京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

映画『去年の冬、きみと別れ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2018年3月16日放送分
『去年の冬、きみと別れ』短評のDJ's カット版です。

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婚約者との結婚を間近に控えた新進気鋭のルポライター耶雲恭介。彼は盲目の女性が死亡した不可解な焼死事件と、容疑者の写真家・木原坂雄大について調べ始め、その記事の出版企画を有名出版社に持ち込みます。しかし真相を追ううちに、耶雲は木原坂や担当編集者を巻き込みながら、抜け出せない深みに飲み込まれていく。

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 原作は映画化が相次ぐ中村文則。監督は『グラスホッパー』の瀧本智行。脚本は、ドラマ「金田一少年の事件簿シリーズ」や『無限の住人』の大石哲也が担当。ルポライター耶雲を三代目J Soul Brothersの岩田剛典、写真家の木原坂を斎藤工が演じる他、耶雲の婚約者百合子には山本美月、編集者には北村一輝が扮しています。そして、RHYMESTERMummy-Dさんも出演しておりますよ〜。Dさ〜ん!!

 
それでは、3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!
 
誰が言ったか知らないが、中村文則の「叙述トリックを駆使した原作は映画化不可能」ということだったようです。言い換えれば、小説ならではの方法で読者をミスリード、騙していたわけだから、そのまんまなぞるように映像に置き換えられないということですね。僕が想像するに、瀧本監督の方針はこうです。「だったら、映画ならではの方法で観客を騙せばいいじゃないか。そして、原作ファンも驚かせてしまおう」。この野心込みの方針を、そこそこ高いレベルで達成できていると僕は思いました。
 
盲目の女性が点字で手紙を書き、炎に包まれる。極寒の海辺。断片的な映像が続くプロローグがあって、本編へと入っていくわけですが、そこで誰もが「あれ?」となるのは、いきなり「第二章」と画面に提示されることです。そして、「第三章」がやって来る。おいおい、じゃあ「第一章」はいつ出てくるっていうんだい。そんな疑問と戸惑いを僕らに一瞬感じさせつつも、それぞれのパートから目が離せないまま進んでいるので、基本的にはこの構成についての謎についてはずっと忘れてます。忘れさせられてます。
 
補足すると、この第○章というチャプター分けは、映画そのもののチャプターだと、僕らは思っているわけですよ。そこでもう…っていうね。映画そのものの構成は、単純化してざっくり分けると、前半と後半です。ガラッと様相が変わってしまう。僕はすっかり騙されました。思ってたのと違う時間の流れ方してるやないか〜!
 
なおかつ、原作では1人称の「僕」が語り手なんですが、映画が1人称のナレーションで進むわけでは必ずしもないため、そしてある決定的な改変があるため、原作読者も、一から十までということはないにせよ、それなりに騙されるはずです。お見事な脚色だと言っていいでしょう。
 
資産家の親子が登場し、家族内での愛憎劇があり、それが人格形成に大きく影響するという筋立てと、廃墟化した郊外の団地、高級マンションといった舞台は、同じ中村文則原作の『愛と仮面のルール』でも観たばかりなだけに、どうしても比較してしまう両者。瀧本監督にはっきり軍配が上がります。
 
振り返って僕が良いなと思ったのは、視線の演出です。誰が誰のことをどんな眼で見ているのか。それはカメラも含めてです。あの場面が実はこうだったのかと、物語的視点の変化がもたらす印象の変化が肝の作品なので、視線にこだわるのは必然だし、とても映画的です。岩田剛典は初めて映画でメガネをかけているんだそうですが、斎藤工も時にサングラスをかけてみたり。これから鑑賞する人は、そこに注目すると面白いと思いますよ。
 
といっても、すべて感心しっぱなしというわけではなく、狂気の見せ方はわりと紋切り型だなとか、結婚を控えている耶雲と百合子の描写に今思えば不自然なところがあるなとか、気になった点もいくつかありました。大きいのはこれです。トリックとしては見事な部類に入るけれど、そこに執着するあまり、登場人物たちの心の闇をえぐり切れていないのと、小説からの改変により、よりやりきれないラストになっている気が僕はしてます。「これって、お前がそもそも理性を保っていれば…」みたいなことを考えると、まあやりきれないんです。
 
いずれにせよ、役者陣もみんな好演してますし、アイドル映画的な魅力も十分。僕も山本美月に夢中でした。そして、サスペンスとしてのクオリティーは、一般的な邦画の水準を越えていることは保証できます。瀧本監督のみなぎる心意気を感じる、小説映画化のひとつのお手本とも言える作品だと言えるでしょう。

さ〜て、次回、3月23日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『リメンバー・ミー』。僕、実はアメリカ行きの飛行機の中で先に観てしまったんですが、やっぱり大スクリーンがいい! もう一度行ってきます。あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!