試写を観たメディア関係者の前評判が、実は僕の耳にもいくつか入っておりました。たとえば「あの日本描写はさすがにどうだろうか」とか、「いくらなんでも脚本が…」とか。まあね、確かに予告を観ていても、なんかどっかで観たことある感じ、しかないよなぁ。でも、大阪舞台だし、市営地下鉄とか中央公会堂前での水上バイクとか、よく知ってる場所でどんな痛快アクションが観られるのか、それをメインで楽しむとするか。僕の期待はこんな感じでした。そんな僕の決して高くはない期待を、ジョン・ウーは高らかな、あまりに高らかな跳躍力で越えてきました。もうはっきり言ってしまいますが、僕はかなり「好き」な1本です。
そりゃね、なんじゃそりゃっていうところだらけです。たとえばですね…って、いっぱいあるんで、箇条書きにしますか。
刑事の矢村はともかく、ドゥ・チウは弁護士を廃業してもスタントマンとしてやっていけますってくらいに身体能力が高すぎます。
登場人物はみんなテレポーテーションできるんですよ。堂島川で盗んだ水上バイクでブンブン言わしてたと思ったら、その直後には大阪駅、そしてカットが変わったらもう新大阪から新幹線に乗ってます。財布もないのにどうやって移動したんだろう…
突然始まったあのだんじりみたいな祭りはいったいなんなんだ。
ノンストップすぎて、これは事件の勃発から何日目で、特に後半、ここはどこなのかすらよくわかりません。
女殺し屋コンビが英語で会話をしているのがなぜなのか、よくわかりません。そして、組織にどれくらいメンバーがいるのかもさっぱりわかりません。
桜庭ななみ演じる新米百田の到着がいつも遅すぎる。
クライマックスへと進む一連のシーンで、聞いてた設定を、というか、人間の能力を完全に凌駕する怪物が出てきて唖然とする。
あと、技術的なところで、特に日本の観客に違和感があるだろうってのは、あちこちで現地録音じゃないアフレコを採用してまして、ちょいちょいリップシンクロができてない。
チー・ウェイ演じるヒロインの真由美が、日本と中国のダブルという設定なんだけど、あれたぶん、彼女のネイティブじゃない日本語を話す時には、声優を使ってると思うんですね。同じ人に思えないし、セリフも何か必要以上に押しの強い感じで、なんかおかしいです。
まだあるけど、この辺にしときます。でもね、こうした普通の映画と比べたら、余りある粗も、語弊を恐れずに言えば、むしろ魅力なんではないか。そう思えてきたんです。さらに言えば、こうした粗はウー監督、百も承知じゃないのかと。
監督はインタビューでこう語っています。「ロマンチックで漫画的なところも要所に盛り込みました。リアリティを追求するよりも絆を感じてもらうことに重点を置いた」。
そう、リアリティじゃないんですよ。ジョン・ウーのサインとも言える鳩、二丁拳銃、乗り物アクション、スローモーション、ストップモーションなど、そうした要素ももちろん随所にありまくって、しかも一工夫加えてバージョンアップしてあるんですが、そこは今はとりあえず触れずにおくとして、とにかく驚くのはスピードです。ワンショット内のカメラワークも、ショットごとの編集も、場面転換も、すべてが早い! はっきり言って話はどっかで聞いたことのある感じですよ。だからでしょうね。説明とかいちいちしません。ここで目があったら、惚れるでしょ、そりゃ。こいつはここで、逃げないとダメでしょ、みたいな。観客の理解にギリギリ追いつかれないように、映画自体がドゥ・チウのように逃走するんです。映画というメディアにできるありとあらゆるテクニックの合わせ技で。
今回色んなレビューを読む中で、うまいこと言うなぁと思ったのは、福山幸司さんという方の「いかなる映画にも似ていて、いかなる映画にも似ていない」という表現。そうなんです。ひとつひとつの要素に目新しさはないのに、組み合わせると、見たこともないものになる。
まずは見てください。この脅威の映像を。潤沢な予算で撮影された、見たことのない大阪を。見たことのない福山雅治を。僕はアドレナリンが吹き出しましたし、これが大阪で撮影されたこと、誇りには思わないけど、嬉しくてたまらないです。ありがとう、ジョン・ウー!
さ〜て、次回、2月23日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『グレイテスト・ショーマン』。いよいよやってまいりました! なんだけど、アカデミーには絡んでないし、評判も悪くはないとはいえ… どうなんでしょうね。ま、フラットに観てまいります。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!