京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『チア男子!!』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年5月16日放送分
映画『チア男子!!』短評のDJ's カット版です。

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柔道一家に生まれ、自身も打ち込んではいたものの、自分が勝つよりも、実力のある姉を応援するほうが性に合っていた晴希。ある日、試合中に肩を負傷してしまいます。このまま柔道を続けるべきか否か。迷っていたところへ、同じ大学に進学した柔道仲間の一馬が、一緒に男子チアリーディング部を創設しようと持ちかけてきます。部員集めから難航するふたり。何とかして集まったのは、完全初心者から経験者まで、ぽっちゃりした運動音痴から筋肉ムキムキの元野球部まで、個性豊かな7名。彼らは慣れないチアリーディングの動きの習得に四苦八苦しながらも、目下の大舞台、学園祭のステージでオーディエンスをアッと驚かせることを目指すのですが、それぞれが抱えていた問題に直面します。

チア男子!! (集英社文庫) 何者 

原作は、『霧島、部活やめるってよ』『何者』で知られる直木賞作家の朝井リョウ。彼もまだ20代ですが、監督の風間太樹(ひろき)はさらに若くて、まだ27歳です。すごいね。晴希と一馬を演じるのは、それぞれ横浜流星と、中尾暢樹(まさき)。他にも、瀬戸利樹(としき)や菅原健(すがわらけん)など、イケメンを存分に愛でられる映画にもなっています。
 
それでは、中学時代の体育の授業で、柔道を蹴ってダンスを選択して成績を落とした男、僕マチャオがどう観たのか。制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

タイトルから誰もが想像できるように、「え!? 男子がチアリーディング!?」という設定そのものがまず肝となる作品です。競技によって、男女のイメージが固定されていた、あるいはまだ固定されているところに、そのカウンターとして物語が登場するというのは、古くはバブル期の浦沢直樹YAWARA!』がありますね。そして2001年矢口史靖の『ウォーターボーイズ』。周囲からは冷ややかな目で見られたり、笑われたりしながらも、地道に練習を重ねて、やがてはその技で人々を見返す、というよりも、魅了する。そういう物語の枠組みは共通していると思いますが、『チア男子!!』の場合には、それプラス、チアリーディングという競技の特性上、技を競うことだけでなく、大前提として、人を応援することというテーマが前に出てきます。さらには、スタンツと言われる組体操的な技の数々が、文字通りというより映像通り表現しているように、適材適所で仲間がそれぞれの能力を発揮することで支え合いながら高みを目指すわけなんで、これはつまり青春ドラマの王道なんです。その意味で、正直展開は読めるし、あるあるネタの盛り合わせではあるんだけど、裏を返せば、安心して楽しめる娯楽作になっています。

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こう聞くと、原作にも映画にも触れていない人は、朝井リョウなのに意外と思われるかもしれません。だって、この作家は、僕らの触れてほしくない本音だったり、人間関係のきしみを鋭く痛く突く人ですからね。そう、僕も意外というより物足りないなと、当初は観ながら思っていたんですが、「これこれ、この感じ」って思えたのは、唯一4回生のメガネ男子溝口と、これまたメガネキャラ、山本千尋演じる学生会の女子リーダーです。このふたりが就職活動でクロスする場面は、『何者』に通じる応援の裏の打算にまで踏み込んでいて、とにかくキラキラしたこの映画において「光る闇」とも言える部分でした。
 
あとは恋愛要素がないってのも特徴ですね。女子チア部が出てきた時点で、こりゃ何かあるだろうと思ったものの、そんなことはまるでないんですよ。そこを薄っぺらいと感じるか、それとも、むしろ今っぽいと捉えるかは、意見の分かれるところでしょう。ただ、男女の恋愛描写がないぶん、特に関西弁キャラの幼馴染ふたりが、もうこれはBLへまっしぐらかっていう雰囲気を醸していたのが、僕にはかなりゾクゾク来たところです。さらには、自ら道場を運営しているにも関わらず、息子の意志をすんなり尊重してくれる晴希の父親も良かった。なぜなら、柔道家は頑固で保守的、みたいな、ステレオタイプから、あのお父さんが軽やかに逃れていたからです。

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逆に、今挙げなかった部分は、かなりステレオタイプだったとも言えると思うんですね。この映画は、登場人物をきっちりキャラ付けしすぎているのではないか。僕はそう思いました。この人はこういう人だから、こう動く。それは間違いではないんだけど、それを徹底すると、ご都合主義、予定調和に陥るわけです。わかりやすく言えば、メガネをかけている人はガリ勉。昭和じゃんかよ。ご丁寧に、メガネを直す仕草にまいどまいど効果音を被せるとか、それに類する記号的なキャラ付けと演出があちこちにあるのは、どうなんでしょうか。だって、彼らチア男子チームBREAKERZが壊すのは、そういう固定観念でもあるわけですから。
 
もうひとつ苦言を呈すなら、せっかく俳優たちが猛練習を積んだわけなんで、ハイライトの学園祭シーンは、映像的なギミックを最小限に抑えるべきだったと思いますよ。スローモーションやらわかりやすいカット割りは無用でしょう。あの規模感から考えれば大げさと言わざるを得ない音楽も同様です。
 
こうした難点は他にもありますが、イケメンたちも、彼らのがんばりも、そりゃ眩しいです。チアってこういうものなんだっていう裏側も知れるし、構えず気楽に観られる作品ではあるので、友達と観に行って、キャッキャ話し合ってみてほしいなと思います。


主題歌は阿部真央。ここは文句なしにハマってました。

 

今回はおまけとして、今日の番組メールマガジンに書いた、僕の中学時代のエピソードをここに転載しておきます。

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映画を観ながら、僕が思い出したのは、中学生だった頃。今では男子も当たり前にやっているはずですけど、僕の頃までは、体育で男女が分かれる種目があって、冬場は男子が柔道で、女子は創作ダンスだったんです。それが、3年生のタイミングで男女関係なく選択できるようになりました。
 
冬場に素足は寒いし、投げられたら痛いしと、柔道に対してブーたれていた僕は、仲のいい男子5人を誘って、学校初の男子創作ダンスを選択したんです。
 
柔道がイヤだったからという軟弱かつ志の低い志望動機は別として、今思えば、僕はかなりのさきがけだったとも言えるんですよね。問題は、それで評価はどうだったのかということです。
 
その冬、5段階で最低でも4は取っていた体育で、初めて3を取りました。女子のダンスを堂々と眺めて心躍らせてはいたんですが、どうも身体はついていかなかったようです。

さ〜て、次回、2019年5月23日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『レプリカズ』です。僕も忙しい時には、コピーロボットやマチャオ・レプリカズが欲しくなるんですけど、キアヌ・リーブスの表情を見る限り、そういう脳天気な内容ではなさそうですね。テーマとしては、ちょっと前に扱った『人魚の眠る家』に近いのかな。どうなんだろう。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!