京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『バンブルビー』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年3月28日放送分
映画『バンブルビー』短評のDJ's カット版です。

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父親を亡くした悲しみから立ち直れず、内向的になって周囲とうまく溶け込めずにいる18歳の女の子チャーリー。父が好きだった車いじりが彼女の目下の趣味です。ある日、行きつけの廃車工場で黄色いビートルを発見。これこそ初めての自分の車だと喜んで家に乗って帰ったところ、ガレージで突如トランスフォームして人型ロボットとなって仰天します。声と記憶を失い、怯えた表情を見せるロボットを匿うことに決めたチャーリーは、蜂の羽音のような音を時折聞かせるその黄色いロボットに、直訳すればブンブン蜂という意味のバンブルビーと名付けて心を通わせていくのですが、宇宙からはそのバンブルビーと敵対する追手が地球に近づいていました。
 
日本のタカラトミーが80年から売り出した変形ロボのおもちゃが、アメリカでトランスフォーマーズとして販売されて大ヒットし、また日本にも逆輸入的に人気が広がりつつ、80年代半ばから断続的にアニメシリーズが放映されていて、僕もその第一世代直撃という感じで、僕はそうでもなかったですけど、アニメを見ておもちゃで遊んでってクラスメートが結構いたことを覚えています。
ハリウッドでは、2007年にマイケル・ベイ監督が実写超大作シリーズとして鳴り物入りで映画化され、既に5本も公開されていますが、今回は舞台を1作目の20年ほど前、1987年サンフランシスコに移しつつ、人気キャラのバンブルビーを主役にしています。スピンオフとも、前日譚とも、リブート(語り直し)とも言われていて、位置づけはちょっとまだ曖昧ですね。製作総指揮陣にはこれまで通りスティーブン・スピルバーグの名前がありますが、マイケル・ベイは今回製作に回り、監督としてトラヴィス・ナイトを迎えました。この人は、現在世界のストップ・モーション・アニメーションの最高峰と言われるライカスタジオの社長にして、あの傑作『KUBOクボ 二本の弦の秘密』の監督です。これが初めての実写ですから大抜擢というか、意外というか、驚きました。
 
バンブルビーと並ぶ主役のチャーリーには、女優、モデル、そして802でもかかるような歌手としても知られるヘイリー・スタインフェルドが起用されています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

僕の観たかったトランスフォーマーに出会えた。これが率直な感想です。
 
これまではアメリカンなマッチョ感炸裂の大味路線だった本シリーズ。ケチャップやらソースやらを塗りたくったジャンクなメガ盛りハンバーガーが、いつの間にやら、有機野菜を付け合わせにした手ごねハンバーグプレートになっていました。
 
ロボットの造形がまず違いますね。これまでは巨大さが強調され、とにかくゴツゴツといかつくて、トランスフォームと言われても、どの部品がどうなったら乗り物になるのかよく分からないくらいの足し算志向でしたよね。そんなのがガチャガチャ動き回って取っ組み合うもんだから、もう画面上でどんなアクションが行われているのかも感知できない、「なんか派手」としか言えないというのが特徴。でも、それがマイケル・ベイ。ベイやんの十八番でございます。熱心なファンはいるけど、映像も大味なら物語もブルドーザー的に推し進めるものなので、シリーズそのものが作れば作るほど珍妙なものとして扱われていくようになりました。
 
そこへ来ての仕切り直しで、監督交代。トラヴィス・ナイトの登場です。でも、これ、実はベイやんが仕切ってるんですよ。僕にしてみれば「よーわかってるやん」と、むしろベイやんの采配を評価したいです。

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何といっても、バンブルビーの車種がカマロから丸いビートルに代わっています。初代アニメに戻した格好ですが、今回の設定にピッタリ。彼は序盤の戦いで声と記憶を失っていつもおどおどしているというその少年のような、あるいは捨てられた子犬のような雰囲気を出すには、やはりゴツゴツしたフォルムよりも、柔らかい方が良い。そして、誰もがキュンとくる表情。あれはあの青い目によるところが大きいですね。目で多くを語るっていうのは、ストップ・モーション・アニメーションでトラヴィス・ナイトが培ってきた人形の造形技術が活用されていたと言えるでしょう。
 
途中でバンブルビーが映画『ブレックファスト・クラブ』の拳を上げるシーンを真似るっていうくだりが出てきますが、その引用に端的に現れているように、物語は派手なだけのアクションを極力抑えつつ、スクールカーストものや青春ラブコメに『ET』をかけ合わせた感じ。スピルバーグもチームのトップにいますしね。そこも含めて、やっぱりエイティーズなんですよ。トランスフォーマーの起源でもあるわけだし、舞台設定も完璧だったと思います。声を出せなくなったバンブルビーが、カーラジオをDJよろしく操って、ヒット曲の歌詞で意思を伝えるっていうぶっ飛び設定も笑えました。

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こんな調子で、僕もはっきり言ってシリーズ最高の1本だと断言しちゃいますが、ちょいちょい雑だなっていうか、ハンバーグプレートだけど添加物は入れてあるなと感じたのは、バンブルビーの記憶システムがどう機能しているのかよく分かんないってのと、バンブルビーの無敵さ加減ですね。あれだけ攻撃されてたら、何体あっても足りねえよって思えるし、逆に言えば、叩けば治るような感じがあるでしょ? 昭和のテレビじゃないんだからさっていう。あと、家族の絆の再構築というテーマを入れるのは必然として、それならそれでもうちょい丁寧にやらないと、あれじゃまたすぐに空中分解するんじゃないかと僕はヒヤヒヤしてもいます。
 
ただ、そういったご都合主義もベイやんに比べればってレベルだし、チャーリーとバンブルビーがキャッキャやってるのを観ているだけでハッピーなんで、まあいっかと思えてしまいます。僕はこの続編が観たい。トランスフォーマーが爆発上等のブロックバスターからドラマを描く路線に見事にトランスフォーム。ホットな1本でした。

チャーリーを演じたHailee Steinfeldは、この大作の主題歌も堂々と担当しました。彼女の魅力について、評で触れませんでしたけど、ヘイリーちゃんはこの手のアメリカこじらせガールを演じたら絶品ですね。この数年後、二十歳のチャーリーたちにまた会いたいです。

さ〜て、次回、2019年4月4日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ダンボ』です。なんか、かわいいの続きになりましたね。ティム・バートンがこの愛されキャラをどう実写で料理するのか。確認しに行きましょう。ディズニー映画として順当にヒットするでしょうから、これで安心して、「耳をダンボにして」ってまた言えるようになるかしら。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!