京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ダンスウィズミー』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年8月22日放送分
映画『ダンスウィズミー』短評のDJ's カット版です。

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一流企業に就職して、華麗なる独身ライフを謳歌するOLの静香。ある日、上京した姪っ子に付き添うことになり、時間つぶしに訪れたのは、占いのテーマパーク。小学校で音楽劇で踊ることになったものの、不安で仕方ないという姪を勇気づけようと、怪しげなおじさん催眠術師に「曲が流れると歌って踊らずにはいられなくなるミュージカルスターの催眠」をかけてもらったところ、誤って静香にかかってしまったから、さあ大変。これでは仕事にも恋にも支障をきたすと、術を解いてもらおうとテーマパークを再び訪れると、催眠術師は金に困って夜逃げをしたらしい。静香は仕事を休み、催眠術師のアシスタントをしていた女性とともに、彼の行方を追うのだが…

ウォーターボーイズ [Blu-ray] 映画「WOOD JOB!(ウッジョブ)?神去なあなあ日常?」【TBSオンデマンド】

 監督・脚本は矢口史靖。2001年『ウォーターボーイズ』のヒットで一躍有名となり、近年も『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』は傑作でしたし、このコーナーでは2年前の前作『サバイバルファミリー』を扱って僕も好意的に評価しました。

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主人公静香、そして一緒に旅に出るアシスタント千絵を、それぞれ三吉彩花やしろ優が演じます。催眠術師には、御年85歳、初代『ゴジラ』で主役を務め、日本におけるミュージカル俳優の草分けである宝田明。他にも、ムロツヨシ三浦貴大、そしてシンガーソングライターchayも出演しています。
 
それでは、制限時間3分の短評、そろそろいってみよう!

僕もよく使う言葉に「心躍る」ってのがあります。ウキウキする、ワクワクする、胸が弾むってことですよね。主人公の静香は、冒頭から同僚の女の子たちとシャレたランチを食べ、社内のホープであるイケメンの噂話に花を咲かせている。のだけれども、彼女のちょっとした表情から、そこに本人も気づくか気づかないかってレベルの居心地の悪さも覚えている様子。ここが僕はポイントだと思います。地方から上京、一流企業、タワーマンションでの気ままな一人暮らし。家で言えばモデルルームのような「心躍る」暮らし像に踊らされているんですよ。静香はやがて催眠術にかかるんだけど、ある種もうかかってるとも言える。
 
だから、ミュージカルスターになってしまうという催眠は、確かに彼女の心躍る暮らしを台無しにはするけれど、世間の価値に踊らされていた彼女を解放する効果もあるわけです。小学生時代の音楽劇で受けたトラウマからの解放も重なりながら、彼女は旅に出る。そこでの珍道中で、彼女は上っ面の人づきあいとは違う人間関係を構築し、踊らされるのではなく、自分の意思でステップを踏むことになる。そのダンスはどんなものなのか。

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この作品では、彼女がそのトラウマから忌み嫌っているミュージカルのように、突然歌い踊り出してしまうわけですが、会社だったり、レストランだったり、一度いかにもミュージカルな映像を見せておくんですよね。だから、周りの人も一緒に踊っているんだけど、実際のところは、彼女ひとりの妄想であり、ひとりで踊り狂っているっていう現実がある。要は催眠ですよってことなんだけど、やしろ優と旅に出たあたりからかな、様子が変わってきて、あれ、妄想抜きで現実に踊っている… これは彼女がそもそもかかっていた「一流OLの幸せとはこれ」っていう催眠が解け始めてるってことなんですよ。考えてみりゃ、映画にしろ、舞台にしろ、観客を現実から解放する催眠術という側面もあるわけで、それを踏まえたラストに着地する。これは、『ラ・ラ・ランド』のように、ミュージカルをモチーフにして、キャラクターが自分の人生を獲得するお話。ジャンルとしては、バディもののロードムービー
 
いや、これは矢口監督、さすがの着想ですよ。矢口さんの作品は、仏頂面だったりぎこちない笑顔で何かをする羽目になる人がよく出てきますけど、三吉彩花の表情もハマっていたし、chayがある場面で見せる振り切れた表情も最高でした。昭和の名曲をメインにした選曲には賛否ありますが、彼女の中では、トラウマを覚えたあの音楽劇での失敗以来、音楽への興味も止まっていたと考えれば、まあ頷けるかな。

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なんか、褒めてるというか、よく考えられてるって言いました。が、僕が心躍ったかと問われると、実はそうでもないんですよ、これが。宝田明を引っ張り出したり、シャンデリアを使ったネタで映画史への目配せとかあるんだけれども、音楽はオリジナルでやってほしかったです。chayが歌うある曲以外は、パッと聞いてキャラクターの気持ちと音楽がリンクしないし、どうしたって歌唱も演奏もオリジナルに及ばないという印象を抱いてしまいますよ。あとは、後半のドタバタは楽しい一方、いくらなんでも勢いで押し切りすぎだろってくらいにご都合主義で、気持ちと行動がのみこめないところも結構あったかな。
 
ただ、意欲作ではあるし、東北から北海道へのロードムービーはやっぱり良いです。なんだかんだ笑える部分もたくさん。世間の価値観に踊らされているかもしれないそこのあなた。僕の言葉に踊らされず、劇場で確認してください。


物語が終わって、エンドロールで流れるのが、この大名曲。オフショットってな感じで役者たちが集ってみんなでこの曲でノリノリ。ま、打ち上げで盛り上がる調子なんだけど、この曲については主人公静香が小学校時代のトラウマを引きずっていたという設定からも、頷けるチョイスかなと思います。


さ〜て、次回、2019年8月29日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ロケットマン』です。来ましたよ、僕のこの夏の大本命が!! 『ボヘミアン・ラプソディー』のデクスター・フレッチャー監督が、今度はエルトン・ジョンを題材に。エルトンはなぜあのド派手な格好でステージに上るのか。エルトンの歌を口ずさみながら劇場へ向かうことにします。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!