め込む。

 

まさにマナー通り、とても丁寧に作られてる。さらに、話の規模は大きくなってるし、キャラも増えてる。しかも、マシュー・ヴォーンはこの種の映画を熟知してるから、先週僕が言ったシーン同士の繋ぎにも必ず工夫があるんです。だから、話がすいすい進んで140分という尺も気にならない。さすがですよ。声を出して笑うところがかなりありました。

 

ただですね、続編マナーを徹底したがゆえの宿命的な問題点を見過ごせないことも事実でして、簡単に言うと、あれもこれもと手を出しすぎた結果、特に後半はまとまりに欠けてます。

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話を複雑にしすぎ。今回のテーマは恐らく、罪と罰なんです。罪を憎んで人を憎まずっていうことと、罪を裁くのに個人的な感情を挟むのはダメなんだと。スパイたちも、政治家も、みんな個人の事情と感情を持ち出してましたよね。報復とか復讐とか、手っ取り早く誰かを排斥するとか。フィリピンのドゥテルテとトランプをまとめて風刺するようなあのアメリカ大統領を出してましたね。そして、裏切りがあったり… 要するに悪者をあちこち増やしすぎて、倒してもカタルシスが弱いんです。テーマは面白いし、深くもできるけど、いくらなんでもこの1本でそれをすべて丁寧にやるのは風呂敷広げすぎ。いくらできる男ヴォーンでも、それは無理!

 

最初の編集では、今より1時間20分も長かったらしいんですよ。誰か彼を止めてあげて! ヴォーンにカットをかけて! 逆に1時間20分カットしてよく成立させたなった驚くわ! でも、それが故の雑に見える性急な部分ってのがあったのは残念でした。ありえないけど、ありえるかも、いや、やっぱありえない。そんな絶妙なバランスだった前作に比べ、今回は力が入りすぎたのは否めません。

 

って、色々後から考えて言ってるけど、観てる間の僕は、両手親指立てっぱなしの大興奮だったことを最後に付け加えておきます。

でも、ハリーが実は生きてましたっていう、あの説明的な部分、というか、あの熱さまシートみたいなガジェットは、僕はしらけちゃうんだよなぁ。あれがありなら、頭をぶっ飛ばさない限りは誰でも生き返るじゃないか! それに「これは映画じゃない」っていう、前作の悪役ヴァレンタインの決め台詞がひっくり返っちゃうじゃんかよ… ん? 待てよ。ひっくり返ったってことは、「これは映画だ」ってことになるから、今回のつじつま合わせを諦めたような部分も… って、考えるのはやめよう。

 

最後に、僕が今回爆笑したガジェット、ベスト3
第3位 キングスマン・タクシーの横移動機能
第2位 野球のバットが地雷探知機
第1位 コンドーム型粘膜専用GPS

 

それにしても、今回のMVPはエルトン・ジョンですね。ナイトですよ。サー・エルトン・ジョンですよ。どれだけFu○kを連呼するんですか! 現在70歳の彼の飛び蹴りは、他のどのアクションも曇るくらいに眩しかったです。

さ〜て、次回、1月19日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『悪と仮面のルール』です。原作を読んでいない僕。まっさらな状態で観に行ってきます。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!