京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『きみと、波にのれたら』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月27日放送分
映画『きみと、波にのれたら』短評のDJ's カット版です。

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サーフィンを愛し、大学入学をきっかけに海辺の町で一人暮らしを始めたひな子。自宅マンションが火事になったことをきっかけに消防士の港と知り合い、ふたりは恋に落ちます。おっちょこちょいのひな子としっかり者の港。ふたりはサーフィン、キャンプ、料理、音楽を通してその絆を深めていくのですが、冬のある日、ひとりでサーフィンをしようと海へと向かった港が、溺れた人を救おうとして命を落とします。大好きな海を見ることすらできなくなるほどショックを受けたひな子。しばらくすると、ふたりの思い出の歌を口ずさめば、水の中に港の姿が現れることに気づくのですが…

夜は短し歩けよ乙女 夜明け告げるルーのうた

監督は湯浅政明長編映画だと『マインド・ゲーム』『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』で知られる他、Netflixオリジナルの『DEVILMAN crybaby』でも世界的な注目を集めたことが記憶に新しい方ですね。脚本は『夜明け告げるルーのうた』でもコンビを組んだ吉田玲子。
 
キャストも紹介しておきましょう。サーフィン好きの向水ひな子を川栄李奈(かわえいりな)、消防士の雛罌粟港(ひなげし)をGENERATIONS from EXILE TRIBE片寄涼太、港の妹洋子を松本穂香(ほのか)、港の後輩消防士である山葵を伊藤健太郎がそれぞれ演じています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

湯浅作品を見慣れている人ほど、特に前半、港が亡くなってしまうまでの演出には違和感を覚えると思います。人物や物体が平面的で、輪郭が平気でグニャグニャ歪んだりするような、アニメならではの動き、現実からの飛躍を特徴としている作家なわけですけど、今作はかなり写実的なんですね。
 
湯浅作品に縁がなかった人にとっても、最近の日本のアニメではまずお目にかからないと言えるほど、とにかくふたりがラブラブな前半のストーリーラインには違和感を覚えると思います。ひな子の友達がちゃんと代弁してました。「リア充爆発しろ」ってね。
 
画作りも物語も、この作品は大丈夫なのか。どっこい、どちらの違和感も後半するする解消され、クライマックス前後ではしっかり泣かされている僕がいました。

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カップル的な描写について、まず話します。これはかつてのトレンディードラマ的なジャンルの「ベタ」なんですよ。GENERATIONSの曲も90年代感ありますよね。かつて流行ったJ-pop感というか。湯浅監督はまっすぐなラブストーリーをこれまでやってなかった人なんで、ジャンルとしてのお約束を踏襲しつつ、先祖返り的にあえて記号的に一旦振り切ったわけです。その分、後半港が死んでショックを受けてからのひな子の幻影・幻覚が活きてくる。これもセリフではっきり出ます。「洋式便器に向かってブツブツ言ってる変な人」に見えるようなぶっ飛びも、前半があればこそなんですね。主要登場人物が4人であるとか、死んだ人間の幻影が出てくるってことで、90年のヒット作『ゴースト/ニューヨークの幻』を実際に参考にしたと言われていますが、恋愛の四角関係が展開するのが港の死後だってことや、こいつとこいつがくっつくんだろうなっていう、それこそラブロマンスもののお約束をわりとサラリと裏切ったりと、後半を際だたせるための前半のストレートな振り切りだとだんだんわかってくる構成になってます。

ゴースト/ニューヨークの幻 (字幕版) 

作画についての違和感はどうか。湯浅作品にしては珍しく写実的だぞって部分。こちらもメリハリがあると言うべきか、彼の特徴は今回は水に注ぎ込まれています。アニメ表現の難関のひとつである水に豊かなバリエーションがある。陽光を反射するきらめく水。愛する人を飲み込んでしまう脅威としての水。さらには、愛する人をくるむ水であり、火を消す水であり… 迎えるクライマックスでは、ひな子の幻影かゴーストかという微妙なリアリティーラインを高々と飛び越える、これぞ湯浅政明という跳躍が文字通り映像通りそびえ立って燃え盛ります。そのシーンには、「きみと、波にのれたら」というお話のテーマである自立と再生がこれでもかと込められていて、ただただ口を開けて事態を見つめる他ありません。
 
ちょっと安直ではあるけれど、名前がそのまま説明してます。雛罌粟港、つまり、火を消し、波から人や物を守る港、向水ひな子、つまり水に向かいながらよちよち歩きをしていた雛が成長して港を出ていくということです。サブキャラの二人が主人公たちを引き立てるスパイスとして巧妙に配置されているし、コーヒーや花火や消防士や恋人たちの聖地みたいな道具立てもよく機能しています。嫌味な言い方をすれば、とにかくベタなんだけど、そうした間口の広さ、ジャンル映画的な約束を守りながらも、そこで表現的な実験を推し進めてしまう湯浅政明。ツッコみたい部分も最終的に飲み込んでしまうパワーを備えた作品でもありました。あのクライマックスの迫力は大スクリーンでこそ!


かつて流行った曲として、劇中でひな子と港が歌い、そしてひな子がひとりになってからも何度も口ずさんだのが、これですね。さすがに口ずさみすぎなので、メロディーに飽きちゃう部分もありましたが…

さ〜て、次回、2019年7月4日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』です。「ホームカミング」と『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続編ってことになるんですよね。あ〜、ややこしや。でも、今回はおうちから遠く離れてヴェネツィアにも行くらしいので、観光気分でも楽しめそう。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!