京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ライオン・キング』(2019)短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年8月15日放送分
映画『ライオン・キング』短評のDJ's カット版です。

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プライド・ランドと呼ばれるサバンナの王であるライオン、ムファサ。待望の王子シンバが生まれます。シンバの誕生が動物たちに歓迎される一方、王ムファサの弟スカーにとっては、自分の王位継承権が下がることもあり、おもしろくない。王妃サラビをめぐるイザコザも過去にあったスカーは、力では及ばない兄に対して謀略を巡らせる。ハイエナたちと結託してムファサの命を奪い、シンバをも王国から追放してしまう。プライド・ランドとシンバはそれぞれどうなるのか。
 
オリジナルの劇場アニメが公開されたのは、1994年。最近立て続けに実写化されている『美女と野獣』『アラジン』などと同じ、ディズニー第2次黄金期、あるいはディズニー・ルネサンス期の中でも飛び抜けてヒットした作品ですね。観客動員数はアニメで未だに世界一。セルビデオの売上はすべての映画で世界一。当然、スピンオフや続編が作られ、ミュージカルになり、大西ライオンが登場し、ということで、言わずとしれた「名作」とされています。

美女と野獣 (字幕版) ジャングル・ブック (字幕版)

監督は、ジョン・ファヴロー。『アイアンマン』などのアヴェンジャーズものから、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』まで演出できて、俳優としても、先日扱った『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のハッピー・ホーガンなどで活躍する才人ですよ。同じくディズニーの『ジャングル・ブック』実写化の成功を買われての抜擢でしょう。
 
今回は超実写化と言われていますが、フル3DCGで実写のように見せているということですね。要は作り物なんだが、見た目は完全に実写。そして、人間はひとりも出てきません。シンバの声は、チャイルディッシュ・ガンビーノでおなじみのドナルド・グローヴァー。シンバの幼馴染であるメスライオン、ナラはビヨンセが担当しています。

サウンドトラックにもサラッと触れておくと、今回のキャストがエルトン・ジョンティム・ライスのオリジナル版の曲たちを歌っている他、ビヨンセが新曲『SPIRIT』を提供し、エルトン・ジョンはエンド・クレジットのために『Never Too Late』を用意。ファレル・ウィリアムスも5曲でプロデュースを務め、音周りは全体をハンス・ジマーが統括するという、最強の布陣です。
 
それでは、公開当時なんて特に僕は見向きもしなかった作品を、今どう観たのか。制限時間3分の短評、そろそろいってみよう!

ディズニー・ルネサンスのさらなるルネサンスとも言うべき、ここ最近の実写化の流れ。僕がその意義をどう捉えているか、まずまとめておくと、2つあります。ひとつは、今世紀に入ってから飛躍的に前進した3DCG技術を実写と融合させて、技術的な側面からビジュアルを一新するということ。もうひとつは、ふた昔前の物語を現代の価値観にアップデートすること。もちろん、作品によって、そのふたつのバランスとか成否とかってのは違ってくるわけですが、同じくジョン・ファヴロー監督の『ジャングル・ブック』は、そのどちらもが大成功して、なおかつ大ヒットしました。そんな流れの本命・本丸と言えるのが、『ライオン・キング』でしょう。
 
ここでもう僕の結論です。技術は確かに度を越してすごい… ものの、それが故に物語のいびつな要素が露呈している。そして、物語はアップデートにはいたらず、足踏み状態である。そう考えています。

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超実写版という造語がキャッチコピーに使われていますが、はっきり言って、予備知識ゼロで観たら、それこそ幼い子どもが観たら、間違いなく実写そのものだと勘違いするレベルにまで来ています。これはアニメなんだと自分を納得させようとしても、目の前に広がる映像は「アニマル・プラネット」チャンネルの番組なんですよ。それほどに「リアル」な映像を求めるあまり、94年版のアニメであれば気になりづらかった「非リアル」な動物世界というのが浮き彫りになってしまっているという弊害も生まれています。だって、なぜ捕食される草食動物までがライオンを王だと称えるんですか。シンバはあんな食生活で立派に成長できるわけないじゃないですか。これはあくまで人間たちの神話以来の英雄物語を踏まえ、そのパターンをサバンナに置き換えた寓話であって、決してドキュメンタリーではないので、描かれる内容と描く手法にズレがあるのは否めないと思います。
 
続いて、物語のアップデートについて。いくつか違いはあれど、基本的には94年版と大差はないんですね。これ、幼い王子が困難・障壁を乗り越えて、本来の自分の姿、つまり王としての地位を奪還するという、運命を全面的に受け入れる話なんですよね。つまりは、生まれた瞬間から、その身分と歩むべき道筋が定められているって、どうなんですかね? あのプライド・ランドでハイエナに生まれたら、もう最悪ですよ。民主制のかけらもない。っていうようなツッコミも致し方なかろうってくらいに、スカーにしろハイエナたちにしろ、登場したら誰でもわかる悪役面。僕はね、負け犬であるスカーやハイエナたちへの同情を禁じえなかったです。確かに、サークル・オブ・ライフという曲にも出てくる生き物たちの役割ってのが自然界にあることは事実だけどさ、それを言うなら、ハイエナにだって本当は役割があるはずでしょ。だのに、ハイエナはただただ邪魔者として、辺境に追いやられている。そら、怒るよっていう。

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とはいえ、ディズニーもまっとうなメッセージを打ち出していたのは、今回は資源の枯渇についてでしょうね。生き物が他の生き物を捕食するのは仕方ないにしても、資源には限りがあるのだから、バランスとサステナビリティーを考えなければいけないってのは、おっしゃる通りで、そこは強調されていたと思います。でも、それを言うならさ、狩りのシーンは入れようよ。でないと、ただの美談になるし、虫たちは文字通り虫けら扱いなのはどうなんだろうか。あとは、ビヨンセ演じるメスライオンのナラがより自分で考えて理知的な行動をするキャラクターになっていたのも良いです。イノシシにも好感が持てます。こうした現代に合わせたチューニングは多少あるものの、僕はどうせならもっと踏み込むべきだったと思います。でないと、内容の時代錯誤な面がどうしても目立ってしまいますから。
 
なんて色々言いましたが、超実写版という表現もしっかり頷ける、とてつもない表現力は映画史的にも大きな価値がある実験作であることは間違いなし。それこそ虫とか小さな被写体までくまなく鑑賞できるIMAXでぜひご覧ください。

 

ビヨンセの存在感は、この代表曲にしてもやはり抜群でした。そして、近日公開の『ロケットマン』も踏まえて、エルトン・ジョンへの興味を高めてくれました。


さ〜て、次回、2019年8月22日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ダンスウィズミー』です。ミュージカル続きとなりましたが、こちらはミュージカル嫌いな女性が主人公ということで、さすがは矢口史靖監督だけあって、いきなりひねりがありますね。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!