京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年3月2日放送分
『空海 KU-KAI 美しき王妃の謎』短評のDJ's カット版です。

f:id:djmasao:20180302143009p:plain

7世紀。中国大陸で栄華を誇った大国、唐。後に真言宗の開祖となる空海は、遣唐使として倭の国から渡ってきた。長安の都で詩人白楽天と知り合った彼は、権力者が次々と命を落とす怪事件の調査を始める。そこで浮かび上がってきたのは、50年前の遣唐使阿倍仲麻呂の存在と、その仲麻呂が仕えた玄宗皇帝時代の絶世の美女である楊貴妃空海と白楽天は、楊貴妃の死の真相が何らかの形で今に尾を引いていると気づいていく。

沙門空海唐の国にて鬼と宴す 巻ノ一 (角川文庫) さらば、わが愛 覇王別姫(字幕版)

原作は夢枕獏の『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。監督は『さらば、わが愛 覇王別姫』や『始皇帝暗殺』で世界的に評価の高いチェン・カイコー。日中合作ということで、キャストも空海染谷将太、白楽天を中国のホアン・シュアン、楊貴妃を台湾出身のチャン・ロンロンが演じる他、阿部寛松坂慶子も要所で参加しています。
 
中国では年末に封切られて大ヒット。150億円と言われる巨額の製作費も既に回収済みという知らせが届いています。撮影は中国語で行われているんですが、日本では吹き替え版だけが公開されているので、すべて日本語になっています。
 
それでは、3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

映画館で観ていた予告編とあらすじ以外、例によって情報を事前に仕入れることなしに鑑賞したんですが、思っていたものとかなり違いまして、結構戸惑いました。僕が想像していたのは、いわゆるコスプレ時代物で、空海と白楽天がホームズとワトソンよろしく活躍するような歴史ミステリーだったんです。だって、東京ドーム八つ分の敷地に6年がかりでセットを立て込んだとか、2万本の木を植えたとか、エキストラの数が半端ないとか、そういうことも謳われていたので、わかりやすくたとえれば『ラストエンペラー』のようなテイストだと思ってたんです。でも、夢枕獏が原作なわけですよ。陰陽師の人です。本人も作風について「エロスとバイオレンスとオカルト」と言っているくらいですから、ストレートな歴史映画になるわけがないんですね。どっちかと言えば『47RONIN』です。実際、のっけからCGを駆使した超常現象がわんさか出てきます。

f:id:djmasao:20180302145632j:plain

ちなみに、中国でのタイトルは『空海』ではなく、『妖猫傅』。妖怪みたいな猫が出てきて、普通に言葉を喋ります。なんなら、主役は猫なんです。そりゃ、驚きましたよ、僕は。さらに驚いたのは、空海が超常現象を目の当たりにしても特に驚かないことですね。彼は終始アルカイック・スマイルを浮かべながら、何が起きても努めて冷静。むしろ、自分でも妖術まがいの技で呪いを解いたりします。既に悟ってるやん! とツッコミたくなる佇まい。まあ、弘法大師空海は、事実、全国津々浦々に伝説・伝承を残してますからね。たとえば、空海が座って休んだら、その重みでへこんだ跡が残る岩が岡山にあったり、淡路島で村人が空海に水を与えなかったら、水が涸れてしまったり。怒らせると怖いんでしょうかね。それはともかく、この映画は僧侶としての空海よりも、オカルトめいた術を自ら操る超人としての側面が強いんです。なので、歴史ファンタジー映画だと思ってください。そうすれば、鑑賞した時に僕みたいにのけぞらずに済むかと思います。
 
原作は読んでいないんですが、お話そのものはなかなか面白いと思うんです。誰もが知る絶世の美女、楊貴妃の死の真相。詩人李白と、彼をあこがれ越えようとする白楽天の筆による名作長恨歌の秘話。史実をヒントに想像力を羽ばたかせたひとつのファンタジックな歴史解釈として、きっちりエンターテインメントになっています。人の生涯を綴る伝記じゃなくて、幻想的な伝奇ですね。ただ、映画としての出来栄えは僕は高くは評価していません。
 
スタイルやジャンルが苦手だということもあるんですが、それは僕の好みなので脇へ置くとして、客観的に観ても気になるのは、チェン・カイコーのガチャガチャしたカメラワークです。やたらめったら動きすぎるんです。ケレン味は確かにあります。これでもかというほど、てんこ盛りです。だけど、そういうキメの画作りっていうのは、ここっていう場所に取っておいてこそ、メリハリが生まれるわけで、この映画では別に何でもないショットでもキメてくるんですよ。それが仇になって、物語への観客の集中力を削ぐレベルだと思います。ただでさえ、登場人物は多いし、時間軸もややこしい話なので、困りもの。
 
映像面でもうひとつ言いたいことがあります。あれだけあっぱれなセットをこしらえたんだから、CGは最小限にしようよ。レベルは高いんだけど、そもそもが凝りすぎてるカメラワークや、ただでさえ派手な色味と相まって、なんかCGを使えば使うほど漫画っぽく嘘っぽく見えちゃうのも、困りもの。
 
そして、小説ならいいんだけど、映画としてはどうかと思ったのが、それこそ基本CGの猫くんです。彼も喋りすぎ。特に後半は、彼の言葉を絵が補足するという紙芝居状態なところが何度かあって目に余りました。
 
ただ、ここは『マンハント』のジョン・ウーと印象が似てくるんですけど、もはや何のこだわりかよくわからないくらいに詰め込みすぎたテクニックと美意識に翻弄されるという快感は認めざるをえません。あなたは美の洪水に身を任せるか受け流すか。それを体験するには、劇場でないといけません。

さ〜て、次回、3月9日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『シェイプ・オブ・ウォーター』。ついに来た、アカデミー作品賞の本丸。来週はもうその結果も出ているわけですよ。いずれにせよ、ヴェネツィア昨年の金獅子は獲ってるわけですから、一見の価値は大アリ。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!