京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年7月4日放送分

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スパイダーマンを主人公にした実写映画としては、2017年に公開された『スパイダーマン:ホームカミング』の続編です。そして、「マーベル・コミック」のヒーローたちが同じ物語世界の中で同居・クロスオーバーするMCUマーベル・シネマティック・ユニバースとしては、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の続編にして、フェイズ3のラストを飾る23作目となります。

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これは「エンドゲーム」からまだそう時間が経っていない頃の物語です。自分の高校生活に戻った主人公ピーター・パーカーは、夏休みを利用して、学力コンテストの仲間や先生たちとヨーロッパへ研修旅行に出かけます。目下のミッションは、大好きな女の子MJに告白すること。親友のネッドにその計画を打ち明けながら、ヒーローであることから離れ、バカンスとしゃれこもうとしているところへ、元SHIELD長官であるニック・フューリーから携帯への着信が。あろうことか、ピーターはその連絡をスルーして、そのまま最初の目的地ヴェネツィアへ。ところが、そこに現れたのは得体の知れない水の化物エレメンタルズ。ピーターがスパイダースーツなしで対抗を目論むも苦戦を強いられているところへ颯爽と舞い降りて敵を撃退したのが、異世界からやって来た新たなヒーロー、ミステリオ。ピーターは、地球の新たな脅威に立ち向かえるのか。研修旅行は続行できるのか。そして、何よりMJに告白できるのか?

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監督は前作「ホームカミング」から続投して、まだ38歳と若いジョン・ワッツが担当。脚本家たちもそのまま続投。キャストもそうですね。ピーター・パーカー/スパイダーマントム・ホランド、ニック・フューリーをサミュエル・L・ジャクソン、MJをゼンデイヤ、親友ネッドをジェイコブ・バタロン、メイおばさんをマリサ・トメイ、ピーターのサポートとなる元トニー・スタークの運転手ハッピーをジョン・ファブローが演じている他、新キャラのミステリオにはジェイク・ギレンホールが抜擢されています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

「ホームカミング」の短評の時に僕が強調した良い意味での軽さを今回も踏襲しているんですけど、これってすごいことですよ。だって、この前が「エンドゲーム」ですよ。シリアス。重厚。深刻。その直後だってのに、今作の軽妙さは前作を上回ってます。話の前提となる空白の5年間問題なんかも冒頭で手際よく説明されるんですが、そこにいちいち細かい笑いを入れていくんですよね。たとえば、人類の危機に乗じて不倫・駆け落ちした女がいたとかみたいな小ネタ。それが、ヨーロッパ行きの飛行機の中で何とかMJの隣に座ろうと画策して失敗するピーターっていう、これまた細かすぎるラブコメ要素に重ねられるわけです。ラブコメと言えば、他のクラスメートたちも旅行に乗じていちゃつくし、メイおばさんも何やら浮かれていて、映画全体も軽いどころか浮ついてます。
 
そんな浮かれたピーターをヴェネツィアまで追いかけてきたニック・フューリーが出てくるところで雰囲気が一変するのかと思いきや、そんなことはないんですね。ニックが深刻な事態を説明する最中にも、これまたどうでもいいとしか言いようのない横やりが入るっていう古典的なギャグを天丼で展開します。しかも、ピーターときたら、僕には荷が重いんで、親愛なる隣人のままでいたいんでとか言って、化物征伐の戦いへの参加を断るんだけど、その時のニックの解決法、譲歩の仕方がまたコミカル。
 
この話、要するに、16歳の高校生の成長を見守るってことなんだけど、中盤以降、「え!?」っていうどんでん返しを用意しつつ、彼の内面の弱さをヴィランが指摘し、そのヴィランを攻略することで、ピーターが一皮むけていく。そういう流れになっています。

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ここで発揮されるのが、ジョン・ワッツ監督の作家性です。過去作に見られた「常軌を逸した大人に翻弄される子どもたち」というモチーフが今作でも見受けられます。もちろん、ヴィランとの対決もそうなんですけど、僕に言わせれば、最高のヒーローにしてアクの強すぎる金持ちトニー・スタークも、常軌を逸した大人に相当します。ヒーローとしてのスピリットを託せばいいのに、ハイテク満載のメガネまで託すもんだから、大変なことに。そして、トニー・スタークの過去の尊大な態度がまた時を経てぶり返すってのは、迷惑以外の何物でもないですもん。でも、こういうシリーズファンへのサービス精神と個人の作家性を無理なく結びつけていく手腕はさすがだなと舌を巻きました。
 
さらには、メディア批評的な側面も盛り込んでましたね。どこもかしこも映像で溢れ、リアルとフェイク、フィクションとファクトの区別がつかなくなっている現実の世の中を踏まえてました。お話全体もそうだし、最初から最後まで、スクリーンの中に大小のモニターやプロジェクションだらけでしたもんね。そこに翻弄される様子は、僕らもよくわかるってところじゃないでしょうか。

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前回は、スパイダーマンがあまり飛んでなくて、物足りなかったなんて声もありましたけど、僕に言わせれば、ビルや木などがない、だだっ広いところでは走るしかないんだっていうことを笑いとともに見せてくれたのが忘れられないんです。あれはあれで良かった。そして、今回は飛んでるよ。ヴェネツィアで、プラハで、そしてベルリンで。『メン・イン・ブラック:インターナショナル』に続いての007化ですけど、はっきり言って、スパイダーマンの方が現地の見せ方は上手でしたね。ニューヨーク以外で飛ぶだけで、こんなにも新鮮。楽しかった。
 
あのラストですから、明らかに続編はありますね。今度は高校生活も最後になるんでしょうか。正直、ヴィランの操る技術のからくりがよくわからならいところもあったけど、そんなことはどうでもいっかって思えるほど、MCUスパイダーマンも新たなフェーズを迎えるにあたって、考えられる限り最高のフィナーレでした。

サントラから何をかけようかと思ったんですけど、AC/DCは一昨日かけたしな〜。で、思い返すと、イタリアの曲が3つも使われてるんですよ。せっかく僕がDJなんだから、ここはイタリアのでしょってことでこちらをチョイス。ヴェネツィア行きの飛行機の中で使われていたものなんですが、「星のような君よ、僕の頭上で輝いておくれ」っていう歌詞でして、何とかしてMJの隣の席をゲットしようとするピーターの内面とも一致していました。さらには、機内のトイレを使ったギャグシーンがあったんですが、そこで「シヴォラ、シヴォラ、シヴォラ、シヴォラ…」って繰り返し歌われます。これは英語のスリップとかスライドってことで、要は滑るっていう動詞。実際、ピーターの行動も滑ってたんですよ。ほんと、マーヴェルのこのあたりの細かさには驚きました。


さ〜て、次回、2019年7月11日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『Diner ダイナー』です。蜷川実花監督作品を短評するのは初めて。あの色の洪水のような世界を受け止めきれるかしら。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!