京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

映画『空飛ぶタイヤ』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年6月28日放送分
『空飛ぶタイヤ』短評のDJ's カット版です。

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走行中にタイヤが外れる事故を起こしたトレーラー。宙を舞ったタイヤは歩道を歩いていた主婦を直撃して死なせてしまいます。警察はトレーラーの所有者である赤松運送の整備不良が原因だと推測して家宅捜索。整備ではなく車両の構造に欠陥があったのではないかと考える二代目若社長の赤松は、トレーラーの製造販売元に事故原因の再調査を依頼するものの、ホープ自動車販売部の沢田はその要求をつっぱねます。その間、沢田は社内に自分も知らない極秘事項があることに気づきます。他方、同じグループ企業のホープ銀行営業部井崎も、週刊誌の記者からホープ自動車について探りを入れられ、ずさんな経営計画とある噂を耳にします。それぞれが辿りつくのは、リコール隠しという大企業の不正でした。

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 2002年に実際に起きたタイヤ脱輪による死亡事故と、その後に発覚した三菱自動車の不祥事を下敷きにしたこの物語。原作は、『下町ロケット』や『半沢直樹』『陸王』など、これまで何度も作品が映像化されてきた池井戸潤が2006年に発表した同名小説。2009年にはWOWOWがドラマ化もしていましたが、池井戸作品としては実は初の映画化として、『超高速!参勤交代』の本木克英がメガホンを取りました。赤松運送の社長に扮するのは長瀬智也ホープ自動車販売部課長の沢田を我らがディーン・フジオカ、そして赤松運送・ホープ自動車双方と取引のあるホープ銀行営業部の井崎を高橋一生が演じています。他にも、笹野高史深田恭子ムロツヨシ岸部一徳小池栄子など、豪華キャストが揃いました。

超高速!参勤交代

公開2週目に入ったこの作品は、『万引き家族』に次いでの観客動員数2位をキープ。既に65万人を突破するヒットとなっています。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

僕も軽く驚いたのは、池井戸潤作品の映画化はこれが初めてだということ。今回ドラマ版の『空飛ぶタイヤ』を観て、その理由のひとつがわかりました。組織の力学の中で生きる個人が描かれているがために、登場人物がとても多い。積み重ねられたサイドストーリーが全体を少しずつ動かしていく群像劇です。
 
原作は文庫で900ページ。ドラマ版はトータル5時間ほど。これを2時間ほどの映画にまとめるのは至難の業で、脚本段階で相当の工夫が必要です。その点、『藁の楯』や『白ゆき姫殺人事件』で知られる脚本家、林民夫の大胆な仕事が光っていました。ドラマ版の良かった脚色も採用しながら、話の枝葉を相当刈り込んでます。自動車が万単位の部品で作られるように、この事件に関わる人物たちも大勢いるわけですが、映画版では、事件の直接的な原因となったハブのような存在として運送会社の赤松と自動車販売部の沢田を両輪に据えて、全体をトラックから軽自動車並みにシンプルな構造にしています。
 
中小企業vs大企業。直情型で泥臭い2代目社長と、旧財閥系で出世こそ生きがいのクールなエリート。とてもわかりやすい対立を最後まで真っ直ぐにぶっとく引っ張ることで、赤松の息子のいじめ、週刊誌記者の暗躍、警察の捜査などなど、刈り込まれた枝葉もイキイキと鮮やかになっています。だから、確かに2時間の映画にしてはこれでも登場人物は多めなものの、複雑でついていけないというほどではないというバランス。ただ、情報そのものはそれでも多いので、お話のテンポはかなり速い。当然、ひとつひとつのショット、シーンの持続時間も短めで、パッパと次へ次へ進みます。その分、これは尺の長いドラマ版ですらそう思ったけど、いわゆる説明ゼリフは多いです。みんなよく喋る。その意味でも、脚本の映画なんですね、これは。
 
本木監督としては、「人間を描きたい」んだという思惑があったようですが、今言った事情から、心理描写に時間は割けない。そこで、カット割りを工夫して、人物たちをかなり寄りで撮ってます。言外の想いは顔で語ってもらおうということでしょう。長瀬智也ディーン・フジオカを大写しで堪能できるという利点もあります。会話の場面では顔の配置にもバリエーションを作って飽きさせない工夫をしていました。
そういう意味で、幅広い観客を想定するエンタメとして、そつない作品にはなってるんですが、魅力ある役者たちの演技を引き出しきれていないことは指摘しておきます。演技が悪いんじゃなくて、パターンが少ない。一度出てきたら、あとはだいたい同じようなアクションになってしまっているので、ちょっとした仕草でもいいから変化をつけて深みを出してほしかったところ。だから、笹野高史ムロツヨシといった、ほっといても上手い役者の目立つこと!
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もう1点。昔ある放送業界の大物から、仕事は夜に動くんだと僕は言われたことがありますけど、食事のシーンが特にホープ自動車の面々は多かったですね。ここもバリエーションが欲しいんだよな〜。食べてるもの、食べ方、飲み方、あるいは食べてなさ、などなど、設定を活かしきれていない印象でした。
 
あと、CGも必要だったのかなっていう感じだったなぁ。走る凶器と化したトレーラーの怖さは、カメラのテクニックだけで見事に出せていたから、飛ぶタイヤはCGにしなくても… あるいは、空飛ぶタイヤそのものは見せなくても…
 
とか何とか、僕がこんなビッグバジェット映画に再撮影を依頼するようなことを言ってもしょうがないんですが、全体としては僕、楽しみましたよ。
 
池井戸作品ならではの痛快な逆転劇なんだろうと高をくくっていた僕ですが、人情の中小企業と非情の大企業という色分け、コントラストにとどまらず、キャラクターそれぞれを良いところもあれば悪いところもある多義的な、要は人間らしく結果的に感じさせる話です。「立場が人を作る」って物言いがあるけれど、その悪い面ですね、つまり僕らは家族や学校・会社などの組織とその論理・力学の中で、誰もが社会の部品として機能させられている虚しさや苦さを味わわせてくる。スカッとしたようでいて、そうでもなく、という苦い余韻は、事故現場に立つ赤松と沢田の表情にも表れていました。冴え渡る晴天のもと、冴えない顔を浮かべるふたりを、ドローンかクレーンで上から見下ろす演出も良かったし。ただ、そこから主題歌へ流れこむとこのカット割りがガタガタしちゃってたのが惜しいよなぁ。

四の五の言いましたが、面白い話なのは間違いないです。桑田さんの歌詞を引けば、「しんどいね 生きていくのは」(ちなみに、「生存競争」と書いて「生きていくのは」と読ませる、桑田さんならではの言葉遊び付き)ってな重いテーマをここまでわかりやすくエンタメ化できている大衆娯楽作として、僕はこの映画の肩を持ちたいと思っています。

 さ〜て、次回、7月5日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』です。これまた、スピンオフとはいえ、なかなかヘビーなのが来ましたぜ。マチャオ、がんばる。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての忌憚なき感想Tweetをよろしく!