京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年7月5日放送分

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スター・ウォーズ」シリーズ屈指の人気を誇る愛すべき悪党ハン・ソロ。エピソード4「新たなる希望」で初登場した彼が、いかにして銀河一のパイロットを目指すことになったのかを描く、エピソード4の10年前を描く外伝です。銀河帝国が支配する暗黒の時代。辺境の惑星コレリアで自由を夢見るハンと幼馴染の恋人キーラ。ふたりは星からの脱出を試みるものの、キーラは捉えられました。ハンは彼女との再会を胸に誓いながら、帝国航空学校で飛行機の操縦を学びます。やがて彼は腕を上げ、コレリアへ彼女を連れ戻しに行こうと目論んでいた矢先、思いもよらない形でキーラにめぐり逢います。
 
監督は『ダ・ヴィンチ・コード』『バック・ドラフト』などのロン・ハワード。「スター・ウォーズ」のオリジネーターであるジョージ・ルーカスと長年の親交があるベテランですね。ハリソン・フォードの当たり役ハン・ソロの若き日々を演じたのは、オールデン・エアエンライク。キーラには、エミリア・クラークが扮しました。どちらも名前と顔がまだそこまでは売れていない期待の新人です。他に、ハン・ソロの師匠のような役割として登場するベケットを、『スリー・ビルボード』で地元警察の署長だったウディ・ハレルソンが担当しています。

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先に公開された本国アメリカで動員が奮わないという知らせも届いてはいますが、『スター・ウォーズ』マニアでない僕は、あくまでフラットに鑑賞してきました。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

報じられている通り、当初は『LEGO ムービー』のフィル・ロード&クリス・ミラーという40代前半で実験精神に富んだ若手コンビがメガホンを取る予定だったんですが、結果としてふたりは製作総指揮に回り、60代の名匠ロン・ハワードへと監督が交代となりました。僕はここに、ルーカスフィルムの社長にして今回のプロデューサーであるキャスリーン・ケネディの意図が透けて見えると考えています。つまり、お話こそ若きハンの冒険活劇ではあるものの、作品として冒険したいわけではなく、むしろ手堅くまとめたいということですね。

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー (字幕版)

同じディズニーが配給しているアベンジャーズと比較してしまうんですが、あちらはキャラクターごとにそもそも作品があって、それらがひとつのユニバースに属しているのに対し、スター・ウォーズは基本的にはスカイウォーカー家のひとつの遠大な物語です。そこに、『ローグ・ワン』とか、『ハン・ソロ』とか、サイドストーリーを今接ぎ木していっている状態。特殊能力フォースを持たないキャラクター達にもスポットを当てて、ディズニーはスター・ウォーズもユニバース化しようとしているのだと見て取れます。ただ、ディズニーがルーカスフィルムを買収して以来、毎年のように新作が公開されて、みんな疲れてきているわけです。さらに、作品が増えすぎて、新参者にはどんどん敷居が高く感じられている。そこで、マーベル・シネマティック・ユニバース作品のように、単体で楽しめるものにしたい。でも、スター・ウォーズ・ファンも満足できるお約束、サービスもしっかり入れないと、彼らにそっぽを向かれてしまう。総合すると、作品としては冒険できなくなるわけです。

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ストーリーはいたってシンプル。愛するキーラとの自由な暮らしを追い求めながらも、それがなかなか敵わないという太い軸があります。キーラを取り戻すため、銀河系でタフに生き抜くため、帝国の支配の下で暗躍するシンジケートに身を投じ、そこで出会ったベケットというメンターから処世術を学ぶ。その過程でさんざん泥水を飲んでは成長していく。ルーカスは、ハン・ソロのキャラクターをこんな言葉で描写しています。「グループの一員であること、公益のために尽くすことの重要性を理解している一匹狼」。これはきっちり描けていました。一匹狼とはいえ、本当はキーラとの愛に生きたいと願っていること。色々あって、横にいるのは、美女じゃなく、毛むくじゃらのチューバッカであること。悪党なのに憎めないという彼の特徴は、生き馬の目を抜く銀河系で、他者を信じるという信念を獲得したからだということ。よくわかりました。悪党というわりには、いい子ちゃんで物足りないという不満の声もあって、それも理解できるけど、ずる賢さよりも青臭さを優先することで、ハンの青春を表現するという選択は妥当でしょう。
 
ダイヤのネックレス、ソロという名の由来、決め台詞I have a bad feeling about this.の変化球的な出し方、ミレニアム・ファルコン号との出会い、黒幕があいつなのかというサプライズなどなど、ファンサービスに抜かりはないです。
 
ライトセーバーが登場せず、レーザー銃のブラスターをメインの武器に、西部劇を強く意識した戦闘シーン。追いつ追われつの空中戦などなど、これでもかと山場もたっぷり。
 
ハン・ソロの話なのに映画そのものが優等生的ではあるけど、ここからスター・ウォーズに入っていくことも十分可能な、このスピンオフの果たすべき役割は果たしています。一点を除いて。

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小さな不満は置いといて、僕が最も問題視しているのは、キーラです。
 
彼女との恋愛要素が、何より若きハンのエネルギー源なので、とても大事な存在なんですが、ひょんなことから再会しての後半、彼女が何を考えているのかよくわからないんですね。ハンと離れていた数年間に色々あったことは想像できるんだけど、そこはセリフであっさり示されるだけなのに加え、最後にまたサプライズがあってますますキーラの空白期間の謎が深まるため、ラストのモヤっと感がものすごい。
 
要は続編の可能性を残しておいたんでしょう。でも、それははっきり言って潔くないし、せっかくのスター・ウォーズ入門編的な位置づけが、ここで完結しなかったら台無しじゃないですか。きっちりこれ一本で落とし前をつけていれば、同じくエピソード4前夜を描いた『ローグ・ワン』のように、観終わったらすぐにエピソード4を見直したくなったろうに、この構成だとそうはならない。
 
結論として、普通に面白く、しっかりスター・ウォーズなのに、少なくとも現状はこれだけ宙に浮いた作品になっているのが、全体としてはどうかなというところです。

もちろん、この曲はサントラでも何でもないんですが、「ハン・ソロのソロって… こういうタイミングでこういう理由でこの人が名付けたんや!」と思って、お送りしました。

さ〜て、次回、7月12日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『虹色デイズ』です。キラキラ青春映画は久しぶりかな。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての忌憚なき感想Tweetをよろしく!