京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

映画『孤狼の血』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年5月17日放送分
『孤狼の血』短評のDJ's カット版です。

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平成の一歩手前、昭和63年。暴力団対策法が成立する直前の広島県、呉原。地場の暴力団「尾谷組」と、大都市広島の巨大組織を後ろ盾に呉原で勢力拡大を目論む「加古村組」との間で、抗争の火種が燻っていた。そんな中、加古村組関連企業の金融会社社員が失踪。これは殺人事件だと踏んだ呉原署マル暴のベテラン刑事大上と、県警から配属されたばかりの新人日岡は、事件解決に向けて動き出す。かくして、それぞれの組織の思惑と疑惑が交錯して渦を巻く大騒動の火蓋が切り落とされる。

孤狼の血 (角川文庫)

原作は「警察小説X『仁義なき戦い』」だと評判を呼び、直木賞候補作、そして「このミステリーがすごい! 2016年版 国内編」で3位にランクインした柚月裕子の同名小説。監督は白石和彌、43才。公開予定も含めると、2年で5本という脅威のペースで、そしてクオリティーの高さを維持してメガホンを取り続ける最も活きのいい若手監督です。さらに、ここを声を大にしないといけないけど、僕らのアミーチでもあるということですね。
 
呉原のベテラン刑事大上を役所広司が、そして新米刑事日岡を松坂(まつざか)桃李がそれぞれ演じる他、江口洋介真木よう子中村獅童ピエール瀧竹野内豊石橋蓮司滝藤賢一音尾琢真田口トモロヲといった豪華キャスト陣が演技合戦を繰り広げます。
 
製作プロダクションと配給は、50年代から60年代にかけては警視庁物語シリーズで、さらに70年代にはご存知『仁義なき戦い』シリーズの実録やくざ路線で知られる、東映です。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

ごく簡単に東映の歴史を踏まえておくと、日本映画黄金期の1950年代に、時代劇ブームを牽引したんですが、それが下火になってくると、他の会社のように現代劇でヒットを生み出せずにいたところ、60年代に入って、高倉健を一躍スターに押し上げたやくざ映画を量産して息を吹き返します。でも、そのやくざ映画っていうのは、明治から昭和初期にかけての古いやくざ像だったわけです。とても様式的で独自の美学に裏打ちされた、そのやくざ映画も70年代にはまた下火に。そこで、もっと現代的で刺激が強く、勧善懲悪に囚われない、日本版『ゴッドファーザー』を作ろうという意図でできあがったのが、深作欣二の『仁義なき戦い』でした。これがまた一世を風靡して実録やくざ映画というシリーズが生まれる。

日本侠客伝 仁義なき戦い

 ただし、この『孤狼の血』の時代でもある昭和の終わりには、暴力団対策法も登場。反社会的なものを美化しかねないやくざ映画は、スクリーンから遠ざかり、こうした題材はVシネマ、つまりセルビデオを中心としたものに小規模化していきます。『孤狼の血』は、東映のプロデューサーが企画。かつてのアウトローな登場人物たちを蘇らせたいと白石監督に白羽の矢を立てて奮闘したものです。ただ、単なるノスタルジーではなく、この平成最後の年に、人間のギラギラした欲望と、白黒つけられない灰色の正義を、実は新しい枠組みの中で撮ったのが素晴らしいと僕は思っています。

 
ナレーションの入れ方、テロップの出し方など、確かに実録やくざ映画路線のスタイルには見えるんですが、考えてみると、これはあくまでもベテラン、新米、ふたりのバディーものであって、警察の側から描いているし、あくまでフィクションであって、手記に基づく実録ではない。広島舞台の実録路線が、実は京都市内と撮影所で撮られていたのに対し、こちらは呉でのオールロケ。白石監督は、ロケで本領を発揮する。土地の磁場を捕まる映画人です。見事なロケハンと美術・小道具のきめ細かい選択が功を奏して、昭和の瀬戸内をくすんだ色使いで蘇らせた。白石監督は色んな映画を撮っているけれど、確固たる作家性があると思っていて、それは「主流派でないオルタナティブな価値観を持っているがために、主流派の中でもがく人間の生き様を描く」ということ。彼ら/彼女らは、ある種ピュアな価値を振りかざす矜持と、時に引き返せないほどの狂気の両方をいつも持っています。

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今回の大上と日岡は、それぞれに白石映画的人物。「警察じゃけ、何をしてもええんじゃ」と暴力団と癒着する大上には狂気が、そして日岡には僕たち観客が感情移入しやすい「正義」という価値基準が託されているように最初は見えるんです。ところが、むしろ逆に見える瞬間も徐々に出てくるんです。大上にこそ矜持があるのかもしれないと思えると、今度は日岡の狂気も顕になってくる。
 
この映画のすごいのは、そうした人間のわからなさ、それゆえの魅力、奥行きを、あくまでミステリーとして見せてくれることなんです。ヤクザたちはあえて単純化して描くことで、いくら抗争がややこしくなっても一見複雑な人間関係をわかりやすく交通整理。大上の黒い疑惑を白い日岡が暴くという謎解きを軸にすえました。そうして白と黒とが混ざり合い、主役2人についてはとことん灰色に塗り込めていく。こいつら何者なんだ。そういうサスペンスがずっとあって、バイオレンス、エロス、ユーモア、呉ならではの景色、最高のキャストといった映画ならではの魅力をこれでもかとぶち込み、さらにそのどれもに新しいアイデアを反映させてある。そりゃ、白石監督の堂々たる代表作にして、今年度日本映画の大本命たる1本じゃないわけがない。
 
単純明快な「正しい」メッセージとか、安っぽいメッキの正義とか、「泣ける」だ「感動する」とかいった表面的なものだけで映画が作られているようでは、日本映画そのものがダメになる。牙をむいた得体の知れない大人たちが血と汗と欲望にまみれて蠢くところに、あなたも飛び込んでもまれてみてください。価値を揺さぶられてください。
 
社会の土俵際で生きる人間を通して社会の核心を射抜く東映実写映画の精神性がここに蘇りました。

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↑ 今回の音尾琢真さんは、そらもう影の主役じゃけえ、とくとご覧くだせ〜

 

白石監督ですが、次作の公開も秋に決定!

今や伝説のインディペンデントな監督若松孝二のもとで助監督を務めた白石さんが、若松プロダクションの映画人たちを描いた青春映画『止められるか、俺達を』。なんですか、このハイペースは。もはや「止められるか、白石を」状態だよ。

凶犬の眼

そして、柚月裕子の原作は続編の『凶犬の眼』も出版されました! こ、これは、もしかして、『孤狼の血』もシリーズ化するのか? それもこれも、今作がヒットするかにかかっているわけで、ぜひともみんな映画館へ出かけてくださいまし〜

さ〜て、次回、5月24日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ピーターラビット』です。昨日の番組では、日本語吹き替え版でピーターの声を担当した千葉雄大さんを迎えましたが(下のから、5月23日までならすぐに振り返って聞けますよ)、既にある程度お話していますが僕も改めて凝視してきます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けてのTweetをよろしく!

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