京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『グレイテスト・ショーマン』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年2月23日放送分
『グレイテスト・ショーマン』短評のDJ's カット版です。

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19世紀半ばのアメリカ。貧しい家に生まれ育ったものの、身分の違いを乗り越え、名家の令嬢であるチャリティーと結婚したバーナム。ふたりの娘にも恵まれ、一家は精神的には満たされた日々を送っていたが、仕事が安定せずに経済的には困窮。妻子を幸せにしたいと願うバーナムは、試行錯誤の末、外見が変わっていたり、特殊な能力を持つ人達を集めてサーカス興行をスタート。新聞での批評では「偽物だ」とこき下ろされながらも、大衆の指示を集めて大当たり。ショービジネス界や上流階級に太いパイプを持つフィリップを新たなパートナーに迎えたバーナムはエリザベス女王にも謁見。ヨーロッパで成功していたオペラ歌手を引き連れてのアメリカツアーを実現して順風満帆だったのだが…
 
実在した興行師P.T.バーナムに扮するのは、ヒュー・ジャックマン。ビジネスパートナーのフィリップをザック・エフロン、妻のチャリティーをミシェル・ウィリアムズ、さらにはオペラ歌手をレベッカ・ファーガソンが演じています。監督は、これが長編デビューとなるMVやCM出身のマイケル・グレイシー。脚本は、『シカゴ』の脚本や「トワイライト」シリーズ、そして昨年のヒット作『美女と野獣』で監督を務めていたビル・コンドンゴールデングローブ賞で主題歌賞を獲得し、アカデミーでも主題歌賞にノミネートされた『This is me』を含む音楽は、『ラ・ラ・ランド』のベンジ・パセックとジャスティン・ポールのコンビが手がけました。
 
本国アメリカでは出だしこそ観客動員数でつまづいたものの、じわじわと口コミでヒットが拡大。ただし、批評的には振るわず、賛否が分かれています。そういう時ほどやりにくいものですが、しょうがない。サントラのCDを何周かリピートしながら練り上げた制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

僕は映画を観るまではまったく知らなかったバーナム。作品では描かれていませんが、新聞を創刊したり政治家として活動したりもしていて、アメリカではもともと有名な人物らしいですが、詐欺まがいの行為やパフォーマーの強制労働に近いこともあったようだし、避妊禁止や禁酒運動を展開したり、少なくとも現代の価値観で捉えると、すんなり偉人とは言いづらい、褒められたもんじゃない側面も大いにあった模様です。今回の映画化にあたり、当たり前ですが、バーナムの人生は、製作チームが訴えたいメッセージにかなう部分のみにスポットが当てられていて、かなり単純化されています。

 

最大のテーマは、地位や出自、肌の色、ハンディキャップなどなどに関係なく、社会的なマイノリティにも輝ける場所と方法があるはずだということです。真っ当ですねぇ。そこに、家族愛、イマジネーションが育むアイデア、友情といったサブテーマを加え、波乱に満ちたアメリカン・ドリームの物語として展開させてます。『SING』を思い出しますね。キャラクターの個性を動物に置き換えてアニメにしていたものの、あちらも興行主が主人公で、なおかつそいつに多少のいけ好かない部分があるってのも似通っています。そう、この映画では、バーナムは特に後半、詳しくは言いませんが、なんなら悪役と言っていいくらい、ダイナミックに変節するんですよ。僕はそこはとても面白かったですけどね。欲を言えば、そんなダークサイドをもっと観たかったくらいです。

 

とはいえ、人間の光と闇、ショーの表と裏、やさしさと残酷さ、友愛と差別、こうした対立とせめぎ合いを105分にねじ込んで成立させたグレイシー監督の手腕は賞賛に値すると思います。明暗をくっきりつけた映像と、MVで培われただろうテンポ感ある映像運び、大胆なカメラアングル。バーナムが少年から大人になり、最初の博物館をオープンさせるまでのプロローグにあたる一連のシーンの鮮やかなこと。踊っているうちにチャリティーがいつの間にか妊婦になっていたりといった、時間経過を見せる映像的な演出は、ウットリしてしまうレベルでした。『ラ・ラ・ランド』の作曲家コンビ、パセック&ポールによるポップで現代的な音楽は、高揚感の高め方、ブレイクの入れ方、物語を補強するだけでなく前進させる言葉の乗せ方など、どれをとっても超一級品です。

 

ダンスだって、そうです。バーカウンターでのグラスを使った映画的な踊りの見せ方を筆頭に、人数の大小に関わらず、踊りにも随所に工夫が凝らされていています。これはサーカスが舞台ですから、キャストもかなり大変だけど、みんなよく期待に応えてます。特に、空中ブランコ乗りの黒人女性アニーを演じたゼンデイヤが忘れられない人は多いと思います。そして、音楽が鳴って歌い踊りしている間も、しっかり話が進む。これぞ良くできたミュージカルの醍醐味。音楽な挿入される場面には、もう全部持っていかれます。それまでに何か気になるところがあっても、一旦それを忘れさせてくれる、まさにマジカルな効果を生んでいます。

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はい、今僕、気になるところって言いましたね。もちろん、あります。いや、結構あるんですよ、これが。煎じ詰めれば、脚本です。サーカスが成功するまではいいんだけど、後半になって持ち上がってくる問題とその解決がどれも唐突過ぎて、掘り下げればより深みが出るはずのモチーフをみすみす放棄してるのが惜しい! だから、どれも感動を生むためのトラブルに見えてしまうし、中にはそのトラブルがうやむやなまま放置されているものすらある。キツい言い方をすると、歌の勢いでごまかされてるんですよ。手厳しい評価をする人がいるのは仕方のないことでしょう。

 

後半は今言ったような理由で冷めてしまったのが正直なところですが、それでもこの作品の劇場での鑑賞をオススメしない理由にはまったくなりません。製作陣もキャストも、これを機に躍進する人が何人も出てくるだろう今年度を代表する1本なのは間違いありません。ちなみに、監督のマイケル・グレイシーは、あのNARUTOの映画化でもメガホンを取るそうですよ。どうなりますやら。

さ〜て、次回、3月2日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『空海 -KUKAI- 美しき王妃の謎』。先週の『マンハント』に続き、日中合作。今後こういうことはどんどん増えていくでしょうね。今度は大阪ではなく大陸が舞台。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!