京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『くるみ割り人形と秘密の王国』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年12月6日放送分
映画『くるみ割り人形と秘密の王国』短評のDJ's カット版です。

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今週月曜日に、ドイツ・クリスマスマーケット大阪2018をご紹介しましたけれども、そのドイツのクリスマスに欠かせない実用品であり民芸品でもあるくるみ割り人形。19世紀前半、文学・音楽・絵画・法律などマルチに活躍したホフマンが執筆した『くるみ割り人形とねずみの王様』で広く知られるようになりました。それが19世紀後半にはチャイコフスキーの音楽によるバレエ作品『くるみ割り人形』となり、そのメロディーとともに世界中で時を越えて愛される物語となりました。これまでも何度か映画化はされていたんですが、今回はディズニーということで、2018年のクリスマス映画として注目が集まっています。
 
舞台は19世紀後半のロンドン。愛する母を亡くして心を閉ざしていしまっていたクララが、クリスマス・イヴに形見として受け取ったのは、卵型の入れ物。「あなたに必要なものはすべてこの中にある」と書いてあるものの、ロックされていて鍵が見当たらない。科学技術好きで博識のおじが主催するクリスマス・パーティーに家族で参加したクララは、鍵をくわえたねずみとフクロウにいざなわれるようにして、屋敷の中からいつの間にか不思議な世界へ。そこは、花の国、雪の国、お菓子の国、そして謎めいた第4の国からなる秘密の王国。そこでプリンセスと呼ばれ、亡き母がその王国を創り上げたと知ったクララ。出会ったくるみ割り人形と共に、鍵を取り戻す冒険を始めます。

ギルバート・グレイプ [DVD] 僕のワンダフル・ライフ (字幕版)

監督は、名匠ラッセ・ハルストレム。『ギルバート・グレイプ』や『ショコラ』で知られるスウェーデンの監督ですが、僕のCiaoでの短評ではやはりディズニーの『マダム・マロリーと魔法のスパイス』、そして『僕のワンダフル・ライフ』を扱い、どちらも高く評価しました。監督はもうひとり、『ジュマンジ』などのジョー・ジョンストンが、どうやら途中からのサポートのような形で参加していて、ふたりのクレジットになっています。
 
クララを演じるのは、『インターステラー』で娘の幼少期を担当したマッケンジー・フォイ18歳。キーラ・ナイトレイヘレン・ミレンモーガン・フリーマンがそれぞれ印象的な役で登場する他、世界トップクラスの黒人女性バレエダンサーであるミスティ・コープランドの舞も堪能できます。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

ピクサースター・ウォーズ、マーヴェルを取り込み、CGたっぷりの映画で王国を築いているディズニーですが、こちらはむしろ手法としては昔懐かしいものでした。もちろん、CGもたくさん使っているものの、あくまでその役割は補助的なものであって、大事なシーンでは大規模なセットを組み上げ、贅を尽くした衣装を役者にまとわせて、うっとりとさせてくれます。それから、ぜんまいや歯車のようなアナログな技術がたくさん登場するのも楽しいところでした。舞台は19世紀末です。つまりは映画という技術が生まれた頃でもあります。監督はそのあたりを意識しながら、人間のイマジネーションと科学が新しいもの、魔法のようなことをクリエイトするのだというメッセージを打ち出しています。冒頭、屋根裏部屋、クララがピタゴラスイッチ的な機械を弟に披露していましたよね。そこにネズミがちょこちょこ走る。カメラを誘導するのは、知恵のシンボルであるフクロウ。作品を貫くモチーフを早速出しながら、母を亡くしたことで閉じこもってはいるけれど、受け継いだ聡明さは失わずにいるという主人公クララの紹介もさらりとやってのける的確なオープニングでした。

リメンバー・ミー (字幕版)

他にもメッセージはいくつも、そしてはっきりと観客に伝わります。何事も見た目や先入観に騙されてはいけないこと。自分に自信を持つことの大切さ。知識とそれを活かす勇気が身を助けること。『リメンバー・ミー』的な思い出の尊さと、そうした愛しい記憶を音楽が深めてくれること。女性たちや黒人といった、ともすると現実の19世紀末には軽んじられたり虐げられたりしていた人たちも、今や平等に活躍できるのだよという、ここ10年ほどでディズニーが確立したリベラルな価値観。ハンサムなくるみ割り人形は黒人でした。クララはプリンセスと呼ばれながらも、くるみ割り人形に助けられるのを待つなんてことはせず、当初は部下である彼に命令を下すわけですが、続いてクララ自身も軽やかな身のこなしで冒険と戦闘の先頭に立ち、やがては上下関係もほどけていく。支配欲や、防御ではなく攻撃を目的とした武力の虚しさ…
 
やはり、ファンタジーであり童話なので、こうした教訓をはっきりと盛り込むのは良いと思います。古い話を今語るならこうでなきゃっていう、アップデートのうまくいった好例と言えます。ここで無闇にラブロマンス的なものを入れないのも懸命な判断でしょうね。

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一方で、ここからは僕が満足できなかった要素を指摘しますが、お話そのものが膨らみきっていないんです。直線的でテンポも良くて、見せ場もハイライトもあるんですよ。なのに、何だかお話としては物足りない気がする。理由はふたつ。せっかく4つある王国と、その中心にある宮殿を端折りすぎているのがまずひとつ。だって、雪の国と花の国なんかほとんど出てこないんだもの。僕としては、予告を観ていて、4つのエリアをお遍路のように、あるいはディズニーランドのアトラクションのように、巡っていくもんだと思いこんでいたので、これには拍子抜けしました。そして、もうひとつは、冒険が実にあっけないこと。日本語で王国と訳してあるわりに、第4の国なんて、確かに謎めいてるけど、あれじゃ狭すぎるでしょうよ。クララの頭がいいってのはわかるけど、解決策をすぐに思いついちゃうのも問題ですね。水車のくだりなんて、僕のおつむが弱いからか、なんでそこまでしなくちゃいけないのかわからないってくらいに、とにかくあちこちコンパクトにしすぎているので、感じるカタルシスが弱くなるし、クララの成長にもインパクトを与えきれなくなっています。
 
ただ、子どもと一緒に観るクリスマス映画として、100分という尺はちょうどいいし、圧巻のダンスの美しさも味わえるし、科学への興味や普遍的な倫理観は養えるし、僕みたいなおじさんがくさすのはほどほどにすべきだぜって意味で、この冬間違いなくオススメの1本です。


イタリアが世界に誇るテノール歌手アンドレア・ボチェッリとエド・シーランのデュエットをオンエアしました。ボチェッリは息子さんと主題歌を英語で歌っていて、そちらもかっこいいのですが、今日はエドの来阪ニュースも交えてPerfectをチョイス!


さ〜て、次回、12月13日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『来る』です。ダメだって、ほんとに。噂の傑作『へレディタリー/継承』もためらっているのに、『来る』が向こうから本当に来ちゃったよ。は〜。そんな僕のビビリはほっぽって、あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!