京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『シュガー・ラッシュ:オンライン』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年1月3日放送分
映画『シュガー・ラッシュ:オンライン』短評のDJ's カット版です。

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アメリカのとある寂れたゲームセンターに設置されたレトロなアーケードゲームの中で暮らすキャラクターたち。好奇心が旺盛なアクティブ・ガールにして天才レーサーのヴァネロペと、ゲームの中では悪役だけれど心優しきガタイのいいおじさんラルフ。ふたりは大親友です。ある日、レースゲーム「シュガー・ラッシュ」が故障するんですが、その部品はもう生産されていないとのこと。インターネット・オークションでなら手に入ると知ったふたりは、店に設置されたばかりのWi-Fiからネットの世界に飛び込み、部品探しの旅に出るのですが、そこには思いもよらない危険も待ち受けていました。
2012年に公開された前作『シュガー・ラッシュ』から6年。監督は前作から続投して、TVシリーズザ・シンプソンズ』、そして傑作『ズートピア』のリッチ・ムーア。アカデミーの前哨戦として注目されるゴールデングローブ賞では、『インクレディブル・ファミリー』『未来のミライ』『犬が島』など、このコーナーで短評した作品と並び、アニメ作品賞にノミネートしています。日本時間で今月7日の発表が楽しみな、ディズニーによる3DCGアニメ映画です。
 
ネットの世界に舞台が移るということで、ネットならではの小ネタ満載なんですが、予告でも登場していたように、白雪姫、シンデレラ、ラプンツェル、アナ、エルサなど、ディズニーのプリンセスたちが14人もお目見えするのが話題となっています。
 
続編ということで、前作を観ていない方は鑑賞に不安を覚えるかもしれませんね。基本的には特に深い予備知識がなくても楽しめる内容なので安心していただきたいのですが、ざっくりとテーマだけお伝えしておきます。ゲームというプログラミングされた世界で動くキャラクターが主体性を持ってはいけないのか?ってこと。僕たち人間もまた、社会において様々な役割が与えられています。もっと強い言葉を使えば、役割やふるまいが押し付けられることもある。それを乗り越えてはいけないのかどうかということを問いかけるお話だったと思います。たとえばラルフはゲームでは悪役だけど、ヴァネロペというわかりあえる友達がいれば、それでいいじゃないかという流れがありました。しんどい仕事があっても、世界はそれだけじゃない。世代や性別を越えた友情があってもいいなんて解釈もできる展開でした。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

今作で、ふたりの関係は次なる展開を迎えます。ここで効いてくるのが、ふたりの属性の違いです。年齢が離れていることで、友情というよりも親子に見えてくるんですよ。ヴァネロペは好奇心の塊ないたずらっ子。決められたコースを走り続けることに満足がいかなくなっています。対して、ラルフは前作で納得のいった自分の居場所とヴァネロペとの関係を維持したい。言わば、ラルフの保守とヴァネロペの革新が拮抗するわけです。それでも、心優しいラルフはヴァネロペのために特別なコースを作ってやったことが災いして、「シュガー・ラッシュ」は故障。ヴァネロペは役割と居場所を失うんですね。ふたりは親子関係だと僕は見立てましたけど、同じゲームの女子レーサーたちも居場所を失って、シューティングゲーム「ヒーローズ・デューティ」の女性キャラ「カルホーン軍曹」とフェリックスJr.のふたりが彼女たちを引き取ったら、子育てで一苦労というエピソードもありましたね。

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さあ、ラルフとヴァネロペ、この疑似親子はインターネットの中へ。この可視化されたネット社会が、はっきり言いますけど、この映画の一番の楽しみです。さすがはあの『ズートピア』を作り上げたひとり、リッチ・ムーア監督。今回もカオティックでありながら整理されていて見やすく、『レディ・プレイヤー1』的な小ネタ満載なので、何度も観たくなる。僕らが依存しているネットなので、あるある感が圧倒的。楽天AmazonSpotifyGoogle、eBayといったネット企業が実名で登場。Googleをゴーグル専門店だと勘違いしたり、eBayを聴き間違えてeBoyという男の子がいると思ってしまったり。ユーチューバー的におもしろ動画をバズらせてお金を稼いでみたり、いかがわしいポップアップ広告が出てきたりって、もう拾いきれません。ゲームも進化していて、猥雑な街をコース関係なく自由に走る「スローターレース」はゲーム「シュガー・ラッシュ」との対比もあって面白かったです。ヴァネロペがそこで憧れるシャンクという女性は、『ワイルド・スピード』に出てきそうな感じもありましたね。ここは、ヴァネロペが大人の階段を登ろうとしている、そのシンボルとして抜群でした。

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さらに、今やピクサー、マーベル、スター・ウォーズを傘下にしたディズニー帝国ならではのキャラたちも総出演。通底するのは、ネットやディズニーという巨大な虚構世界への風刺です。それをやってるのがディズニーというのが、懐が深いし、今っぽいし、余裕すら感じるし、とにかく最高です。特にプリンセスが一堂に会する楽屋シーンはやはり印象的でした。シンデレラはガラスの靴を砕いて武器にするし、白雪姫はポイズンってTシャツ着てるし、アナのTシャツには「JUST LET IT GO」って書いてあるし、もう大変です。しかも、単なる小ネタではなく、突然歌い出すミュージカルへのツッコミも入れつつ、ヴァネロペが子供から大人へ、そして自分の生き方を選択していくことになるきっかけにすることで、きっちり物語的な意味を与えています。
 
原題は『Ralph Breaks the Internet』です。お父さんなラルフは、娘のようなヴァネロペのために良かれと思って必死に行動するんだけど、それが裏目に出て暴走してしまいます。これは実際にネットでよくあることじゃないですかね。でも、ラルフはそこから学んでいきます。そして、ラストを迎える。具体的には言いませんが、ほろ苦い着地です。哀愁すら漂うんです。僕はそこに驚きました。ディズニーらしくないと思う人もいるだろうし。ただ、ネットの危険を描いてから、それでもネットの良さを見捨てず、現代的な親子の距離感、そして他者の尊重というところまで持って行ったことはとても評価できます。
 
インターネットの功罪と生き方の選択をテーマに、笑いと興奮をたっぷり盛り込んだ一級のエンターテインメント。ぜひ親子でご覧ください。


僕は吹き替えで観たので、主題歌の『In This Place』は、Julia Michaelsから青山テルマへと切り替わっていました。もうひとつ、Imagine Dragonsの既存曲がエンドクレジットで鳴るんですが、書き下ろしではないのに物語と適度にリンクします。カオティックな世界でどうバランスを保つのかを歌ったこの曲を採用するのは、なかなかセンスが良かったと思います。

 

さ〜て、次回、2019年1月10日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』です。難病ものということになろうかと思いますが、演技達者な大泉洋が笑いとペーソスをどんなバランスで混ぜてくるのか、確認してきます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!