京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『マスカレード・ホテル』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年1月24日放送分
映画『マスカレード・ホテル』短評のDJ's カット版です。

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東京で起きた3件の殺人。殺害方法はバラバラで、被害者同士の関係も見当たらないものの、現場に数字の暗号が残されていたことだけが共通していました。それを解読し、これは連続殺人事件だと推理したのは、警視庁捜査一課の刑事、新田浩介。どうやら、その数字は次の殺人場所を予告しているらしいのです。かくして導き出された第4の場所は、ラグジュアリーなホテル・コルテシア東京。捜査一課はホテル側の協力を得て、潜入捜査を始めることに。新田はフロントクラークに扮して犯人逮捕を目指しますが、従業員の最前線で利用客をもてなす本職のフロントクラーク山岸尚美とことあるごとに衝突してしまいます。次々と現れる素性の知れない客の中から、新田たちは犯人を見抜けるのか。狙われているのは誰なのか。そして、殺人は未然に防げるのか。 

マスカレード・ホテル (集英社文庫) マスカレード・イブ (集英社文庫) マスカレード・ナイト 

原作は、集英社文庫から出ている東野圭吾の同名小説。これは「マスカレード・シリーズ」になっていて、今のところ3作出ています。今回はその1作目の映画化。登場人物がとても多いわけですが、豪華キャストが目白押し。刑事新田を木村拓哉、ホテル従業員山岸を長澤まさみがW主演で担当する他にも、渡部篤郎小日向文世篠井英介生瀬勝久前田敦子濱田岳松たか子菜々緒石橋凌梶原善鶴見辰吾笹野高史宇梶剛士、橋本マナミなどなど、とにかくすごい。
 
監督は、鈴木雅之。フジテレビ所属の演出家で、『王様のレストラン』『ショムニ』『HERO』など、数多くのドラマでチーフディレクターを務ている他、映画でもフジテレビ製作のものを手がけています。『GTO』『HERO』『プリンセス・トヨトミ』『本能寺ホテル』といったところですね。
 
平成が生んだ大スター木村拓哉の人気はまだまだ健在とばかりに、観客動員はもちろん1位の独壇場。先週金曜の公開から金土日の3日間で61万人を動員していますが、その内容はどうなのか。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

日本型、テレビ局主導の映画製作。十把一絡げにするのは良くないですけど、ドラマからの流れで、その延長としか言いようのない、THE MOVIE的な映画作りがあって、その代表格がフジテレビですよ。今回も、特に宣伝では明らかに成功作『HERO』に寄りかかったような感じじゃないですか。テレビのファンじゃなくて、映画ファンである僕としては、劇場へ向かう足取りが軽くなかったのも事実です。
 
ところが、実際に観てみると、日本版『オリエント急行殺人事件』的なキャスティングの魅力に、思いもよらず楽しむことになったんです。オリエント急行的というのは、要するに、出てくる登場人物ひとりひとりの役者に、いずれも知名度と存在感があって、スクリーンが華やぐだけでなく、誰もが犯人に見えてくる、先が読めなくなる効果もあるってことです。
 
木村拓哉小日向文世松たか子と来ると、『HERO』を思い浮かべるわけだけど、僕がこのキャスティングと物語の設定で思い出したのは、やはりフジのドラマで三谷幸喜出世作王様のレストラン』ですね。演出の鈴木雅之、出演の梶原善(かじはらぜん)、田口浩正が共通する他、松たか子のお父さん松本幸四郎も大事な役で出ていました。サービス業の表と裏、本音と建前、それぞれの役割と立場を活かした人間模様をコミカルに描くこと、そして何より物語を密室劇にすることで求心力を保つこと。今回、鈴木監督はあのドラマで培った演出術を遺憾なく発揮していました。

王様のレストラン Blu-ray BOX 

映像的な見せ場として、僕の目を引いたところを一箇所挙げます。前田敦子演じる新婦が、結婚式場から披露宴会場へと移動するシーン。何か起きるんじゃないかと緊迫している場面。彼女を含む3人の人物の距離がだんだん近づいて、さあどうなるってタイミングで、現場に配置された何枚もの鏡を使って、その距離を混乱させるような見せ方をすると共に、鏡という虚像が蠢いて交錯するという画作りは映画全体のテーマとも一致していますよね。
 
一方、これは演劇的かつテレビドラマ的だぞと白けちゃったのは、生瀬勝久演じる客がロビーで新田に食ってかかるところ。大声を出すもんだから、その場にいる人がみんな固まるのはわかるんだけど、それからしばらくの間、みんな固唾をのんで棒立ちでふたりの芝居を見続けるという。あれはいただけないです。日本のドラマでよく見る構図ですよ。もっと工夫できる。あと、別れようとしたところで、まだ言葉をつないで、相手を振り返らせる構図も繰り返しすぎ。これもドラマっぽい。そして、無闇にカメラをくるくる回しすぎ、とかね。
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でも、とりあえずそういう弱点は置いておこうって思えたのは、はやり木村拓哉長澤まさみの放つ存在感でした。人を疑う刑事と、人を信じるホテルスタッフ。水と油のふたりですよ。ところが、登場する宿泊客たちが巻き起こす騒動をひとつひとつやり過ごしていくうちに、木村拓哉はだんだんホテル従業員らしくなり、長澤まさみは推理を働かせるようになる。水と油が乳化して強力なバディーになる。そのプロセスを愛でる映画と言っていいでしょう。
 
第4の殺人事件が動き出すまでの時間が長いんですよ。次こそか、いや、まだだったか。その繰り返しの中でバディーが構築され、一般人の知らないホテルの裏事情も知れ、知らぬ間に伏線も敷かれていく。僕に言わせれば、伏線の回収やトリックが鮮やかな物語ではないです。むしろ、そこまでが楽しいって感じかな。
 
事前放送のドラマに頼らず、主題歌も取ってつけず、フジの強みであるキャスティングでちゃんと映画を作ろうとした『マスカレード・ホテル』。お客様が詰めかけるのも納得の出来栄えでした。

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リスナーからも届いた指摘でしたが、僕も思っていたこと。ホテルが舞台なのに、高嶋政伸(弟)を使わず、高嶋政宏(兄)をキャスティングするんだ! それは何か、ドラマの「HOTEL」がTBSだからなのか。勘ぐりすぎか。とにもかくにも、僕としては、これは「姉さん、事件です」と言いたくなる案件でした。

あと、オリジナルのサントラが、ところどころ「古畑任三郎」っぽく聞こえたのは苦笑しました。古畑もフジテレビだし、SMAPも一度出てるし、鈴木監督も何話か演出していたし、それはあまりにもだぜって。でも、どうして似てると思えたのかな。たぶん、コード進行だとは思うのですが…

さ〜て、次回、2019年1月31日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『十二人の死にたい子どもたち』です。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!