京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『虹色デイズ』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年7月12日放送分
映画『虹色デイズ』短評のDJ's カット版です。

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地方都市の高校を舞台に、性格も趣味もバラバラな男子高校生4人の恋愛と友情を描く青春もの。元気だけれど、ピュアすぎてまったくすれていないなっちゃん。チャラくて女好きなまっつん。物静かなコスプレ好きオタクの秀才つよぽん。笑顔とは裏腹にサディスティックな側面のある恵ちゃん。いつもこの4人でつるんでいたところへ、恋に奥手ななっちゃんが違うクラスの杏奈に片思いしたことから、彼らの日常がざわざわと動き出します。
 
別冊マーガレット」で連載されていた水野美波の大人気少女コミックを実写映画化。男子高校生4人組を、佐野玲於中川大志高杉真宙横浜流星が演じる他、なっちゃんが恋するヒロイン杏奈に吉川愛が扮しています。監督・脚本は、僕と同学年で現在39歳にして、既にキャリアは15年クラスという飯塚健。『荒川アンダーザブリッジTHE MOVIE』『大人ドロップ』あたりが代表作。小説も書けるし、芝居の演出もやるし、MVも結構撮ってます。OKAMOTO’S、NICO Touches the Walls、アジカンチャラン・ポ・ランタンと、802ゆかりのミュージシャンもよく一緒に仕事している方ですね。
 
それでは、原作の1巻を買って読んでみて、久々の少女漫画のコマ割りと文字情報の多さに面食らったマチャオが、これまた久々のキラキラ映画をどう観たのか、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

まず製作の背景をお伝えすると… 飯塚監督は、当初この企画をプロデューサーから頼まれた時に、かなり難色を示したようです。少女漫画か… 壁ドンとか、自分には到底できないぞ、と。ところが、漫画を読んでみて、これなら自分にも面白いものが作れるという勝算が持てるなと引き受けた。確かに、少女漫画で男子高校生目線のわちゃわちゃした群像劇というのは珍しいですね。

虹色デイズ 15 (マーガレットコミックス)

一方、原作者は「二次元色の強い作品だと思っていたので、まさか実写のお話をいただけるとは想像もしておらず」驚いたと発言しています。実際、僕も漫画を少し読んでみて、たとえばSキャラの恵ちゃんなんかはムチをいつも携帯していたりっていう、非現実的でどうかしている漫画っぽい設定は実写にはそぐわないなと思ったし、実は漫画だと映画ほどピュアじゃなくて、イヤな女とか普通に出てくるし、必ずしもこんなに眩しくないんですよね。
 
原作は全15巻でもう完結してますが、脚本が動き出したのは単行本で8巻が出たくらいの頃。そこで、監督は映画独自のストーリー展開をするべく、脚本の構成を練りました。まず、全編にわたって4人の男子にフォーカス。もちろん、女の子たちは大事だけれど、彼女たちの心理をそれぞれに深く追うことはせずに、あくまで4人との関係性の中で描いていく。だから、親も出ないし、友達もその他大勢としてしか出てこない。先生もひとりだけ。部活描写なし。なんなら、4人が自分の部屋にひとりでいる場面もなし。そして、トピックは潔く恋愛と進路、このふたつに限定しました。かなり大胆な脚色方針だけど、2時間以内にまとめるには必要な方法論でしょう。監督が目指したのは、この場合だと女子高生向け、みたいな狭いターゲットに絞った作品ではなく、青春が過ぎ去った人たちの方が面白く見てもらえるもの。いい志ですね。
 
ただ、その結果は、必ずしも、いや、かなり、伴っていないと言わざるをえません。
 
4人それぞれにはっきりしたキャラ付けがなされているわけですが、なぜそういう性格になったのかという背景描写がないため、ドラマを動かすはずの葛藤が臨場感をもって伝わらないんです。なっちゃんもそうだし、彼が恋する杏奈も、どうして本好きで社交性に乏しいのか、理由がわからないから説得力がない。読んでる本が、それこそ少女漫画じゃなくて中島らもだとか、小道具で何とかわからせようという努力はしているんだけど、それだけではさすがに伝わりません。むしろ、謎めいてしまうばかり。

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人格形成の背景で突っ込んで描写するのは、なぜか、杏奈の親友にして極度の男嫌いである、まりなんです。当然、僕は彼女をかなり興味深く見ていました。彼女だけ、家族がはっきり出てくるんですよね。建設現場で働いているお兄ちゃんがいる。そして、とにかく杏奈に固執している。レズビアンを匂わせる描写もあるし、彼女の葛藤は群を抜いて、というより唯一ヒリヒリしていたんですが、蓋を開けたら、「え? それだけの理由なの? 嘘でしょ?」ってくらいに拍子抜けしました。
 
登場人物たちは時間とともに変化はするんですが、いかんせん、心理的な描写が浅いために、どういう理由があって葛藤を乗り越えるのか、ピンときません。ちょっとした会話そのものは面白くても、それらが有機的に繋がっていなくて、そのために全体が恋愛ゲームみたいになってるんですね。高校生なんだから、そういうゲーム性があっても僕はいいと思うんだけど、問題は狙ってそうなっているんじゃないってことです。特に後半、すれ違い、行き違い、勘違いの類がいっぱい出てくるんですが、もうそれはドラマを生み出すための設定にしか見えないんですよ。キャラが勝手に動き出す話じゃなくて、キャラを動かしているのが見えちゃうんですね。
 
プールへの飛び込みや、夏祭り、クリスマス、文化祭という、あるあるなハイライトも、どこかで見た以上の演出はないです。むしろ、思っていることは、どれもセリフで説明するし、ここ大事ですよっていうところは、これ見よがしに背景の音が小さくなったり、お芝居みたいにスポットライトが当たったりする、作り物感。花火だって虹だって、そのまま見せてしまうし、それがどう見てもCGだったりするから、フェイクであることが際立ちます。誰だって覚えてるよっていう場面を回想で見せるのも、スマートとは言い難い。少なくとも、虹色デイズなんだから、それはあくまでたとえとして、彼ら彼女らの日々が虹色だってことでいいんじゃないでしょうか。
 
良かったところもあるんですよ。滝藤賢一演じる、パンチパーマにサングラス、強面だけど生徒想いの先生。地方都市のロケーション。駅と坂道の空間配置。歩道橋のところとか、時折差し挟まれる、コントラストの強い画面づくりなど。あとは、吉川愛のかわいさとか、コンタクトレンズが見えてしまうレベルに寄った吉川愛の顔とか。
 
今をときめくキャストの魅力が伝わるアイドル映画的側面は僕は評価しないわけじゃないけど、逆に美男美女の出演で一定の需要を満たせているからこそ、監督には冒険が必要なんです。結果として、リアリティー方向にもファンタジー方向にも飛躍できなかったのは残念でした。

音楽を過去作でも多用してきた監督だけあって、挿入歌の選曲はどれも良かったと思います。ただ、邦楽なので台詞と歌詞がかち合ってしまうのを避けるため、会話がないところでたくさんの曲が流れてきます。なるほど確かに、歌詞が状況を補足するような組み合わせにはなっているんですが、その分、この演出を何度か繰り返していると、映画というよりMVが挟まっている印象になってしまうのも、もうちょっと工夫が必要でしょうね。

 さ〜て、次回、7月19日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ジュラシック・ワールド 炎の王国』です。今週はかなり吠えてもうたからなぁ。次は恐竜の咆哮を浴びることにしよっと。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!